「個」の時代はすでに終わった キンコン西野亮廣が描く“次の時代”
撮影:加藤亨延

パリに夜の帳が下りると、挿絵に描かれたキャラクターたちは、眼下に浮かび上がる街の灯に溶け込むように、さらに躍動を始めた。10月26日から2日間、パリ市内エッフェル塔内の多目的スペース、サロン・ギュスターブ・エッフェルにてキングコング・西野亮廣の展覧会「光る絵本展 in エッフェル塔」が開かれた。

同展において西野は『えんとつ町のプペル』『チックタック 約束の時計台』という自身の2冊の絵本から、挿絵全82枚を展示。その名の通り作品1枚1枚が光り輝く展覧会を披露した。2日間の会期で6000人以上の来場者を呼び込み、作品は訪れた多くのフランス国内外の人の目に触れた。エッフェル塔での個展を成功させた西野は、パリで何を感じ、何を思いながら行動しているのだろうか。
取材・文/加藤亨延


エッフェル塔の個展は責任者を大学生にした


――今回は2日間の会期に加えて、前夜は招待客を呼んでのレセプションパーティーを開きました。フランス人招待客の反応はどうでしたか?
すごい喜んでいただいて良かったです。こればっかりは蓋を開けてみるまでわからないものですし、来たところで評判悪いなんてこともありますので、良い反応をいただけてちょっと安心しましたね。

「個」の時代はすでに終わった キンコン西野亮廣が描く“次の時代”
撮影:イシヅカ マコト

――どうして個展でパリを、そしてエッフェル塔を選びましたか?
「光る絵本展 in 東京タワー」の準備をしている時くらいから、「もしかしたらエッフェル塔でも展覧会ができるかもしれない」という話が上がりまして。最初は東京タワーとエッフェル塔と両方でやっていると面白そうだな、というだけの理由だったんです。でも、いざ動き出したら急に話が進んでいって、しばらくしたら「決まりました!」という話になりました。今回の個展の準備だけでいったら、かけた時間は1、2カ月くらいですかね。
「個」の時代はすでに終わった キンコン西野亮廣が描く“次の時代”
撮影:イシヅカ マコト

――パリにはジャパンエキスポなど以前に来られていますよね。会場でお見かけしたことがあります。

フランスは今回が3回目です。前に来たのはプライベートの旅行で3年くらい前だったんですけど、その時に『えんとつ町のプペル』を書き終えたんです。ノートルダム大聖堂のすぐ前のホテルに10日くらいこもって、そこで最後のページを書き終えたので、思い入れがあります。

――海外での個展は、ニューヨークに続きパリが3回目とのことですが、今回は何が大変でしたか?
今回一番の挑戦は、準備を全部他人に任せたことです。最後の調整で多少口は出しますけど、基本的には全部チームに任せました。そうじゃないと、自分が現場に行かないと回らない状態というのはチームとして大きくなっていかないので。
やっぱり自分は物作りに専念して、運営はチームが行うという形にしたくて。それで今回は、うちの会社の学生インターンの子が最高責任者です(笑)。

――どういう経緯で責任者を決めたんですか?
エッフェル塔の個展が決まった時にちょうど学生インターンの子と飲んでて「おまえ責任者やる?」と聞いたら「はい、やります!」と言ったので、それにかけてみようかなと思って。右も左もわからない大学生に、エッフェル塔の個展の最高責任者を任せるっていうのは、たぶん地球が始まって以来あり得なかったことじゃないですか(笑)。だから面白いなと思って。もちろん周りのスタッフも彼をサポートしましたが、結構プレッシャーだったと思います。

「個」の時代はすでに終わった キンコン西野亮廣が描く“次の時代”
撮影:イシヅカ マコト


誰でも発信できるようになり「個」の時代はすでに終わった


「個」の時代はすでに終わった キンコン西野亮廣が描く“次の時代”
撮影:イシヅカ マコト

――西野さんというと、いろいろな分野のことを精力的にこなしている印象です。1つの枠にとらわれない新しい形を作っていますよね。
新しいことかどうかは分からないですけど、とりあえずやりたいことを全部やってますね。

――近年は、以前と比べて個人でも簡単に発信できる時代になりました。大きな組織の中で役割を果たすことも大切ですが、一方で個でも輝きやすくなりました。芸能界でもそれは感じますか。
個人で活動しやすい時期にはなったと思います。
芸能でいったら、昔は事務所やテレビ、出版社に抗ったら「干す」みたいなことは平気でしたけど、今はあまり関係ないので。相手から「お前とやらない」と言われても、実力があればもう食いっぱぐれないじゃないですか。ユーチューバーになればいいし、個人で発信しやすくなったと思います。

――これだけ個の時代が当然のものとして広がってくると、個そのものの価値も変わってきますよね。
個の時代というのは、もう終わった感じがします。昔は発信する人が少なかったから、個で発信するだけで結構重宝されたんですけど、今は個で発信して当たり前の時代になりました。
誰でも発信できるようになったので、個で発信することにあまり価値がないというか。希少性が低くなりましたね。

――個が充足したとき、次は何でしょうか?
集落とかの時代になってきているなと思います。

――今までにない新しい仕組みも求められますよね?
オンラインサロンじゃないですか、今の時代にあっているのは。今回の個展にしても、オンラインサロンのメンバーがスタッフをやっています。お金を払ってオンラインサロンのメンバーになって、タダで働いているんですが、それって今でも理解できない人は理解できないんですよ。そういう人は「搾取」だとか、そういう片付け方をしてしまうと思うので、しばらく理解は遅れるだろうなと思います。

――なぜ彼らはお金を払ってでも手伝ってくれるのでしょうか。
今はSNSの時代で、お客さんも発信したがっているし、プレーヤーになりたがっている、作り手側になりたいと思っている。そして良い発信をすればSNSで「いいね」をもらえて、フォロワーが増える。だから発信させてあげた方が良いな、という時に、「じゃあお客さんも作り手側に回そう」という考えが、今回お客さんも展示の運営スタッフになってもらう、ということに繋がりました。最終的に日本から20人くらい参加してくれて、みんなすごく頑張ってくれました。
「個」の時代はすでに終わった キンコン西野亮廣が描く“次の時代”
撮影:イシヅカ マコト


だれでも主人公になれる今、皆が空間をほしがっている


――最近の日本でお金への考え方は変わってきていると感じますか?
日本はあまり変わっていないなと思います。変わってないどころか、それなりに重症だなと。重症というのはシンプルに知識がないという。もちろん分かっている人は分かっていますが、税金のことも分かっていないし、お金って何なのかということも分かっていない。「ブロックチェーン」なんていう言葉を出したら、その時点で「よく分からない」となる。そこの出遅れ方は半端じゃないなと思います。

――教育が足りていないと。
教育をしないと、今後日本が立ち上がることはないと思いますよ。義務教育にちゃんとお金を入れておかないと、ここから日本が盛り上がっていくことはないのかなと。
「個」の時代はすでに終わった キンコン西野亮廣が描く“次の時代”
撮影:イシヅカ マコト

――西野さんはいつから海外に目を向けていましたか?
今自分は39歳なんですけど、25歳くらいの時から、海外を狙って活動をしていました。エンターテインメントをやっているので、やるからには世界一は取りたい。そうしたときに当然、海外に通用するコンテンツを作っておかないと話になりません。

――「海外に通用するコンテンツ」の西野さんの手段は、今回の個展が現すように絵本ですか?
全部です。絵本だけじゃなくて、海外に出せるコンテンツを作らないといけないと思っています。時と場合によって、それは今回のように絵本かもしれないし、または映画かもしれない。いずれにせよ、世界一というところまでつながるような乗り物に乗っておかないといけない。そう決めたのが25歳の時でした。

――これからさらに次を目指すとして、何をしようとしていますか?
絵本を1本やるとして、来年には映画が公開されます。あとは町ですね。空間みたいなものに価値が出てくるなと思っています。一昔前は、その価値を生むものがキャラクターで、例えば、ピカチュウというキャラクターが真ん中にいて、その周りに雇用が生まれて、そのグッズやサービスが売れていました。でも今は、SNSを使ってお客さん自身が主人公になれる時代なので、キャラクターの価値よりも、お客さんがどこで主人公になりたいかという場所の価値の方が、遥かに上がってきています。そうなると、空間とか町を作った方がいいなと思いますね。物理的にも作りますし、オンライン上でも作ります。
「個」の時代はすでに終わった キンコン西野亮廣が描く“次の時代”
撮影:イシヅカ マコト


Profile
西野亮廣

1980年日本生まれ。芸人・作家。
活動は漫才、テレビ出演、執筆、舞台演出や映像制作など多岐にわたる。
近年では、発想力や起業家精神を生かして、新規ビジネスやサービス開発等精力的に活動中。
自身のビジネス書の新聞広告では毎日広告デザイン賞(日本で一番歴史のある新聞社主催の広告賞)最高賞を受賞し、TOYOTA”クラウン”のセールスプロモーションにも協力をしている。
また、主宰するオンラインサロン「西野亮廣エンタメ研究所」は会員数3万2000人を超え、会員数は日本最大となっている。
絵本作家としてのデビューは2009年で、0.03mmのペンだけで1作目「Dr.インクの星空キネマ」を描き上げ、「ジップ &キャンディ ロボットたちのクリスマス」「オルゴールワールド」の2作品も同じ手法で出版。
自身最大のヒット作「えんとつ町のプペル」は約40人のスタッフと分業制で完成させ、日本国内で37万部を突破し、世界5カ国で出版されるなど、ロングセラーとなっており、2020年の公開に向けてアニメーション映画化も現在進行中。
最新作「チックタック~約束の時計台~」もベストセラーとなり、次回作も制作中。

関連サイト
@nishinoakihiro
西野亮廣ブログ