筆者は昨春の「おっさんずラブ」で各話レビューを担当、自分でも驚くほど感動した視聴者の1人だ(泣きながら原稿を書いたこともある)。(関連)

で、今回の「-in the sky-」。続編を待ちに待っていたかと言われると、決してそうとは言い切れない。ファンとして、期待と不安の半々があるのだ。
牧凌太が記憶に新し過ぎる
「おっさんずラブ-in the sky-」は昨春の連ドラとは全く別ものだ。「リストラにあった春田創一(田中圭)が高校の後輩に救われ、CAに転職する」というストーリーの、パラレルワールド。ただ、主演は春田だし、上司には黒澤武蔵(吉田鋼太郎)がいる。この2人が不動だからこそ、牧凌太(林遣都)が忘れられないのだ。
その理由の1つに挙げられるのは、劇場版の存在。最近まで公開されていたがゆえ、あまりにも牧が記憶に新し過ぎる。完璧なエンディングで句読点を打った「おっさんずラブ」。その1年後に「〜LOVE or DEAD〜」が公開されて記憶が上書きされ、皮肉にもファンは成仏しにくいメンタルになった。
演者にも複雑な心境の者がいる。以下は続編放送が発表された際の報道の一部だ。
「田中(圭)は当初『(前作の)キャストがそろってないと意味がない』と続編制作に踏ん切りがつかなかったが、『鋼太郎さんに愛のあるお説教をくらい、“お前がおっさんずラブを背負え”と言ってくれた』と座長としての決意を固めた」(日刊スポーツ 2019年9月27日)
吉田は劇場版「〜LOVE or DEAD〜」初日舞台挨拶で以下のような発言をしている。
「長年人気を博した映画『男はつらいよ』シリーズで故・渥美清さんが演じた“寅さん”を話題にして『ひょっとしたら田中圭が寅さんの代わりになるのではないかと思っているんです。映画が1、2、3、4、5話と続いていって、いつも振られる寅さんとは反対に圭がいろんな人から好きになられるというパターンで、圭がこの役を演じていったらいいなと。そういう意味で田中圭がとまらないし、とまってほしくないなと』と胸中を明かす」(Techinsight 2019年8月23日)
理屈としてはわかる。単発版「おっさんずラブ」は春田×長谷川幸也(落合モトキ)×武蔵の三つ巴で、昨春の連ドラでは春田×牧×武蔵の3人に移行した。主人公=春田、ヒロイン=武蔵の主軸があり、それ以外のシチュエーションで変化をつけてシリーズものとするスターシステムをこのドラマは取るのだろう。
しかしだ。「おっさんずラブ」みたいな恋愛ドラマとスターシステムの相性は決して良くない。こないだまで春田─牧の関係で一喜一憂していたのに、相手が替わった春田の恋を割り切って見るのはドライだし、ブランクが短過ぎる。何しろ、劇場版はつい最近まで公開されていた。
牧の存在はあまりにファンに刺さり過ぎた。「-in the sky-」スタートにあたって、田中圭はこんなコメントを残している。
「前作とキャストが替わって寂しいという気持ちも、正直なくはないんです。でも、in the skyはまったく別のものなので、なんなら“キャストが替わった”っていう感覚も、僕にはなくて。僕らキャストがうんぬんというよりも、スタッフが優秀なチームなので、このメンバーで同じようにこの作品を作れたら新しい『おっさんずラブ』として、また何かが起きるんじゃないかなって思っています。本当に楽しみしかないです!」(Drama&Movie 2019年9月27日)
すごく言葉を選んで田中が話しているのが伝わってくる。
「ヒットドラマの続編は駄作になる」のジンクスを打ち破ってほしい
ネガティブなことばかり言っててもしょうがない。ここからは、「おっさんずラブ-in the sky-」に期待する点について。
春田×牧×武蔵の“天空不動産編”に関しては、正直、もうあれ以上ないと思うのだ。我々は3人の恋愛模様を絞り尽くした。あとは、彼らのまったりした日常を描くしかやり様はない気がする。
ここで少し話を変える。テレ朝はドル箱のドラマ(「相棒」「ドクターX 〜外科医・大門未知子〜」など)が生まれると、味をしめる傾向にある。それは「おっさんずラブ」も同様だった。期待していなかったドラマが予想外に当たり、その気になったテレ朝はグッズ、イベント、映画の大盤振る舞い。劇場版の後、大して間を空けずに「-in the sky-」を放映するスケジューリングもそうだ。「〜LOVE or DEAD〜」の出来栄えからは、誰かにせかされたような早急さを感じた。あんなに心を動かされた「おっさんずラブ」が自ら価値を落としに行っているようで、悲しみさえ感じているのだ。
ここで、吉田鋼太郎である。9月4日に行われた劇場版の舞台挨拶に彼はこんなビデオメッセージを寄せている。
「(瑠東東一郎監督へ)瑠東、このヒットで天狗にならず、もう一回初心に返って良い作品を作れ!」
大御所俳優からの一言で製作陣が襟を正したと信じたい。
「おっさんずラブ-in the sky-」には成功してほしい。
新たに加わる千葉雄大、戸次重幸のキャスティングは、いい。林遣都にこだわるファンにとっても「悪くないな……」と受け入れられる人選だと思う。キャパオーバー寸前のプレッシャーを背負っているはずの座長・田中圭をサポートする、頼り甲斐のある手練たち。天空不動産→空の仕事(CA)というジョブチェンジもゲンがいい。叫び声が「部長ぉぉー!」から「機長ぉぉー!」に変わる春田を見るのは楽しみだ。
クリスマスの頃には今抱いている不安なんか忘れ、すっかりどハマリしていると信じたい。「ヒットドラマの続編は駄作になる」というジンクスは、絶対に打ち破ってほしい。
(寺西ジャジューカ)
「おっさんずラブ-in the sky-」
脚本:徳尾浩司
演出:瑠東東一郎、山本大輔、Yuki Saito
音楽:河野伸
主題歌;sumika『願い』(ソニー・ミュージックレーベルズ)
ゼネラルプロデューサー:三輪祐見子(テレビ朝日)
プロデューサー:貴島彩理(テレビ朝日)、神馬由季(アズバーズ)、松野千鶴子(アズバーズ)
制作著作:テレビ朝日
制作協力:アズバーズ