「おっさんずラブ-in the sky-」(テレビ朝日系)が11月2日にスタートした。

不動の春田&武蔵と、春田&武蔵の新境地


2016年末に放送された単発版、昨春の「天空不動産」編を通じ、「おっさんずラブ」は主人公=春田創一(田中圭)、ヒロイン=黒澤武蔵(吉田鋼太郎)の2人が不動。ただ、妻がいながら武蔵が10年以上春田を想い続けるという背景のあった前シリーズに対し、武蔵がそこまで自分の気持ちに気付いていないのが今シリーズだ。

「おっさんずラブ-in the sky-」散りばめられた前作オマージュ、どうしても比べてしまった1話
イラスト/サイレントT(Morimori no moRi改め)

春田と成瀬竜(千葉雄大)のキスを偶然見てしまった武蔵。「武蔵は春田をストーキングしている?」とも思ったが、やはりあれは偶然だったと思う。
「春田と成瀬がキッス……。あれは一体どういうことだ?」
手が震えて、マウスをうまく扱えない武蔵。
「なぜだ。なぜダブルクリックになる?」
武蔵はなぜ自分が動揺しているかわかっていない。春田と缶コーヒーを飲む場面でも「あのときの君か!」と、新人研修時の春田を覚えていなかった。ずっと春田を好きな武蔵ではなく、武蔵が春田を好きになるまでの葛藤を見られるのは新鮮だ。

そして、武蔵は自覚的になり始める。
「風に当たらないか?」
外に春田を連れ出した武蔵。春田に渡すために買ってきた缶コーヒーは異常な量だった。春田の好みを探るため? 相変わらず乙女だ。
大量の缶コーヒーを腿に置き、座り方を内股にしていたのは可愛かった。
並んで座る2人。仕事について武蔵が話していると、その最中に春田は眠り、武蔵の肩に頭をあずけてしまう。興奮した武蔵は幽体離脱し、密着する春田と自分を見てはしゃいだ。
「おい、春田! それはあんまり無防備すぎやしないか? ああ〜、なんだこの気持ちは!? 俺の気持ちをかき乱すのはやめろ!」

武蔵のモノローグを初めて見た。今までになかった演出、新境地である。しかし、何を考えているかわからない武蔵に春田が巻き込まれていく面白さは「おっさんずラブ」の魅力の1つだった。武蔵の心中について「こう思っているのでは?」と我々が想像する楽しみは失われたかもしれない。まあ、結論を出すのは早過ぎる。この新要素が成功するかも見届けたい。

「-in the sky-」の成功は四宮にかかっている


前シリーズと今シリーズを比べるのは野暮、という見方もあるだろう。事実、筆者はスイッチを替え、ニュートラルな気持ちで新シリーズの初回放送に臨んだ。しかし、全編において「天空不動産」編のオマージュが散りばめられており、思い出すなと言うほうが無理なテンションになってしまったのだ。

オープニングで、空港へ向かうおばあちゃんを助けた春田。前シリーズでは3話と7話で彼はおばあちゃんを助けた。春田と武蔵がコーヒーを飲んでいたシーンは屋上でのランチ(弁当)を思い出させたし、そもそも春田が転職したCAは前シリーズ初回の合コンで春田が言った「CAさんっていいッスねえ〜」のセリフから来たのでは? と勘繰ってもいる。そして、共用ロッカーに入っていた春田のデッサンは、前シリーズの春田の隠し撮りを意識していることは明白。

というわけで、春田の兄貴的存在・四宮要(戸次重幸)である。春田はあからさまに胃袋を掴まれるタイプであり、四宮は料理男子だ。四宮のつくったごはんを食べながら、散々だった1日について春田は話す。それは、成瀬からキスされたことについて(成瀬からとは伝えずに)。

春田 「だってシノさん、今、俺とキスしろって言われてできます?」
四宮 「……できるよ」
春田 「え?」
四宮 「フフッ、なんてな。やめろ、お前(笑)。ないないない!」

四宮が、早速切ない。「-in the sky-」の“切ない担当”は彼なのだとここでわかった。


春田のイラストを描いていたのは四宮だった。てっきり、武蔵だと思っていた。武蔵から春田に矢印は出ていたし、前シリーズで隠し撮りの前科もある。それら全てがミスリードになった。よく考えると食事中や風呂上がりなど生活感のある春田を武蔵は描くことができないし、ロッカー整理をしていたと報告を受けても武蔵は焦らなかった。

焦り、パニックになったのは四宮のほうである。デッサンを必死にかき集める様子から窺えたのは「今までの春田との関係が崩れてしまう……」「気付かないでくれ!」という危機感。四宮は、秘めた恋をしようとしていたのだ。

私は、「-in the sky-」が良作になるか否かは四宮にかかっていると思っている。春田との恋が実るかは未知だが、この男に感情移入しながら今作を観続けていきたいと思う。

なぜ「おっさんずラブ」に惹かれたのか


初回でいきなり春田にキスをしたのは成瀬だった。前シリーズで春田が最初にキスをしたのは牧凌太(林遣都)。
というか、春田は牧としかキスをしていない。つまり、「-in the sky-」は春田と成瀬の物語になるのかもしれない。

成瀬はスレンダーな彼女持ちの男・マサキ(ダイキ/ブリリアン)に詰め寄られていた。
成瀬 「そもそも、付き合ってないし」
マサキ 「いやいや。成瀬、それはないだろ」
成瀬 「1回寝たぐらいで本気にしてんじゃねえよ」
マサキ 「俺は遊びだったのかよ……」

ノンケ、しかも巨乳の彼女持ちの男を虜にするという点で、千葉雄大ほど成瀬役にハマる役者はいないと思う。マサキが去った後、成瀬は春田をフェンスに叩きつけ、脚をまたぎながら「今の喋ったらぶっ殺すぞ」と言い放つ。やっぱり、オマージュだ。浴室での牧の壁ドンと、屋上での成瀬の網ドン。思い出すなと言うほうが無理だ。

「-in the sky-」初回は、登場人物の紹介で終わった印象。武蔵、四宮、そして橘緋夏(佐津川愛美)から春田が愛される理由はまだ描かれていないし、今のところ成瀬は春田に矢印が向いていない。昨春は初回から衝撃だった。
「凄いドラマに出会ってしまった」と2話の放送を待ち望んでいたものだ。「-in the sky-」は、面白いと感じるに至っていない。比較するつもりはなかったが、あの内容で比較しないほうが無理である。
「おっさんずラブ-in the sky-」、現時点では制作陣による「こういうのが好きですよね?」という悪い意味での媚びを感じてしまう。ファン(筆者含む)が「おっさんずラブ」に惹かれた理由は男同士の恋愛を描いたからじゃなく、性や年齢や国籍を超えた「誰を愛してもいい」という世界観を提示してくれたからだった。その辺りをじっくり描く新シリーズであってほしいと私は願っている。魅力的な新キャストばかりなので、そうならないのはもったいない。
(寺西ジャジューカ)

土曜ナイトドラマ「おっさんずラブ-in the sky-」
脚本:徳尾浩司
演出:瑠東東一郎、山本大輔、Yuki Saito
音楽:河野伸
主題歌;sumika『願い』(ソニー・ミュージックレーベルズ)
ゼネラルプロデューサー:三輪祐見子(テレビ朝日)
プロデューサー:貴島彩理(テレビ朝日)、神馬由季(アズバーズ)、松野千鶴子(アズバーズ)
制作著作:テレビ朝日
制作協力:アズバーズ
※各話、放送後にビデオパスにて配信中
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