配信中毒者おすすめ「THE FORCE 」治安最悪のオークランドの警察はやっぱりダメドキュメンタリー
どうもみなさまこんにちは。細々とライターなどやっております、しげるでございます。配信中毒16回。ここではネットフリックスやアマゾンプライムビデオなど、各種配信サービスにて見られるドキュメンタリーを中心に、ちょっと変わった見どころなんかを紹介できればと思っております。みなさま何卒よろしくどうぞ。

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今回紹介するのはネットフリックスにて配信中の『THE FORCE』。ドン・ウィンズロウの同名小説(あちらはカタカナで『ダ・フォース』だしニューヨークの話だけど)を思い出させるような、カリフォルニア州オークランドを舞台にした警察組織のドキュメンタリーである。


治安最悪のオークランドでは、警察もやっぱりダメだった


オークランドといえば、全米でもとりわけ多人種がごちゃ混ぜに住んでいるエリアとして知られている。人口構成の面でも黒人は白人並みかそれ以上の人数がおり、それにヒスパニックやアジア系が入り混じる土地だ。さらに治安も悪く、アメリカの大都市の中でもワーストに近い状況と言われる。この連載の第一回で取り上げた同じネットフリックス配信作の『DOPE』でも、シーズン1の第1話の舞台となったのはオークランドだった。麻薬の密売人と警察の両方にカメラを入れるようなドキュメンタリーのシリーズで、堂々のトップバッターになってしまうような都市。それがオークランドなのである。

で、このオークランドにも当然警察署がある。しかしオークランド警察署は度重なる職権濫用と不祥事が原因で2003年には連邦捜査局の監視下に置かれてしまい、市民からも厳しい批判が寄せられていた。これはなんとかせねばならんということで、警察官のモラル向上を図り不当な暴力的捜査や発砲を禁じるべく、警察上層部主導であれこれと対策を打った。というわけで、そんなオークランド警察って実際どうなっちゃったの……というのを2014年からの2年にわたって追いかけたのが、この『THE FORCE』である。

映画が始まった直後の警察本部長は、ショーン・ウェントというおじさんである。メガネをかけた理知的な雰囲気の警察官だが、この人の仕事内容は大変だ。ポリス・アカデミーでは将来の警察官に向かって「君らの行動ひとつで、全米の警察官のイメージが壊れるんだぞ!」と檄を飛ばし、返す刀で市民からのクレームにも直接対応する。


このウェント警察本部長の檄で特に印象的なのが、「アメリカは政府への不信感を礎にできた国だ」というセリフである。つまりアメリカは自由を求めて新大陸に渡ってきた人間たちが作った国であり、それまでの旧大陸の統治に対する不信感がこの国の礎であること、だから警察官に対する不信感は、この国の基本理念であること……これを権利章典あたりまでさかのぼって新人警官たちに説明する。根本的に市民と警察官に上下関係はない上に信用されておらず、だからこそ君達は行動に気をつけなくてはならないぞ、とウェント本部長は熱弁を振るう。日本とアメリカでは、根本的に「おまわりさん」の立ち位置が異なるのだ。

しかし、オークランド警察に対する市民の不満は溜まりまくる。そもそも事件の数に対して、全然警察官の数が足りてない。「泥棒が入ってきて死ぬかと思ったけど、全然警察が来てくれなかった!」「そもそも電話に応対してくれない!」という市民の不満に対し、「ぶっちゃけ、ちゃんとした仕事はできてない」「車上狙いに車の窓を破られたという事件と銃撃による殺人事件だったら、申し訳ないけど殺人の方を優先せざるを得ない」とキレそうになりながら説明するウェント本部長。おれは警察のことが嫌いだが、正直ちょっとこの人はかわいそうである。

緊迫する現場の捜査、そして新たな不祥事! オークランド警察の明日はどっちだ


というわけで警察の捜査を透明化するためにパトロール警官にボディカメラをつけ、勤務に当たらせることにしたオークランド警察。映画の中盤の山場となるのが、このパトロール警官の勤務の様子を撮影したパートだ。緊急の通報が入ったため、現場に急行する巡査。そこには、軽傷を負って路上に倒れている黒人のおばさんが。
交通事故だが事故車は現場近くに止まっており、ドライバーも確保できている。

するとそこに、上半身裸にパジャマのズボンを履いた黒人のおっさんが現れる。轢かれたおばさんの弟である。「あのベンツの野郎がやったのか!」「この野郎!」とブチギレる弟。慌てて止める警察官。怒った弟は家に帰っていくが、数分後にズボンを履き変えて(なぜか上半身は裸のまま)また現れる。

再登場した弟に対し、にわかに緊迫する警察官たち。テーザー銃を抜き、「お前の姉は病院に搬送されたぞ!」「もう帰れ!」と家に戻るよう促す。なんせ、この弟が家に銃でも取りに戻っていたら大変だ。武器を持っていないか、不審な行動をしないか、何か怪しい行動をとった時にどうすればいいか、瞬時に判断を求められる。そのピリピリした感じは、画面越しにしっかり伝わってくるほどだ。オークランドの警察官というのは、当たり前だが大変な仕事なのである。


という感じで色々気は使っているものの、2015年にはストリートでのカーショーの最中に銃を向けられた(しかしその銃はレプリカだった)として、警官が男性を射殺。さらにちょっと度肝を抜かれるようなめちゃくちゃなスキャンダル(マジで絶句するようなひどい内容なので、ぜひともこれは本編を見て確認してほしい)が発覚し、オークランド警察は窮地に追い込まれる。なんせめっちゃ怒られて連邦捜査局の管理下に置かれたのが2003年。12年経ってるのにここまで自浄能力がないのかと、市民による監査団体の立ち上げまで求められることに……。

とにかくまあ、オークランド警察がグダグダなのは間違いない。しかし「なんでここまでグダグダなのか」「解決できないのか」という点に関しては、このドキュメンタリーを見るだけでもある程度理解できるようになっている。連日の超過勤務を続けても一向にまともにならない街の治安、映画の中で「有毒で男性的」と言い切られてしまっているような警察の組織文化、市民と警察の対立構造、長年の人種差別などなどなどなど……。山のような諸々の問題が積み重なった下で警察が腐敗したことを、『THE FORCE』は容赦なく伝えてくれる。

なんせ現在も別段ちゃんと解決した問題ではないので、このドキュメンタリーはすっきりと終わったりしない。というか、多分これって解決しないんじゃないの……という雰囲気の方が濃い。この山積みの問題と諦めの気配が、いろんなフィクションのネタになっているのも事実である。デヴィッド・エアーの映画『エンド・オブ・ウォッチ』や、前述のウィンズロウの小説など、制服警官ものや悪徳警官ものが好きな人間なら、絶対に「この匂い、めっちゃ嗅いだことある!」となるドキュメンタリーが『THE FORCE』なのだ。

配信中毒者おすすめ「THE FORCE 」治安最悪のオークランドの警察はやっぱりダメドキュメンタリー

(文と作図/しげる タイトルデザイン/まつもとりえこ)
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