TBSの日曜劇場「ノーサイド・ゲーム」を見ていて、気になることが一つある。それは、ナレーションを主人公・君嶋隼人(大泉洋)の妻の真希(松たか子)が担当していることだ。


それも、よく聞けば、ドラマのなかで進行しているできごとについて、過去から振り返るような視点で語っているのが気になる。これは一体、どんな意味を持つのか。ちなみに、ドラマのなかの時間はいまのところ「2018年」らしい。ということは、終盤に向かうにつれ、劇中の時間も2019年の現在に近づいてくるということなのか……。そんなところも含めて、「ノーサイド・ゲーム」の世界には回を追うごとに引き込まれている。
「ノーサイド・ゲーム」あの落語家のジュニアが「All for One,One for All」4話
イラスト/まつもとりえこ

取材されたのに記事の中身が変更されていた!


先週8月4日放送の第4話では、前回のラストで開幕したプラチナリーグの初戦で、君嶋がゼネラルマネージャー(GM)を務めるトキワ自動車のラグビーチーム「アストロズ」が、集まった数万人もの地元ファンを前に勝利する。幸先のいいスタートではあったが、君嶋が本社へ報告に赴いたとき常務の滝川(上川隆也)に言われたとおり、満員になったのは開幕戦だけで、観客数はその後減り続けた。

このあとも、君嶋とアストロズはさまざまな苦難に直面する。君嶋は、世間では日本代表ぐらいしか注目されないラグビーを盛り上げるためには、メディアも押さえねばならないと考え、まずはビジネス誌に企画を売りこんで、アストロズを取材してもらう。取材に来た記者も、主力の外国人選手が抜けたにもかかわらず、アストロズが去年よりも強くなっていることにおおいに関心を示してくれた。しかし、発売された雑誌を確認すると、なぜか社会人ラグビーの強豪サイクロンズの監督・津田(渡辺裕之)が大きく扱われ、先日取材を受けたはずのアストロズ監督の柴門(大谷亮平)の記事は隅に追いやられていた。どうやら、君嶋の動きを知ったサイクロンズのGM・鍵原(松尾諭)の仕業らしい。

君嶋はまた、エースの里村亮太(住久創)がけがをした際、チームの選手層の薄さを柴門から指摘されると、七尾圭太(眞栄田郷敦)という学生時代に注目されていた元選手と面会し、アストロズ入りを打診していた。
七尾は、留学先のニュージーランドから帰国してトキワの3次面接まで残っていた。しかし君嶋の申し出は、日本ではラグビーで食べていくのは難しいと断られてしまう。

「カメ止め」俳優が取引先の担当者として登場


里村のけがは、アストロズのアナリスト(チームの各種データを分析して助言を与える役職)である佐倉(笹本玲奈)が、もう少しデータをとりたいと練習を延長してもらったところで起きた。延長にあたっては、ラグビー部員の一人である佐々一(林家たま平)が、佐倉の意向を選手たちに伝えたのだが、里村のけがにより、佐々も責任を問われてしまう。

佐々はこの回のキーパーソンともいうべき役どころだった。これより前には、営業部でたまたまとった電話で、取引先より営業部の社員宛てに面会の時間変更を言付かるも、社員に肝心の時間を誤って伝言してしまった。それに気づいて、取引先へお詫びとして、里村のサイン入りのラグビーボールを持って行く。担当者の青野(濱津隆之……映画『カメラを止めるな!』の主演俳優)がラグビーのファンだと知った上でのことだったが、じつは青野はサイクロンズのファンで、かえって顰蹙を買う。その直後、くだんの取引先が、トキワ自動車に発注したゴルフカートをキャンセルすると申し入れてきた。先方はその理由を説明しなかったが、トキワ社内では佐々が青野の機嫌を損ねたからではないかという疑惑が浮かぶ。

そこへ来て、トキワ自動車によるカザマ商事の買収話がまとまろうとしていた。この買収は滝川が主導していたもので、君嶋はそれに反対したために府中工場に飛ばされていた。買収額は君嶋が反対したときより若干安くなったとはいえ、彼はどうも釈然としない。


佐々への疑惑が払拭される


さて、大口の取引をふいにしてしまったうえに、チームのエースをケガさせてしまい、佐々は自分を責め、ついには君嶋に辞表を提出する。ちょうどそのとき、工場周辺で騒ぎが起こっていた。君嶋が確認したところ、それはゴルフ場開発の反対デモだった。自動車メーカーのトキワに対しなぜそんな抗議が……と思って調べたところ、買収相手のカザマ商事傘下の会社が府中工場付近でゴルフ場建設を計画していたらしい。その会社は、何と例の取引先だった。君嶋はさっそく担当の青野を訪ねる。青野によれば、地元住民からの反対を受けてゴルフ場建設をいったん中止したという。じつはトキワにゴルフカートの発注をキャンセルしてきたのも、そのためだった。

こうして、先の取引中止が佐々のせいではなかったことがあきらかになる。青野はまた、佐々がラグビーボールを持ってやって来たとき、チームメイトの里村を誇りに思うと言っていたのを聞き、アストロズはいいチームなのだろうと思ったと君嶋に打ち明ける。そしてアストロズの試合は、ぜひ自腹を切って観に行きたいとまで言ってくれたのだった。

佐々は失敗したはずが、アストロズにとっては十分に手柄を立てたことになる。君嶋は、佐々がレギュラーにはなかなか入れないものの、日頃からチームのために、さまざまな雑用を率先してやってくれていることに気づいていた。
チームメイトもそんな佐々に文句を言いながらも、本心では信頼している。そう君嶋に言われて、佐々は自分がチームのために役に立てていることにやっと気づいた。君嶋から辞表を返されると、その場で破り捨てて、仲間たちのもとへ駆けていく。まさにラグビーでよく言われる「All for One,One for All」の精神がよく表れたエピソードであった。

今回はまた、佐倉がアナリストになった理由も明かされた。じつは佐倉の父親はアストロズをかつて優勝に導いたキャプテンだったが、彼女の幼いころに病気で亡くなったという。父親は亡くなる前日、娘を相手に「ラグビーでの友情は生涯の友情なんだ。どんな苦境でもけっして色あせる者じゃないんだ」と語っていた。佐倉はいまのアストロズにも父の言葉どおりであってほしいと、涙ながらに訴えるのだった。「どんな苦境でも友情はけっして色あせない」……その言葉は、佐々がチームメイトに再び受け入れられたことで証明される。

佐々演じる若手落語家はあの人の息子!?


それにしても、佐々を演じる林家たま平という若い役者は、気弱だけど誠意ある役柄を見事に演じて、いい味出してるなーと思って調べたら(名前から落語家だということはわかったが)、林家正蔵の息子だと知って驚いた。そういえば父親の正蔵も、林家こぶ平時代にアニメ「タッチ」で、明青学園野球部にて主人公の上杉達也・和也兄弟とバッテリーを組んだキャッチャー・松平孝太郎を好演していたのを思い出す。
たま平の落語のほうもぜひ聴いてみたい。

たま平のほか、君嶋の家族を演じる松たか子、市川右近といい、伝統芸能の家に生まれた出演者の目立つ「ノーサイド・ゲーム」だが、今夜放送の第5話では、やはり伝統芸能(歌舞伎)の家出身の中村芝翫がトキワの買収相手となるカザマ商事の風間社長の役で登場する。買収をめぐって陰謀が渦巻くさまも描かれるというので、日曜劇場ファンとしては見逃せない!(近藤正高)
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