第1回を見た時点では、過去の日曜劇場の人気作のエッセンスを取り混ぜたような印象を受け、いまひとつ、このドラマの独自性をつかみかねていたのだが、先々週7月14日放送の第2話を見て、やっと見えてきた。
大泉洋演じる本作の主人公で、トキワ自動車府中工場の総務部長とラグビーチーム「アストロズ」のGMを兼務することになった君嶋隼人は、ラグビーについての知識は皆無に等しい(この点は多くの視聴者も同じではないか)。だが、それまでに本社の経営戦略室でさまざまなノウハウを培ってきた。第2話で君嶋は、前任者が体調不良のため退任して以来、懸案となっていた次期監督探しに奔走するが、そのなかで培ったノウハウがたびたび活きることになる。
新監督候補は、君嶋の昔の恋敵
まず、検討されたのはどんな人物を監督に据えるのかということだ。当初は前GMの吉原(村野雄浩)の手で2人の人物が候補にあがっていたが、どうも決め手に欠けた。人選が難航するなか、アストロズの主将の岸和田徹(高橋光臣)やアナリストの佐倉多英(笹本玲奈)たちから、君嶋は本社で経営戦略室での経験を踏まえ「いい経営者とはどんな経営者なのか」と質問される。君嶋によれば、失敗する経営者の多くは事業を興しても失敗を繰り返す。負け癖がついているからだという。これに対して、成功する経営者は、どんな事業をやっても何とかうまく軌道に乗せることができる。勝ち方を知っているからだ。君嶋は「私には監督の良し悪しはわからないが、経営者の良し悪しはわかる。何せいままで何百人、何千人と見てきたからね」と口にしたところで、以前、佐倉から「監督は社長と同じ」と言われたことを思い出す。
そこで君嶋たちが思い出したのが、つい先日、強豪である城南大学のラグビー部監督を更迭されたばかりの柴門琢磨(大谷亮平)だった。もっとも、君嶋は柴門に対して複雑な思いがあった。大学の同期である柴門は、学生時代はスター選手で女子学生にもモテモテだったのに対し、君嶋は勉強はできるが、目立たない存在だった。あるとき、「ラグビーなんか消えてなくなれ」と思わず殴り書きしたノートを、もののはずみで柴門に貸してしまっていた。また、君嶋がひそかに思いを寄せていた女子学生を、柴門にとられたという妬みもあった。
君嶋は、そんな過去のしがらみは断ち切って、柴門に監督就任を打診するべく電話をかけた。しかし、取りつくシマもなく断られてしまう。それというのも、柴門はかつてアストロズから監督を打診されながら、あとから一方的に断られていたからだった。当時のアストロズのフロントはすでに監督候補を一本化していたにもかかわらず、当時の副部長にはそれが伝わっておらず、柴門にオファーしてしまっていたのだ。このときの副部長こそ、君嶋を本社から府中工場に飛ばした張本人の現常務・滝川桂一郎(上川隆也)だった。
それでも、交渉のできないまま終わっては満足いかない君嶋は、柴門に手紙をしたため、過去の一件を詫びるとともに監督就任を再検討してくれるよう懇願する。さらに直接会って説得に赴いた。柴門は学生時代、君嶋と一言も話をしたことのなかったにもかかわらず、彼の顔を見てすぐに気づいたうえに、何と借りたノートにあった「ラグビーなんか消えてなくなれ」という殴り書きもちゃんと覚えていた。お互いに好きではなかったが、奇妙な巡り合わせで再会した二人は、しだいに歩み寄る。
柴門の説得にはもっと時間がかかると思ったが、案外、とんとん拍子に事が進んでいったのがちょっと意外だった。しかし、これですぐに監督就任が決まったわけではない。君嶋の案内で府中工場を訪れた柴門は、グラウンドで練習するアストロズを見て、早くもチームにふさわしい戦略を描き始める。彼によれば、ラグビーでは15人の選手のそれぞれの特性をうまく活かせば、15が100にもなるし、噛み合わなければ0になるという。どうやら、柴門はやる気になってくれたようだ。それでも柴門は社会人チームの監督経験はないため、選手たちが本当に監督が自分でいいのか選手たちに確認したうえ、一人でも反対する者がいれば引き受けないと条件をつけた。
選手たちの意向をたしかめるに際し、柴門はまず自分からアクションを起こす。アストロズの試合をVTRで綿密に分析したうえで、選手全員分の特性や欠点を指摘するペーパーを用意したのだ。
会社の経費削減は「一番多いところから」だが、ラグビーチームでは?
こうして柴門は監督に就任し、さっそくアストロズの戦力強化に向けて、合宿の実施などプランを提案する。しかしこれをめぐって君嶋と衝突する。柴門のプランは現在の予算ではとうてい実現不可能だったからだ。君嶋から、追加予算は経理部に突っぱねられたと伝えられ、怒った柴門は監督をやめるとまで言い出す。
だが、これにも理由があった。城南大学のラグビー部の予算はOB会長の津田に掌握されており、柴門は自由に使わせてもらえなかったらしい。それでも彼はスポンサーを募って自力で資金を集めたという。それが津田の怒りを買って更迭される一因となった。それだけに、新たに赴任したアストロズでもカネの問題に直面したため、柴門は怒りを爆発させたのである。
事情を知った君嶋は、柴門そしてアストロズのために、予算を再検討する。だが、削減できる費用はどこにもなさそうだ。「会社の経費とはわけが違う」と愚痴る君嶋に、佐倉がふと「そういう場合はどうするんですか?」と訊ねる。君嶋の答えは「出費の多いところから手をつける」。ここでもまた、期せずして経営戦略室でのノウハウが活かされることになる。予算でもっとも出費が多いのは、プロ契約した外国人選手2人の年棒だった。もっとも、重要な得点源である2人を外すわけにはいかないと、佐倉には釘を刺されるのだが……。そこで君嶋が思い出したのは、就任前に柴門が教えてくれた「1×15=100」の方程式だった。
このあと、佐倉とともに細かく分析した結果、外国人選手との契約を解除しても、その穴はほかの選手によって埋められると判断、柴門もこれに承諾する。しかしこれだけではまだ予算から削れるのは1億円に満たない。君嶋は何とか合宿を短縮することで納得してもらおうとするが、柴門はコーチ業務委託費の削減を提案する。コーチを雇う代わりに、全体とバックス陣は柴門が面倒を見ることにし、フォワード陣は選手の本波寛人(天野義久)に任せることにしたのだ。
看板だった選手2人との契約解除に、本社での役員会議では猛反対の声が上がるが、君嶋は毅然として「プラチナリーグで優勝して、アストロズの名を、トキワ自動車の名をこの国のみなさんに広く知っていただく。それが我々の目標です。どうかご理解いただけないでしょうか」と訴えた。これを受け、社長の島本博(西郷輝彦)の「アストロズのGMは君嶋君だ。その彼が決めたことだ。任せたぞ、君嶋」という鶴の一声で、予算案は無事認められる。
その後、グラウンドで柴門が選手たちに向かって、いままでのチームスタイルはすべて忘れろと告げる。レギュラーメンバーもすべてに白紙にするから、全員にチャンスがあると言うと、選手たちの士気は一気に高まった。その様子を見て「ようやく始まったな」と君嶋が言ったように、新生アストロズはやっとスタート地点に立ったばかりだ。今後どんな苦難が待ち受けるのだろうか。今夜放送の第3話の予告では、君嶋がまわし姿になっていたのも気になるところである。(近藤正高)