「スカーレット」27話。ひと知れず消えていく喜美子の恋。この余韻はまさに連続テレビ「小説」
連続テレビ小説「スカーレット」27話。木俣冬の連続朝ドラレビューでエキレビ!毎日追いかけます

(これまでの木俣冬の朝ドラレビューはこちらから)

連続テレビ小説「スカーレット」 
◯NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~
◯BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~ 再放送 午後11時30分~
◯1週間まとめ放送 土曜9時30分~
「スカーレット」27話。ひと知れず消えていく喜美子の恋。この余韻はまさに連続テレビ「小説」

『連続テレビ小説 スカーレット Part1 (1)』 (NHKドラマ・ガイド)

第5週「ときめきは甘く苦く」27回(10月30日・火 放送 演出・佐藤 譲)


圭介(溝端淳平)の恋物語は25回、17.9%、26回、19.1%と少々低め。圭介に喜美子(戸田恵梨香)が恋していたことがわかって、さてどうなる? という27回は、花火をつけたとき燃えそうで燃えないまま消えてしまうような寂しさを残して終わった。

圭介とあき子(佐津川愛美)との仲は順調だが、喜美子と圭介の仲も近づいていた。
というのは、圭介が喜美子になにかと恋のアドバイスを求めて来るから。チューをどういうタイミングでするかを考えているふたりはあまりに仲良しで、あき子が見たら嫉妬するだろう。

「シャツわざと似合わんほう言うたやろ」


実際、さりげなく、あき子と喜美子は火花を散らしていた。
圭介とデートに行く話をするあき子。聞いていますと返す喜美子。なんでスケジュールを知っているのかと訝しむあき子。食事の支度の都合があるから把握しておかないとならないのだと喜美子。“女中”だからとナットクするあき子。

圭介に頼られシャツを選んだ喜美子に、「シャツわざと似合わんほう言うたやろ」とちや子(水野久美)とさだ(羽野晶紀)がにやり。
こうなったら、あき子から、圭介を奪ったれ! と思うが、
そうはならないのであった。
だからなのか、ものすごく仲良さそうな圭介と喜美子なのに、どこか線が引かれ、そこを超えることをしない感じなのだ。そのへんの距離感の作り方が戸田恵梨香と溝端淳平、うまい。

恋とはまことにおもしろいもので


あき子は「女中」ということでナットクしたようでしてなかった。
圭介があまりに、荒木荘のことや喜美子の話題ばかりするから嫉妬してわがままを言ってしまう。

「女中なんか」と喜美子を見下したような言い方をするなど、とっても感じ悪いが、そんな彼女の良いところも圭介は感じているらしく、わがままを受け止め、荒木荘を出ることにする。

圭介が「好きな人の悲しい顔は見たないねん」と言う。
26回で「圭介さんが喜んでるとうちも嬉しい」と恋する気持ちを知った喜美子だったから、圭介の気持ちが理解できてしまう。

何も知らない圭介は、
「きみちゃん、すきや」「妹みたいに大事に思っているよ」と無意識に残酷。
あき子のことは「あき子」と呼び捨て。ちなみにあき子は「圭介くん」。

あき子のどこがいいのやら(佐津川愛美はわがままお嬢様役をうまいこと演じている)。よく、なんでこんな奥さんと…と思うことがあるが、男と女はわからないものなのだ。

圭介はなまじっか、感じよく、顔もよく、頭がよいので、それが、主人公の恋の相手として適切に生かされない感じにもやもやする。でも、そういう役回りなのだから仕方ない。溝端淳平はやや抑制気味な芝居でうまく演じている。

25回のレビューで、「めぞん一刻」の面堂終太郎 と書いてしまったが、「めぞん一刻」の三鷹瞬や「うる星やつら」の面堂終太郎のような美形の脇役タイプ と書こうとして間が大幅に抜けていたことをお詫びして訂正します。


まさに「連続小説」


火鉢の季節にはまだ少し早い、秋の終わり。ほのかな恋の火が、燃え盛る前に消えてしまった。
ナレーションが「あき子さんもあき子さんのお父さんも散歩のコースを変えたのでしょう。犬のゴンももう荒木荘の前を通りません」と語って、27回は終わる。
まるで短編小説のような終わり方! 文字で読みたい。
冒頭、あき子と父がゴンの散歩によく通ると書いていて、あき子と圭介が親しくなったからであることを書いたうえでのこのまとめ。よくできている。今回の恋は燃える前に消えるが、いつか、喜美子を激しく燃やすものに出会えるのであろう。そんなプロローグにふさわしかった。

朝ドラは愛称であって、本来「連続テレビ小説」というシリーズ名である。
「スカーレット」は、朝ドラの原点、新聞小説のような「連続小説」に回帰しているように思う。
それはそれで素敵なこと。

圭介があき子と喧嘩して、追いかけいとマスターが言ったとき、ポットから湯気が出ていて、そういうのも良い。

で、画面がたいてい、アンバーのフィルターをかけていて、灯火を通して見える画のようなところが情緒満点(エモいということ)だ。

「草間流柔道 とやあ」


雄太郎(木本武宏)の映画出演の成功を祈って、「草間流柔道 とやあ」と荒木荘全員での儀式が行われる。
「毎回これやるから落ちるんちゃう?」とさだ。
この場面によって、いつの間にか、荒木荘がすごく楽しい場所になっていることがわかり、その仲間のひとりであった圭介がいなくなってしまう寂しさがより強調されるのだった。

ただ、犬の糞問題はいつどういうふうに解決したのかが気になっている。
(木俣冬 タイトルデザイン/まつもとりえこ)

登場人物のまとめとあらすじ (週の終わりに更新していきます)


●川原家
川原喜美子…戸田恵梨香 幼少期 川島夕空  主人公。空襲のとき妹の手を離してトラウマにしてしまったことを引きずっている。 絵がうまく金賞をとるほどの腕前。勉強もできる。とくに数学。学校の先生には進学を進められるが中学卒業後、就職する。

川原常治…北村一輝 戦争や商売の失敗で何もかも失い、大阪から信楽にやってきた。気のいい家長だが、酒好きで、借金もある。にもかかわらず人助けをしてしまうお人好し。
運送業を営んでいる。家に泥棒が入り、
喜美子の給料を前借りに行く。

川原マツ…富田靖子 地主の娘だったがなぜか常治と結婚。体が弱いらしく家事を喜美子の手伝いに頼っている。あまり子供の教育に熱心には見えない。
川原直子…桜庭ななみ 幼少期 やくわなつみ→安原琉那 川原家次女 空襲でこわい目にあってPTSDに苦しんでいる。それを理由にわがまま放題。
川原百合子…福田麻由子 幼少期 稲垣来泉 

●熊谷家
熊谷照子…大島優子 幼少期 横溝菜帆 信楽の大きな窯元の娘。「友達になってあげてもいい」が口癖で喜美子にやたら構う。兄が学徒動員で戦死しているため、家業を継がないといけない。婦人警官になりたかったが諦めた。高校生になっても友達がいないが、楽しげな様子を書いた手紙を大量に喜美子に送っている。
喜美子とは幼いときキスした仲。

熊谷秀男…阪田マサノブ  信楽で最も大きな「丸熊陶業」の社長。
熊谷和歌子… 未知やすえ 照子の母

●大野家
大野信作…林遣都 幼少期 中村謙心 喜美子の同級生 体が弱い。高校で友達は照子だけだったが、ラブレターをもらう。
大野忠信…マギー 大野雑貨店の店主。信作の父。戦争時、常治に助けられてその恩返しに、信楽に川原一家を呼んでなにかと世話する。
大野陽子…財前直見 信作の母。川原一家に目をかける。

●滋賀で出会った人たち
慶乃川善…村上ショージ 丸熊陶業の陶工。陶芸家を目指していたが諦めて引退し草津へ引っ越す。喜美子に作品を「ゴミ」扱いされる。


草間宗一郎…佐藤隆太 大阪の闇市で常治に拾われる謎の旅人。医者の見立てでは「心に栄養が足りない」。戦時中は満州にいた。帰国の際、離れ離れになってしまった妻の行方を探している。喜美子に柔道を教える。

工藤…福田転球  大阪から来た借金取り。  幼い子どもがいる。
本木…武蔵 大阪から来た借金取り。

…中川元喜  常治に雇われていたが、突然いなくなる。川原家のお金を盗んだ疑惑。
博之…請園裕太 常治に雇われていたが、突然いなくなる。川原家のお金を盗んだ疑惑。

●大阪 荒木荘
荒木さだ…羽野晶紀 荒木荘の大家。下着デザイナーでもある。マツの遠縁。
大久保のぶ子…三林京子 荒木荘の女中を長らく務めていた。喜美子を雇うことに反対するが、辛抱して彼女を一人前に鍛え上げたすえ、引退し娘の住む地へ引っ越す。女中の月給が安いのでストッキングの繕い物の内職をさせる。

酒田圭介…溝端淳平 荒木荘の下宿人で、医学生。妹を原因不明の病で亡くしている。
庵堂ちや子…水野美紀 荒木荘の下宿人。新聞記者で不規則な生活をしていて、部屋も散らかっている。
田中雄太郎…木本武宏 荒木荘の下宿人。市役所をやめて俳優を目指すが、デビュー作「大阪ここにあり」以降、出演作がない。
静 マスター…オール阪神 喫茶店のマスター。静を休業し、歌える喫茶「さえずり」を新装開店した。

平田昭三…辻本茂雄 デイリー大阪編集長 バツイチ 喜美子の働きを気に入って、引き抜こうとする。
石ノ原…松木賢三 デイリー大阪記者
タク坊…マエチャン デイリー大阪記者
二ノ宮京子…木全晶子 荒木商事社員 下着ファッションショーに参加
千賀子…小原華 下着ファッションショーに参加
麻子…井上安世 下着ファッションショーに参加
珠子…津川マミ 下着ファッションショーに参加 
アケミ…あだち理絵子 道頓堀のキャバレーのホステス お化粧のアドバイザーとしてさだに呼ばれる。

あらすじ


第一週 昭和22年 喜美子9歳  家族で大阪から信楽に引っ越してくる。信楽焼と出会う。
第二週 昭和28年 喜美子15歳 中学を卒業し、大阪に就職する。
第三週 昭和28年 喜美子15歳 大阪の荒木荘で女中見習い。初任給1000円を仕送りする。
第四週 昭和30年 喜美子18歳 女中として一人前になり荒木荘を切り盛りする。

脚本:水橋文美江
演出:中島由貴、佐藤譲、鈴木航ほか
音楽:冬野ユミ
キャスト: 戸田恵梨香、北村一輝、富田靖子、桜庭ななみ、福田麻由子、佐藤隆太、大島優子、林 遣都、財前直見、水野美紀、溝端淳平ほか
語り:中條誠子アナウンサー
主題歌:Superfly「フレア」
制作統括:内田ゆき
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