「この漢字何と読む?」との問いは正しいのか「和七」って何と読む?米光一成の表現道場

前回の「難読漢字くいしんぼう編」で、以下のようなコメントがあった。
“鳳梨はパイナップル、珍珠はタピオカ(のボール)のことだとしても、(日本で)鳳梨をパイナップル、珍珠をタピオカと読むかどうかは別問題では? 基本的には中国語圏での名称だろうし。


興味深い指摘だ。
もちろん中国で使われている漢字が、日本でも使われているか、同じモノの名として読むかどうかは別問題だ。

日本で、そう読んでいる場があるかどうか


そこで、出題漢字を選ぶときに、基本的に「日本で、そう読んでいる場があるかどうか」を確認した。
「この漢字何と読む?」との問いは正しいのか「和七」って何と読む?米光一成の表現道場

たとえば、「鳳梨」は、北原白秋「フレップ・トリップ」に出てくる。
“深い緑のトマトの葉、褐色の鳳梨(パイナップル)やが、朱紅色の土の上に、まるで印度更紗(インドさらさ)のように、いやそれよりも生々しい極彩色の絵模様として綴られてあった。”
「鳳梨」に「パイナップル」とルビがふられている。

前回の記事にも書いたが、正岡子規の「病牀六尺」にも登場する。

“されど鳳梨(パインアップル)を求め置きしが気にかかりてならぬ故休み休み写生す。”
こちらは、「鳳梨」と書いて「パインアップル」だ。
「鳳梨酥」に「パイナップルケーキ」とルビをうっているケーキが実際に販売されてもいる。

こういった実例を確認して「日本でも鳳梨をパイナップルと読む」と判断した。
漢語として使われていてのだ。

では、珍珠は?


「この漢字何と読む?」との問いは正しいのか「和七」って何と読む?米光一成の表現道場

「珍珠をタピオカと読む」は、「青空文庫」を検索しても、その実例は出てこない。
だが、タピオカミルクティーの店に行くと、メニューに「珍珠」とあり、それを「タピオカ」と読んでいる女の子たちがいる。

スーパーに行くと、冷凍したタピオカが売られていて、「珍珠」の表記の上に「タピオカ」と記されている。
現実に、日本で「珍珠をタピオカと読む」場が存在するのである。
というような確認をして、出題した。

何をもって、その漢字を「そう読む」と言えるのか。
「檸檬」は何と読むか?
これも、中国語「檸檬(ネイモウ)」からの借用だ。
梶井基次郎の代表作「檸檬」が有名だから、多くの人が「レモン」と読むだろう。

「胡麻」をゴマと読み、「海鼠」をナマコと読み、「西瓜」をスイカと読み、「人参」をニンジンと読み、「肉」をニクと読む。
漢語として、そう読んでいる。

何と読む?「和七」


「この漢字何と読む?」との問いは正しいのか「和七」って何と読む?米光一成の表現道場

「和七」は何と読むか?
これは、滑稽本『浮世風呂』『浮世床』で知られる式亭三馬が「小野愚嘘字尽」で出題した漢字あそびだ。

正解は、「とだな」だ。
「この漢字何と読む?」との問いは正しいのか「和七」って何と読む?米光一成の表現道場

和は「大和(やまと)」の「と」であり、七は、「七夕(たなばた)」の「たな」。
あわせて「とだな」である。


言葉は、なんと複雑怪奇で、豊かなんだろう。
おそれ入谷の鬼子母神である。
最後に、もう一問。
「海年寸蠣」は何と読むか?
「この漢字何と読む?」との問いは正しいのか「和七」って何と読む?米光一成の表現道場

(テキスト:米光一成 タイトルデザイン/まつもとりえこ)