
(→前回までの「オジスタグラム」)

申し訳ございませんでした!
最近僕は「ドラクエウォーク」とゆうアプリのゲームを始めた。
ドラクエとはドラゴンクエストの略だ。
ゲームに詳しくない人でもドラゴンクエストとゆう名前は一度は聞いた事はあるだろう。
子供達には友情と正義と諦めない大切さを教えて下さり、大人達には子供の頃の気持ちを思い出させて下さる最高のゲームだ。
僕もドラクエをやっていなかったら、オジスタグラムの更新を今まで何度も諦めていただろう。
今回の「ドラクエウォーク」は、スマホのGPSを連動させて、実際に携帯を持って街を歩き回り、モンスターを倒したりして冒険していく仕様になっている。
何年か前に社会現象にもなった「ポケモンGO」のドラクエバージョンだと思って貰っていいだろう。
ポケモンが流行った時代に365日パチンコ屋に入り浸っていた弊害で、僕はピカチュウ以外一匹も知らない。
なのでポケモンGOには手を出さなかった。
しかし、今回は違う。
知ってるモンスター達が街中を歩き回ってるのだ。
駅前にいるスライム、東京駅構内をさまようさまようよろい、ガソリンスタンドの前には爆弾岩…。
凄い!こんな時代になったんだ。
僕が歩いて世界を救うんだ!
最高のパーティーだ
37歳の無職のおじさんをドラクエウォークは優しく受け入れてくれる。
ゲームの中では借金もないし、まだお金に困った事もない。
父ちゃんと母ちゃんと犬と旅する親孝行息子。
借金勇者が敵の攻撃を受けてる間に、父ちゃんが武器を振り回し、犬が魔法を使い、母ちゃんが回復する。
最高のパーティーだ。
レベルもどんどんあがる。

どんな敵も怖くない!
しかし時折、一番大人が恐れる敵「現実」がやってくる。
子供には見えない大人特有の敵だ。
僕は一体何をやってるんだ…いいのか? こんな時間あったらネタ作った方がいいんじゃないか? 借金めっちゃあるよ? 周りと差がつくぞ?
ドラクエのレベルが1あがる度に、現実の貴様のレベルが1下がってるんだからな!
……確かに。その通りだ。やめよう…アンインストール…いや、ちょっと待てよ!
現実の僕のレベルなんてずっと1なのだから下がりようがないじゃないか!
あっぶねー! 騙されるとこだった。
ドラクエウォーク消そうとする所だったわ!
こうして現実に打ち勝ち、僕はまた街を散策する。
普段行かない場所に行けるし、遠くの仕事も楽しくなるし、普段は全く見ない朝日を見れたりと楽しいもんである。

7分丈のズボンを履きこなすおじさん
ある日の夜、阿佐ヶ谷の駅前にある村を救いに向かう途中、一匹のおじさんがワンカップ片手にこちらを見ていた。
おっといけない、どうやら仕事の時間だ。
僕は静かにドラクエウォークを閉じた…。
という事で、本日のオジスタグラムはノリヨシさん。腐った死体の履いてるような7分丈のズボンを履きこなす54歳のおじさんだ。
飲み屋街の手前の植え込みでワンカップを飲んでる所をお声かけさせて頂いた。

どうしても流れ的にドラクエの僕の好きなキャラクターを使いたくて「腐った死体」と言ったが、ノリヨシさんは全くもって清潔で、ドラキーのようなチャーミングさも併せ持つ。
飲みにお誘いしたら二つ返事で了承してくれた。
「かぁー!うめぇ!」
「ずっとあそこで飲んでたんですか?」
「なんでやねん!こんなに飲み屋近いのに! ガハハ!チェイサーや、チェイサー!」
「ワンカップをですか? ヘケケ」
「全部飲み屋で飲んだら高うつくやろ?一件目飲んで、ワンカップ飲んで、二件目行く所やったんや」
「チェイサーの使い方あってます?」
「細かいとお姉ちゃんにモテへんで! ガハハ!」
ノリヨシさんは兵庫県のご当地モンスターらしい。
何かにつけて「なんでやねん!」と仰る。
24の時に東京に出てきたらしいが、関西の嫁さんとゆう事もあってか、未だに生粋の関西弁だ。
嫁さんも得意の「なんでやねん!」で射止めたのだろう。
「24まで何してたんですか?」
「これやこれ」
そうゆうとノリヨシさんは拳を目の前で握って僕に見せて来た。
僕も目の前に拳を出して、拳をゆっくり開きパーを作る。
「うわー!負けた! ってなんでやねん!じゃんけん違うわ!ガハハ! ボクサーや!ボクサー!」
「えー!!!すげー!」
ジャッカルのりよし
ノリヨシさんのノリがヨシ過ぎるのに甘えて、ついしょうもない事をしてしまった反省をする間もなく、僕は驚く。
ノリヨシさんは元プロボクサーのおじさんなのだ。
「いや、プロって言うても4回戦ボーイだから凄くないで!」
ノリヨシさんが言うには、ボクシングはプロになると基本最初は4ラウンドの試合しか戦えないらしい。
その人達の事を4回戦ボーイと言うみたいで、
そこで勝って行くにつれ、ラウンド数がのびて、世界戦とかは12ラウンドになるのだそうだ。
結局2勝3敗1分でノリヨシさんはボクシングの道を諦めるのだが、負ける度にリングネームのせいにして、ノリヨシ→のりよし→ジャッカルのりよしと変え、ジャッカルのりよしとして選手生命を終えたとゆう話や、減量中ビール飲みたくてビールでうがいしてた話を懐かしそうに話してくれた。
しかし、26歳で「ろくでなしブルース」を初めて読んで、強くなりたいと思って日本拳法を習い始めたのに、怖いからとゆう理由で3日でやめた僕からしたらリングにあがる人はみんな尊敬に値する。
「普通のヤンキーとかは勝てるんですか?」
「そりゃ、一発やで」
「若くても?」
「関係ないわ。こうしてこうや!ガハハ!」
「すげー!」
「あ、耳だけ確認な!」
「耳?」
「耳潰れた奴は柔道かレスリングやってたから勝てんのや! まず耳確認して潰れてたら謝る!潰れてなかったら、こうしてこうや!」
「ださいっすよー!ケケケケ」
「ガーッハハハ!」
こんな事を言っているが、ジャッカルよしのりはボクシング以外で人間を殴った事がないそうだ。
一番格好いいタイプのおじさんだ。
恐らくこの先も殴られても殴る事はないだろう。

生きやすくするコツ
ノリヨシさんが言うにはボクシングやってて一番良かった事は、
むかつく事や理不尽な事を言われても、本気出したら相手をいつでも失神させれるのにこっちは手を出さないだけなんだからな。
と、心でマウントをとって穏やかに過ごせる事らしい。
素晴らしい考えだ。
やはり何でもいいから一つだけ自信を持つことが生きやすくするコツなのだろう。
僕も命の値段の安さに自信を持とう。
こんな奴殴っても本当に心から損しかないと思わせる人間になろうと思う。
ヨシノリさんと別れ、帰りの道中に腐った死体が現れた。
意外にも腐った死体の耳は全く潰れてなかった。

(イラストと文/岡野陽一 タイトルデザイン/まつもとりえこ)