新垣結衣、松田龍平ダブル主演、野木亜紀子脚本の水曜ドラマ『獣になれない私たち』。。
キャッチフレーズは「『全ての頭でっかちな大人』に送るラブかもしれないストーリー」。先週放送の第3話の視聴率は8.1%だった。
「獣になれない私たち」クズっぷり全開の田中圭が『おっラブ』はるたんに見えた3話
イラスト/まつもとりえこ

無神経でズルい男・京谷


第3話でクローズアップされたのは、晶(新垣結衣)の恋人・花井京谷(田中圭)のダメっぷり、クズっぷりだった。

京谷は晶と付き合って4年。誰がどう見ても晶とゴールイン寸前だったが、彼の部屋には「座敷わらし」のような元恋人の朱里(黒木華)が4年も住みついていた。朱里の存在が障害となって、ふたりの関係はにっちもさっちもいかなくなっていたのだ。京谷は晶に迫られて朱里に部屋からの退去を言い渡すが、逆ギレされてあえなく退散。
晶の部屋へと逃げ込んできた。

京谷という人物は、どこにでもいそうな男である。いや、スペックだけを見れば、かなり高い。大手ディベロッパーに勤務し、仕事ぶりも優秀。独身ながら分譲マンションも購入している。ルックスも良く、性格も穏やかだ。


だけど、何か引っかかる。見ていると心がざわざわする。恒星(松田龍平)にお持ち帰りされた女(穂志もえか)を見て、「女の子も軽そうだったもんな。ないな」と随分失礼なことを言う。第1話では、呉羽(菊地凛子)の服装を褒める晶に「あれ、好きな男、そうそういなくない?」と言っていた。女性の行動を常に男目線でジャッジしている。


おそるべき無神経でもある。晶の部屋でかいがいしく料理をつくってみたと思えば、食事中の話題は子どもの話。晶だって京谷と結婚して子どもを産んで……という未来を何度も考えただろう。だけど、京谷の個人的な問題のせいでそれがかなわないから悩んでいる。なのに、「子ども可愛いだろうな、晶の子」なんて言って平気な顔をしている。自分と「晶の子」ではないのか? 部屋で晶に抱きついて「ああ、癒やされる~」と言っていたが、抱きしめられている晶の表情は完全に「私は癒やされてないんですけど……」と言っていた。


きわめつけは、クラフトビールバー「5tap」での会話だ。真剣な調子で「これ、いつまで続ける?」と問いかける晶に「別れたい?」と疑問に疑問で返す京谷。別れたいのなら、とっとと別れている。別れたくないから問題に向き合っているのに、問題を抱えている当人が話をズラしている。「その聞き方は……ズルい」と晶が言い返すのも無理はない。

仕事もできるし、いい人そうなのに、実は無神経でまわりを振り回すクズ男……。
あっ、これ、『おっさんずラブ』の春田じゃん!(という指摘がSNSで複数あった) まぁ、はるたんは料理できないんですけど。

ささくれだった心を落ち着かせるために洗面台に立った晶に「愛してるよ!」と言う京谷だが、画面に写っているのは鏡の中の晶だけ。京谷と子どもの話をしているときも晶の姿は鏡の中にある。BOOWYの「MARIONETTE~マリオネット~」のサビをつい思い出してしまった。「鏡の中のマリオネット もつれた糸を断ち切って 鏡の中のマリオネット 気分のままに踊りな」――。

獣のような女・呉羽


「オッス、呉羽来ました」

行き詰まった晶と京谷の間に颯爽と現れた“獣”同然の女・橘呉羽。一瞬で恋に落ちることができ、運命の人と出会うと頭の中で鐘が鳴るという。
その一方で、相性が良ければ別れた後でも恒星にセックスを迫ったりする。まさに奔放。

とはいえ、ただ適当に生きているだけではない。呉羽には呉羽の理屈がある。服を買いに来た晶に、こんな例え話をしていた。

「クルマがビュンビュン行き交っている道路で、信号も何もないんだけど、ワッて飛び出して、ワーッて反対側まで渡りたーい(手をあげる)、って思うことないー?」

「危ないですよね、迷惑だし」と常識的な返事をする晶。飛び出したいこともあるけど、まわりのことを考えて飛び出さない晶と、飛び出してしまう呉羽。結果、晶は電車に飛び込まないよう柱にしがみつくようになってしまった。呉羽の話は続く。

「渡りきったつもりで、渡れてなかったんだよ。渡りきる前に、すんごいところから、すんごいスピードの車がワーッて突っ込んできて。ま、軽いケガで済んだんだけど、この道ではない、って」

これが恒星と別れた理由だった。「すんごいスピードの車」とは運命的な出会いという意味だろう。道路を渡りきろうとして、前もってある知識ではなく、経験から「この道ではない」と判断するのは動物のよう。「ワーッ」「ワッ」などの擬音が多いのは、「ボールがキューッと来たら、バーン!と打て」と指導した長嶋茂雄と通じるところがある。

晶と京谷の会話に割って入った呉羽は、「要は、どうしたいかって話。アンタが」とショートレンジで京谷の勘所を突く。朱里を住まわせていることを「京谷の責任感です」とかばう晶に対しては、ノータイムで「責任? 取れてないでしょうがァ!」と一喝。

そして、行きがかり上、タクシーで一緒になった京谷のクズっぷり満点の愚痴を聞いていた呉羽は、唐突に京谷の唇を奪う!

呉羽の行動は、歩道で信号待ちしているのにまったく道路を渡ることができない2人に猛スピードで車が突っ込むようなものだ。京谷は晶とはセックスしているが、朱里とは手さえ触れていないと言っていた。だが、セックスの有無が愛の証明というわけではない。手さえ触れていなくても愛が残っている可能性は十分あるし、セックスしていても愛が薄らいでいる可能性はある。そんなところへ呉羽がドカーンと体当たり気味に京谷とセックスしちゃったら……。いったい京谷と晶の愛の証明は何なのか? と突きつけることになる。

これ、呉羽は間違いなくわざとやっている。

「5tap」の“カウンターカルチャー”



「じゃ、5tapで」
「5tapで」

「今はそんなに嫌いじゃないよ」と言った恒星と「どっちでもいいです。ただの客同士だし」と返す晶は、別れ際こう言葉を交わす。クラフトビールバー「5tap」はこのドラマにとって非常に大きな意味を持っている。『カルテット』における別府くんの別荘ぐらいの役割があると思う(逆に言えば別荘ほど存在が大きくない分、登場人物たちが苦しんでいるとも言える)。

酒場のカウンターを前にすれば、会社での役割や世間のしがらみから解き放たれる。普段は出会うことのないような人と出会うことができる。酔いにまかせて、心の奥底に隠していた本音がこぼれてしまうこともある。こういう店のマスターは、話を聞いているようで聞いていないし、話を聞いていないようでしっかり客のことを見ていたりするから安心できる。「5tap」のオーナー、タクラマカン斎藤を演じる松尾貴史と一緒にバーを共同経営していたコメディ作家の須田泰成氏は、このような酒場文化を「カウンターカルチャー」と呼ぶ。

晶は「常に笑顔」で「仕事は完璧」。だけど、ものすごいストレスを抱えている。彼女がもっとも息を抜ける場所(=サードプレイス)が「5tap」。これが職場と自宅の往復のみだったら、心身ともにもっと早く病んでいただろう。「世渡り上手」で「毒舌家」の恒星がもっとも自分を出せる場所も「5tap」。ビールの酔いは彼の屈折も覆い隠してくれる。

恋も仕事も人生「ままならない人」たちは、自分にとっての「5tap」を探したほうがいい。そこで恋でも何でも起きればいい。このドラマを見ていると、なんとなくカウンターのある酒場に行きたくなる。

本日放送の第4話では「呉羽と京谷が寝た」という衝撃の噂からスタート。今夜10時から。
(大山くまお)

「獣になれない私たち」
水曜22:00~22:54 日本テレビ系
キャスト:新垣結衣、松田龍平、田中圭、黒木華、菊地凛子、田中美佐子、松尾貴史、山内圭哉、犬飼貴丈、伊藤沙莉、近藤公園、一ノ瀬ワタル
脚本:野木亜紀子
演出:水田伸生
音楽:平野義久(ナチュラルナイン)
主題歌:あいみょん「今夜このまま」
チーフプロデューサー:西憲彦
プロデューサー:松本京子、大塚英治(ケイファクトリー)
制作著作:日本テレビ
Huluにて配信中