TBSの日曜劇場『ノーサイド・ゲーム』(日曜よる9時)には、これまでの日曜劇場と同じく異色のキャストが目につく。
「ノーサイド・ゲーム」アストロズ地域ボランティア開始。背景に「日本のラグビーはなくなる」危機感?3話
イラスト/まつもとりえこ

リットン藤原、子役の右近……異色のキャスティング


たとえば、主人公の君嶋隼人(大泉洋)が赴任したトキワ自動車・府中工場の工場長を演じているのは、誰かと思えば、お笑いコンビ・リットン調査団の藤原光博だ。リットン調査団といえば、日曜劇場と同じくTBSの『水曜日のダウンタウン』の「いまだにバイトしているもっともバイト歴の長い芸人、リットン調査団説」という企画でとりあげられていたのを思い出す。
清掃業のバイトを長らく続けているという藤原だが、こうしてドラマのなかとはいえ、工場長にまで出世したというのが何だかうれしい。

君嶋の長男・博人役で出演する市川右近も、面構えからして我慢強そうな雰囲気を醸し出している。のほほんとした雰囲気の大泉洋からはたしてこんな子供ができるだろうかと思うほどだ(失礼!)。父親の市川右團次は、歌舞伎の家以外から部屋子として入門し、苦労しながら芸をきわめた人だけに、息子にも我慢することをしっかり覚えさせたのではないかと、思わず想像してしまう。

歌舞伎役者の子供といえば、博人の母親で、君嶋の妻・真希役の松たか子もそうだ。松演じる妻は、第1話から夫に対し何かにつけて口やかましい“恐妻”ぶりを発揮している。先週7月28日放送の第3話でも、真希がサッカーのFC東京のファンクラブに入ると言うので、君嶋は自分がゼネラルマネージャー(GM)を務めるトキワ自動車のラグビーチーム「アストロズ」のファンクラブにも入ってくれるよう頼むも、にべもなく断られてしまった。口説くのなら、アストロズのどこがいいのか、ラグビーのどこが面白いのかちゃんと説明しろと言うのだ。こうして見ると、彼女は性格はきついが、話の筋は通っている。それゆえ、ときには君嶋の仕事についてさりげなく示唆も与えてくれる、ありがたい存在でもあったりする。ちなみに松たか子は、本作以前に出演した連続ドラマ「カルテット」でも、マキ(表記こそ「真紀」と違うが)という役名だったが、これは偶然?

予告に出てきた「大泉洋のまわし姿」の謎が氷解


第3話は、アストロズの面々が、タックルに必要な足腰を鍛えようと、相撲部屋に体験入門する場面から始まった。なぜかGMの君嶋までまわしをつけさせられ、力士相手にぶつかり稽古をすることに。その相手は何と、大関・栃ノ心!(先月の名古屋場所では残念ながら休場したが) ほかに小結の栃煌山も登場し、何とも豪華だった。


このように異色のトレーニングも取り入れながら、アストロズは着々と強化を進める一方で、国内リーグ開幕を前に、観客動員数の低迷に君嶋は頭を悩ませていた。そもそもリーグを統括する日本蹴球協会も、予算の大半を日本代表の強化につぎ込んで成功する一方で、リーグにはあまり力を入れていなかった。君嶋は、リーグの全チームのGMが集まる協会の会合に出席した際、国内のラグビーファンを増やすために協会として今後どのような取り組みを行なうのかと専務理事の木戸(尾藤イサオ)に質問する。だが、あらかじめアストロズ監督の柴門琢磨(大谷亮平)に言われていたとおり、協会はラグビーの元選手によって構成されたきわめて閉鎖的な組織で、外部出身の君嶋は冷たくあしらわれてしまう。

そこで君嶋は独自にアストロズのファンを増やすため、選手が地域の人たちと交流する機会を設けることにした。それは街頭の清掃であったり、お年寄りや子供との交流であったり、商店街でのイベントの手伝いだったりと、さまざまであった。もちろんすべてボランティアだ。だが、観客動員のため、ファンクラブのホームページづくりなどカネが必要なことはどうしても出てくる。君嶋はこのために本社に追加予算を要請したところ、会議で因縁の相手である常務の滝川(上川隆也)から意外にもすんなり予算案が認められた。ただし、「ここまでやった以上、結果は出ませんでしたでは済まされない」と釘を刺される。それは、追加予算を認めた以上、それと引き換えに客を集められなければ、アストロズは廃部にするという宣告でもあった。

ボランティアを始め、地域の人たちと関係を深めるなか、君嶋の意向を受けていつも動いてくれていた主将のテツこと岸和田徹(高橋光臣)が練習中にケガをして入院してしまう。
これをきっかけにボランティアに対し、選手たちから練習時間がとれないなどといった不満から、もうやめるとの声が噴出する。それでも、君嶋は一つひとつ進めていくしかなかった。「たしかにいまは向かい風かもしれないけど、私はあとちょっとだと思ってるんだけどな」「会社もそうだ。初めから上手くいくなんてことはない。ここであきらめちゃいけないんだよ」と、あくまで希望を失わない。

テツは一日で退院でき、君嶋が迎えにいくと、彼は何かを悟ったようだった。以前病院にボランティアに訪れた際、テツは車いすの少年に「勇気」とサインしたラグビーボールを贈っていた。入院先の病院で、彼はその少年の母親(ホラン千秋)から、ボールのおかげで手術を安心して受けられたと感謝を伝えられる。そのとき、テツは自分たちのやってきたことがちゃんと人々に届いていたことを知ったのだ。

ボランティアとは未来への投資だ!?


しかし、ほかの選手たちはまだ不満を持っていた。飲み会であらためてそれが噴出したとき、君嶋は、ボランティアの目的の一つとして「未来への投資」をあげ、説明する。そこで彼が語ったのは、アストロズのみならず、日本のラグビー全体に対する懸念であった。
「いま、この国からラグビーそのものが消えかけようとしているんじゃないか」「このままラグビーの人気がなくなっていけば、日本のラグビーは必ず弱くなる」「いまはまだラグビーを支えようとするしくみがある。だが、この先、ラグビーに何の愛着もない経営者が増えて行ったら、会社の予算に依存している社会人ラグビーなんかひとたまりもない」「私は自分が手がける以上、そんな夢のない未来はお断りだ」「いまのわれわれにできることは、一人でも多くのラグビー好きの子供たちを増やすことじゃないのか?」……選手たちのボランティアもそのための活動であった。

スポーツがいかに社会と接点を持つかとは、同じく日曜夜に放送中のNHKの大河ドラマ「いだてん〜東京オリムピック噺〜」のテーマでもあるが、「ノーサイド・ゲーム」はそれをさらに現代の問題としてとりあげたともいえる。君嶋の語った日本のラグビーへの危機感も、この秋にはワールドカップ開催を控えるいまだけに、なかなか踏み込んだ内容だった。

君嶋の説明のあと、さらにテツが、病院で以前自分たちの配ったボールで子供たちがラグビーに興じていたことを話す。「俺はもっとたくさんの人がラグビーを好きになってくれるよう頑張る。みんなはどうだ?」。キャプテンにそう言われては、ほかの選手もやらないわけにはいかない。こうして再びアストロズの心が一つになり、地域の人たちとの交流が再開される。あわせて開幕戦に向けてチームづくりも最終段階に入った。

そして迎えたリーグ開幕戦。試合前の練習が終わるころにも、スタジアムには観客がほとんどいない。
選手たちはその光景に落胆するが、そこへ徐々に、ボランティアで見知った人たちがスタンドに現れる。じつはファンクラブの会員数はそれまでに5000人を超え、開幕戦のチケットも前売りで1万2千枚も売れていた。それを君嶋は選手たちにはあえて黙っておき、サプライズとしたのだ。いつのまにか満員になったスタジアム。ついに試合開始のホイッスルが鳴る。さて、アストロズはどんな活躍を見せてくれるのか。今夜放送の第4話も見逃せない。(近藤正高)
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