「認知症になったら、それまでの自分を失ってしまう」と、恐怖感を覚えている人は少なくないようです。実際には、認知症になっても、その人らしさが完全に失われるわけではありません。
しかし、できるだけ予防したい病気の1つであることは確かでしょう。

そもそも、「年齢とともに脳が衰えるのは仕方ない」と思っていませんか? その考えは、必ずしも正しくありません。認知症は、誰もがなりうる病気ですが、生活習慣によって、発症リスクを下げたり、進行を遅らせたりする可能性があると報告されています。

日常のちょっとしたポイントを押さえることで、脳の活力が保て、将来の認知症予防につながる可能性があるのです。例えばWHO(世界保健機関)は、2019年に「認知症予防のための12の提言」を公表し、それぞれの推奨度やエビデンスレベルを示しています。

今回は、2026年に発表された最新の論文をもとに、40代・50代のうちに意識したい「脳の健康づくり」のコツをご紹介します。

■日本人の認知症リスクを上げる「難聴」「運動不足」「脂質異常」
最新の研究によると、認知症の約38.9%が日常生活の工夫で予防できる可能性があると報告されています。

発表された論文によると、日本人における認知症にかかわる14のリスク要因として、以下のものが挙げられています。

・教育歴
・難聴
・高LDLコレステロール
・うつ
・脳外傷
・運動不足
・糖尿病
・喫煙
・高血圧
・肥満
・過度の飲酒
・社会的孤立
・大気汚染
・未治療の視力低下

なかでも影響が大きいとされた上位3つは、以下の通りです。

▼1位:難聴(影響度6.7%)意外に思われるかもしれませんが、日本人の認知症リスクのトップは「難聴」でした。音が聞こえにくくなることで脳への刺激が減り、コミュニケーションの機会も減少しがちになります。これが脳の健康に影響すると考えられています。


▼2位:運動不足(影響度6.0%)日本は交通機関が発達し、デスクワークの仕事も多いため、日常的に体を動かす機会が少ないです。体を動かさないことで全身の血流が悪くなり、脳に十分な酸素や栄養が届きにくくなります。また、運動をすれば、脳の神経回路を育てて守るための栄養分(「BDNF」と呼ばれるタンパク質など)が増えやすくなることも分かっています。

▼3位:脂質代謝異常症(高LDLコレステロール)(影響度4.5%)40~50代になると健康診断で指摘される人が増えるコレステロール異常も、大きなリスク要因の1つです。コレステロール異常も、運動不足や食生活といった生活習慣と深く結びついています。血管の健康は、脳に影響を及ぼすのです。

これらのほかにも、人とのかかわりが減る社会的孤立や高血圧、糖尿病なども、重要なリスクとして挙げられています。

■今日から実践! 脳を若々しく保つ生活習慣、3つの新常識
上位のリスク要因は、いずれも日常生活と密接に関係しています。将来の脳の健康を守るために、今からできる3つのポイントを紹介します。

▼1. 耳の健康を守る難聴は高齢になって突然始まるわけではありません。「人と話しているとき、聞き返すことが増えた」「イヤホンの音量が少し大きくなった」と感じたら、耳鼻咽喉科での聴力チェックを検討しましょう。

40~50代で、もし聴力の低下が見られた場合、軽く考えてはいけません。
耳のセンサーである有毛細胞は非常にデリケートで、大きな音を長時間聞き続けることでダメージを受けます。一度失われてしまうと基本的に元には戻りませんので、失わない工夫が大切です。

・動画視聴や音楽を聴くとき、イヤホンの音量は控えめにする
・イヤホンを1時間連続で使用したら、10~15分は外して耳を休ませる

小さな習慣の工夫が大切です。

▼2. 1日20分の運動を習慣にする北海道教育大学の研究では、20分程度の運動でも脳によい影響があるとされています。

短い運動でも、脳の中で記憶をつかさどる海馬という部分が刺激されるようです。「長期増強(LTP)」と呼ばれる、記憶定着にかかわる働きが促されると考えられています。ジムに通ったり、激しいスポーツをしたりする必要はありません。大切なのは、毎日の生活の中で少しでも体を動かす時間を増やすことです。

・通勤時にいつもより少しだけ早歩きをしてみる
・エスカレーターではなく、階段を使ってみる
・テレビを見ながら、または家事の合間に、軽いストレッチをする

無理のない範囲で体を動かすことが大切です。

▼3. 血管の健康を意識するコレステロールや血圧の異常は自覚しにくく、気付かないまま進行してしまうのが怖いところです。健康診断で「やや高め」と指摘された場合は、「特に困っていないから大丈夫」と考えず、食生活を見直すタイミングと捉えましょう。

・肉類などの脂質の多い食事を少し控える
・青魚や大豆製品(豆腐・納豆など)、野菜を意識して積極的にとる
・必要に応じて医療機関に相談する

といった対策が有効です。


■脳の健康は、生活習慣を少し工夫するだけで大きく変わる!
認知症を完全に防ぐ方法は、現代の医学ではまだ確立されていません。しかし、生活習慣のちょっとした工夫で、よい変化が期待できるのであれば、できるところから始めてみるべきでしょう。

脳の健康は、上記の通り「耳を守る」「体を動かす」「検診結果に目を向ける」といった日々の積み重ねで大きく変わります。加えて、日常生活を少しだけ意識することが大切です。

・適度な運動を続ける
・会話や趣味で人とかかわる時間を持つ
・バランスのよい食事を心掛ける
・質のよい睡眠をとる
・糖尿病や高血圧などを放置しないで受診する

不安が強くなると、「ちょっとした物忘れ」に過敏になることもあります。そのようなときは一人で抱え込まず、家族や医師に相談することも大切です。

人生100年時代。自分らしい毎日を長く続けるために、ぜひ今日からできることを考えてみましょう。

■参考文献
Koichiro Wasano,Kasper Jørgensen.The potential for dementia prevention in Japan: a population attributable fraction calculation for 14 modifiable risk factors and estimates of the impact of risk factor reductions.Lancet Reg Health West Pac.2026 Jan 11:66:101792.

Noriteru Moritaa,Toru Ishiharab,Charles H. Hillman,et al.Movement boosts memory: Investigating the effects of acute exercise on episodic long-term memory.JSAMS 2025;28:256-259.

20分間の運動で記憶力アップ!8週間後も効果が続く!.国立大学法人北海道教育大学 岩見沢校芸術・スポーツ文化学科

▼秋谷 進プロフィール小児神経学・児童精神科を専門とする小児科医・救急救命士。プライベートでは4児の父。子どもの心と脳に寄り添う豊富な臨床経験を活かし、幅広い医療情報を発信中。
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