ドラマ『ノーサイド・ゲーム』出演のプロレスラー・飯野雄貴が語るラグビーの“本気”

池井戸潤の新作小説が原作のTBS系ドラマ『ノーサイド・ゲーム』が9月15日にいよいよ最終回を迎える。同作は、大手自動車メーカー「トキワ自動車」のエリート社員・君嶋(大泉洋)が、左遷された先である低迷中のラグビーチーム「アストロズ」のゼネラルマネージャーとしてチームと自身の再起に挑む企業ドラマ。
『半沢直樹』『ルーズヴェルト・ゲーム』『下町ロケット』等のヒット作を生み出した池井戸作品だけあって、弱者と強者がはっきりした構図から生まれる高揚感は格別だ。

とりわけ話題となったのは、同ドラマのラグビーシーン。アストロズメンバーを演じるキャストの多くはラグビー経験者で、中には元日本代表選手もいる。大半が演技初挑戦という、演技よりもプレーを重視して選ばれたメンバーたちによるラグビーシーンのリアリティは、ドラマの枠を完全に超えていると言っていいだろう。
ドラマ『ノーサイド・ゲーム』出演のプロレスラー・飯野雄貴が語るラグビーの“本気”
写真提供:TBS

DDTプロレスリング所属のプロレスラー、飯野雄貴もそんなアストロズメンバーのひとり。高校・大学とラグビー選手だったことでも知られ、演技は未経験だがラグビー経験を買われ見事オーディションでアストロズメンバーの役を勝ち取った。
ラグビーニュージーランド代表(通称オールブラックス)が試合前に行う舞の儀式「ハカ」をプロレスに取り入れるなど、ラグビールーツを生かしたファイトスタイルを掲げる飯野は、今でもラグビーは大好きと公言する。「プロレスにもラグビーは活きている」という飯野に、ドラマ裏話とラグビーの魅力について語ってもらった。

取材・文/大木信景(HEW)

クランクイン前のワークショップでひとつにまとまった


ドラマ『ノーサイド・ゲーム』出演のプロレスラー・飯野雄貴が語るラグビーの“本気”

キャプテンの岸和田を演じる俳優の高橋光臣は、実際に中学から大学までラグビーをやっていた。エース・浜畑を熱演する廣瀬俊朗は、現実のラグビー日本代表で主将を務めたほどのラガーマンだ。本波役の天野義久や、安西役の齊藤祐也も、元ラグビー日本代表選手。そんな中にあって飯野はアストロズでも若手という位置づけだが、圧倒的な体格が際立ち、印象的なシーンも多い。

「劇中、激しい練習でスター選手の里村さんを怪我させたり、キャプテンを負傷させたり。
壊し屋ですよ(笑)。エキストラの方にも『よく怪我させてますよね』と言われたし、ジュニアアストロズの子供たちにも『あ、壊す人だ!』なんて言われました(笑)」


経験者を集めただけあって、練習も試合もラグビーシーンの迫力は本物。一方で意外と言ってはなんだが、飯野も含め役者ではない人が多く出演している割には演技に違和感を覚えることもない。

「相当稽古しましたもん。撮影に入る前に、全員で2ヶ月くらい練習しました。クランクイン前にみんなで集まってリハ期間を設けるドラマも珍しいみたいですね。
ラグビーの練習は得意なんですが、当たり前だけどお芝居になるとみんな苦手。廣瀬さんなんかずーっと監督と個別練習やってましたよ、何時間も。大学院にも通われてるんですよね。それもある中ですごいなと思って見てました」

ドラマ『ノーサイド・ゲーム』出演のプロレスラー・飯野雄貴が語るラグビーの“本気”
写真提供:TBS

出演者のSNS等で、和気あいあいとした現場の様子が伝わってくる。チームとしてのまとまりのようなものができているのだろうか。

「仲はいいですね。
みんなラグビーやっていたので、繋がるんです。共通の知り合いがいたり、僕なんかチームメート役に自分の高校の10個上の先輩がいたんですよ。本当に偶然で、『お久しぶりです』って(笑)。


事前に割いてる時間が長かっただけあって、クランクインのときにはチーム感が出来上がっていましたね。ワンチームになっていたと思います。普通は顔合わせはピリピリするものらしいんですが、『こんなにぎやかな顔合わせはまずない、最高だねこのチーム』なんて光さん(高橋光臣)も言っていました」

GM役の大泉洋の現場での雰囲気は?

「大泉さんは本当に面白いですね。
最初は『君たちとはからみたくない。僕は君たちみたいなタイプは苦手です』なんて言っておきながら、めちゃくちゃ喋る人なんですよ。エキストラさんに対してもずーっとトークしてるし、モノマネで歌を披露したりしてる。サービス精神旺盛なんですね。

ドラマ『ノーサイド・ゲーム』出演のプロレスラー・飯野雄貴が語るラグビーの“本気”
写真提供:TBS

大泉さんが差し入れをしてくださることもあって、これがまた全部おいしいんです。食べ物が好きなだけあって詳しいんですよ。
中にお好み焼きが入ってる鯛焼きって知ってますか? 戸越銀座のお店らしいんですけど、このお好み焼き鯛焼きが絶品でした」


ラグビー始めてから体幹はめっちゃ強くなりました


ドラマ『ノーサイド・ゲーム』出演のプロレスラー・飯野雄貴が語るラグビーの“本気”

9月1日放送の第8話で、とうとうレギュラーの座を掴んだ飯野。飯野自身がラグビーの道に進んだのは、偶然の出会いがきっかけだった。

「僕は小学生のときからサッカーをやっていました。それが中学3年の秋、ラグビー部の顧問をやっていた担任の先生に、公式戦があるんだけど人が足りなくて最後の試合なのに3年生が試合に出れない、形だけでいいから頼むから試合に出てくれと言われて。ボール持ったらとにかく走ればいいからと言われ、それで3試合に出たんです。そうしたら、たまたまその試合にいくつかの高校のスカウトが来ていて、体でかいしいいねえってスカウトされたんですよ。高校時代は2年生のときに東京大会の決勝まで行きました。それで大学もラグビー推薦で国士舘大学に行かせていただいて」
ドラマ『ノーサイド・ゲーム』出演のプロレスラー・飯野雄貴が語るラグビーの“本気”
プロレスにも取り入れている“ハカ”

それこそドラマの舞台である“社会人ラグビー”のように、大学以降もラグビーを続ける選択肢はあったのだろうか?

「ありましたよ。むしろそう考えてました。でも、社会人でもラグビーやったらずっと続いていくんだろうなと思ったとき、友達に人生は1回きりだから好きなことやれよって言われたんです。確かにな、と。当時WWE(アメリカのプロレス団体)が好きだったのと、トレーニングで体を作るのが好きだったんですけど、今プロレスに挑戦して駄目だったしても25、26歳。またラグビーできるじゃんと思ったんです」
ドラマ『ノーサイド・ゲーム』出演のプロレスラー・飯野雄貴が語るラグビーの“本気”

駄目どころか、プロレスラーとして2年経った今、9月末にはKO-Dタッグ選手権に挑戦するなど若手のホープとして期待されるレスラーにまで成長した。ハードなコンタクトスポーツだけあって、ラグビーの経験はプロレスにも活きているということだろうか?

「ラグビーはポジションによって体の作り方も違うんですけど、共通しているのは体幹の強さが必要だということ。それはもちろんプロレスでも重要で、例えば相手を持ち上げたり担いだりするときにブレないというのはあると思います。ラグビーではプロップというポジションで、スクラムを組むとき直接相手と激しく組み合う上に、後方からも押し込まれる。1トン以上の力がかかるんですよ。
ドラマ『ノーサイド・ゲーム』出演のプロレスラー・飯野雄貴が語るラグビーの“本気”
写真提供:TBS

あとは瞬発力ですね。先輩レスラーも、『飯野はなんか速いね』って言ってくれるんです。コーナーからのアタックなど、僕体重が123キロあるんですけど、その体重でよくそんなに走れるねとは言われます

生で見るラグビーの“音”を感じてもらいたい


ドラマ『ノーサイド・ゲーム』出演のプロレスラー・飯野雄貴が語るラグビーの“本気”
キャストの間で流行っている“ノーサイドポーズ”

『ノーサイド・ゲーム』を見てラグビーの試合を見てみたくなったという人も多いのではないだろうか。それほど同ドラマのラグビーシーンには、本物の迫力がある。特に約20分間にもわたりアストロズと宿敵サイクロンズとの試合を描いた8月11日放送の第5話は、ドラマ史上に残るプレーシーンなどとSNS上で盛り上がった。

「福澤(克雄)監督の、絶対リアルに作ろう、ちゃんとラグビーをやろうというこだわりがすごいんです。選手同士のぶつかり合いでエルボーを食らうシーンも、ちゃんと肘が入ってますもん。

だから、ラグビーシーンが話題になるのは嬉しいですね。ドラマを見てラグビーに興味を持ってもらえたら嬉しい。最終回も、5話に負けないくらいすごいものになるはずなので楽しみにしていてください」

飯野選手が考える“ラグビーの魅力”とは?

「全員に役割があって、全員で動く。チームスポーツがいろいろある中で、ラグビーはどんなプレーにも全員が連動して動かないといけないという意味で一番“チーム感”が強いと思います。高度なコミュニケーションが必要になってくる。プレーも激しく危険も伴うので、信頼し合わないとできない。試合で得られる達成感はすごいですよ。
ドラマ『ノーサイド・ゲーム』出演のプロレスラー・飯野雄貴が語るラグビーの“本気”
写真提供:TBS

あとは、音ですよね。生で聞く音は違います。スクラムの音、コンタクトの音。映像と生とでは全然違うので、そこはぜひ生で見てもらいたいですね」
ドラマ『ノーサイド・ゲーム』出演のプロレスラー・飯野雄貴が語るラグビーの“本気”

プロフィール


飯野雄貴(いいの・ゆうき)
1994年10月24日生まれ、東京都出身。身長178cm、体重123kg。2017年8月20日の両国大会でリングデビュー。相手を倒し、ハカを舞った後でエルボードロップを見舞う「ハカエルボー」が得意技。体躯はスーパーヘビー級で、ベンチプレス205kg、ハーフデッドリフト300kg、レッグプレス560kgを挙げることができる。

11月3日(日)、東京・両国国技館にてDDTプロレス全グループが一堂に会すビッグマッチ「Ultimate Party 2019~DDTグループ大集合!~」が開催。各種チケット発売中のほか、動画配信サービス「DDT UNIVERSE」でのライブ配信も決定。