
「圧力」から「忖度」へ
池上はこの回でまず、忖度という言葉について《本来は相手の立場や気持ちを慮るという麗しい配慮を指す言葉だったはずなのですが、いまや上司や権力者の気持ちを勝手に解釈して、怒らせないようにしよう、喜ばせよう、と自主的に動くことを言います。とりわけ官僚の世界に、蔓延しているようです》と、近年になってその意味が変わってきたことを指摘している。そのうえで、自分が仕事をしているテレビの世界にも《忖度はあるのか。あるのです。かつてのような政治家からの露骨な圧力はなくなりましたが、圧力を受ける前に忖度し、結果的に圧力がかからないという状態になっているように思えます》と、はっきりと書く。
かつてテレビの世界では、政治家からあからさまな圧力を受けて、予定されていた番組の放送が中止されたり、ニュースキャスターが降板するということもあった。1968年には、TBSのニュース番組「JNNニュースコープ」でのベトナム戦争報道を「反米的」と捉えた与党自民党の幹部が、TBSの社長を党本部に呼びつけ、結果的にキャスターの田英夫が番組降板に追い込まれている。このとき、TBSの社長に対し、当時の自民党幹事長の福田赳夫(のちの首相)は、放送免許の剥奪すら匂わせたといわれる。