前回は、天才・金本(駿河太郎)の相方として苦悩してきた藤川(尾上寛之)が、過去を回想しながら準決勝の舞台に立つという藤川回だったわけだが、今回は藤川の訃報を受けた金本回。
いたたまれない生放送をやりきる駿河太郎の熱演
決勝進出が決まった夜に、喜びのあまりパンツ一丁で雪の降る街に飛び出した藤川が凍死するという悲劇的な展開。
既に死んでいるとも知らずに、ようやく父親の漫才の面白さを理解できた藤川の息子が、学校の作文で父親について読み上げていたり、その音声をバックに妻(黒坂真美)が藤川の死を知らされたり。さらに、ヤケクソになった金本が飲み屋の酔客とケンカしてボコボコにされたり……。視聴者を泣かせにくるシーンの連発。
さすがにあざといのだが、演出の劇団ひとりは、こういう涙泥棒的な展開、好きそうではある。
やはりクライマックスは、藤川の遺体に対面した後、金本がひとりで挑んだラジオの生放送だだろう。
リアルでも、相方が逮捕されちゃったり、不祥事を起こしちゃったりで、不穏な雰囲気ではじまる芸人のラジオというのは何度か聴いたことがあるが、何を言っても笑えるわけもなく「1回くらい休んでもいいのになぁ〜」と思うケースがほとんど。
もしも相方が死んだ夜にラジオの生放送があったとしたら、それ以上に悲惨な放送になること必至だ。金本の放送は、まさにそれを体現したかのような、聴いていていたたまれない内容だった。
「今日もリスナーを笑わす。いつもみたいなアホな話もするし、コーナーもやる!」
と言って放送開始したのに、全然しゃべれていないし笑える要素もナシ。地獄!
なぜか前に座らされることになった上妻圭右(間宮祥太朗)が思わず入れてしまったツッコミをも面白くない。地獄!
こんな放送事故状態の番組を、「藤川と俺で築き上げてきたメチャメチャおもろい番組なんです」という意地の一点突破で続けるが、途中で張り詰めていた意識が切れて大号泣してしまう。
これもベタな泣かせシーンではあるが、駿河太郎の熱演に引き込まれた。リアルに好きな芸人がこの放送をやっていたとしたら、そりゃあ泣く!
……ファン以外が聴いていたらポカーンだろうけど。そして翌日、確実にネットニュースの餌食になってしまうことだろう。
今回も、もともと関西弁しゃべってなかったじゃない問題
照れずに思いっきりあざとく視聴者を泣かせにきた今回だが、例のごとく原作からのエピソード取捨選択が上手くいっておらず、モヤモヤさせられたシーンも多かった。
特に気になったのは、なんで病院に芸人仲間が誰も来ないのか問題と、なんでラジオの生放送にド素人の圭右を連れてきたんだよ問題。
ドラマの中では説明が省かれていたが、芸人たちが大挙して病院に押しかけたらパニックになってしまうため、藤川が搬送された病院の情報は事務所が止めていたのだ。
辻本潤(渡辺大知)は金本に直接電話したことで、病院の場所を知ることができた。
また、圭右をラジオ局に連れて行ったのも「芸人目指しとる奴の前で無様に泣かれげんやろうからな」ということで、放送中、泣き出さないように目の前に座らせておくという意図があったのだが、その辺の説明が省かれていたため、「オレの生き様、見ておけや」感が過剰に出てしまっていた。
そして最大の問題は、圭右のインチキ関西弁問題。
藤川の死は、圭右に「相方とは何か?」を考えさせるとともに、インチキ関西弁をやめるきっかけともなっているのだが(藤川からの最期のアドバイスが「関西弁やめろ」だった)、圭右、その関西弁をまったく使っていないのだ。
原作ではラジオの生放送中、思わずしゃべってしまった時すらインチキ関西弁というくらい、癖になっていたわけだが、ドラマの方では関西弁ナシ。
圭右に関西弁をやめさせるために人ひとり死なせるなよ……とも思うが、そのために死なせたのなら、その効果を分かりやすく描いて欲しいところ。
もともと、ほとんど関西弁を使っていなかったので「藤川さんの遺言だからな(インチキ関西弁をやめる)」と言われても……。
残り4話でどうまとめるのか(まとめないのか?)
さて、ここ数話に渡って「ねずみ花火」や「デジタルきんぎょ」といった先輩芸人を中心にドラマが展開していく中、周りをウロチョロしているだけの傍観者状態だった圭右と辻本。
次回は、ようやくふたりがNSC的な養成所・YCA(ヨシムラコミックアカデミー)へ入学して、本格的に芸人としての道を歩み出す。
……が、先輩芸人エピソードを引っ張り過ぎたせいで、おそらく残りは4話程度。かなり駆け足で進めていかないと、芸人として何の爪痕も残せないまま終わっちゃいそうだけど……。
どんな風にまとめてくるのか? それとも再びダイジェスト状態で強引に突き進むのか?
(イラストと文/北村ヂン)
【配信サイト】
・Tver
「べしゃり暮らし」(テレビ朝日)
原作:森田まさのり「べしゃり暮らし」(集英社)
脚本:徳永富彦
演出:劇団ひとり
音楽:高見優、信澤宣明
撮影:小林元
オープニングテーマ:Creepy Nuts「板の上の魔物」
主題歌:B'z「きみとなら」
漫才監修:ヤマザキモータース、小林知之(火災報知器)
漫才協力:太田プロダクション
ゼネラルプロデューサー:三輪祐見子(テレビ朝日)
プロデューサー:浜田壮瑛(テレビ朝日)、土田真通(東映)、高木敬太(東映)