「アンチコメントも何かが引っかかっている証拠」 アルスマグナ、ベストアルバムまでの8年間を振り返って

明治時代から続く、由緒正しき全寮制の共学高校、私立九瓏ノ主(クロノス)学園。生徒4人と教師1人、それにぬいぐるみによって構成される「アルスマグナ」は、次元の境界を行き来する2.5次元コスプレダンスユニットだ。

メンバーは2年生の神生アキラ、泉奏、1年生の朴ウィト、3年生の榊原タツキ、アキラと奏の担任でもある化学教師・九瓏ケント、そしてタツキが連れているぬいぐるみのコンスタンティン。動画サイトでの「踊ってみた」活動で人気に火がついた彼らは、やがて学園を飛び出し、武道館やZeppといった会場でワンマンライブを開催するまでに成長した。今回は自身ら初のベストアルバム「ARS THE BEST」発売に寄せ、彼らの活動の軌跡を紐解いていく。

取材・文/ヒガキユウカ 撮影/稲澤朝博

「アンチコメントも、何かが引っかかっている証拠」動画投稿を通して研究を続けた日々


──まずは、アルスマグナ結成のきっかけを教えてください。

榊原タツキ(以下、タツキ):元々うちの学校にはダンス部がなかったんですが、僕と朴くんが「ダンス部作りたいね」って話で意気投合して、2人で部員集めを始めたんです。そうしたらまずアキラくんが入ってくれることになって、アキラくんが奏くんに声をかけてくれて。最後に「顧問の先生がいないな」ということで、ケント先生に声をかけてできあがったのがアルスマグナです。……合ってる?
「アンチコメントも何かが引っかかっている証拠」 アルスマグナ、ベストアルバムまでの8年間を振り返って
榊原タツキ

九瓏ケント(以下、ケントまたは先生):合ってるよ。結成したはよかったんですが、最初は出られるイベントがなかったので、ニコニコ動画で「踊ってみた」動画を投稿したんです。

──ニコニコ動画に投稿してみよう、というアイデアは先生から?

ケント:はい。踊ってみたというものがあるのは知っていたので、「やってみようか」とみんなに持ちかけたんです。投稿してみても最初は本当に鳴かず飛ばずで、続けるうちに少しずつランキングが上がって認知してもらえるようになっていきました。

神生アキラ(以下、アキラ):せっかくアルスマグナを結成したのに、何から始めたら良いかわからない状態だったので、とにかくやってみようという気持ちでした。僕らのダンスは基本的に先生が振り付けをしてくれているんですけど、当時は僕らより先生の方が試行錯誤だったんじゃないかな~。
「アンチコメントも何かが引っかかっている証拠」 アルスマグナ、ベストアルバムまでの8年間を振り返って
九瓏ケント

先生:やっぱりニコニコ動画で勝負するからには、ニコニコ動画をよく知らないといけないと思ったので、研究はしましたね。再生数、コメント数を見比べながら、選曲やダンスのジャンル、可愛い系がいいのか格好良い系がいいのか……アンチコメントにだってヒントがある。内容がネガティブでも、コメントを書いてくれるってことは、何かが引っかかってるってことだと思うんですよ。じゃあその中にプラスの引っかかりはないのかな、とか。半年はかかったと思います。そんな研究期間を経て行き着いたのが、速い曲を速く踊る、というスタイルでした。

朴ウィト(以下、ウィト):でも、そうやって時間をかけたから今のアルスマグナらしさとか、それぞれのキャラクターとかが作られていったんじゃないかなと思いますね。アンチコメントがついたときは、先生が真っ先に連絡くれたんです。「それだけみんなが知られているんだぞ」とか、「これは今後人気が出るきっかけだから、全然気にしなくていいよ」とか。

──ダンスのスタイルだけでなく、それぞれのキャラクターもアルスマグナの魅力のひとつですよね。

先生:普通のアーティストさんなら出さない部分や失敗な部分も、プラスに変えられるのがアルスマグナの良い所だと思っています。例えば誰かがミスをしてしまったとする。もちろんミスはない方が良いんですけど、それによってちょっと可愛く見えたりするじゃないですか。最初はむしろ、「ミスはするな」って言ってたんですよ。でもそこで答えを引き出してくれたのがアルスメイト(ファンの呼称。アルスマグナと同じ、九瓏ノ主学園の生徒)の皆さんでした。ダメな部分や素の部分も出しちゃうことで、メイトさんがもっとメンバーたちを好きになってくれたんです。

最初からアルスマグナというチームとして、ではなく、「僕たちはこういう人間なんです、こういう失敗もします」、という一人の人間として知ってもらう。それが今のアルスマグナの「個性」と言われる部分の土台になっていると感じています。泉なら、普段はクールだけどたまに笑うとか、実はすごく食いしん坊だとか。タツキは可愛いのに、時々暴言を吐く(笑)。朴はいつも面白くて元気だけど……何だろう?
「アンチコメントも何かが引っかかっている証拠」 アルスマグナ、ベストアルバムまでの8年間を振り返って
朴ウィト

ウィト:僕は先生と2人で踊ることも多いんですけど、先生の雰囲気に合わせて、妖艶だったり、ダークな雰囲気を出すように意識していて。「そういう所も良い」ってコメントをいただくことは多いですね。

先生:アキラはどんなときも期待を超えてくれるけど、すぐ泣く。

アキラ:一回だけね! 最初のツアーワンマンのとき。

先生:感極まったときはもう止めどなく泣くから、そういう所がファンにとってはたまらないんだと思います。

アキラ:一回だけだから!!(笑)

──逆に生徒さん側から見て、先生の良いギャップはありますか?

泉奏(以下、奏):最高の男ですよ、本当。

アキラ:大人がここまでオンとオフを切り替えてくれると、僕らも楽ですよね。一番厳しくしないといけないのは先生だし、逆に一番ゆるくしないといけないのも先生だと思ってくれているからでしょうけど、やる気ないときは本当にやる気ないですからね。練習やめちゃう。

ウィト:いやいや、先生が率先して休んでくださるから、僕たちもそんなに無理をせず、集中力を維持しながら練習できるんです(笑)

──皆さんの最大の特徴である、「2.5次元」。2.5次元の存在だからこそ表現できることは何だと思いますか?

アキラ:まず2次元というと、理想の世界とか妄想、自分たちの脳の中で叶えられるものだと思うんです。具現化できなくても、想像の中で完結できる世界。でも僕たちがライブをするときには、お客さんも九瓏ノ主学園の生徒として、その世界に参加できるわけです。普段想像しているものを、唯一形にできる場所として提供できるのが、僕ら2.5次元の持つ力なのかなって思っています。
「アンチコメントも何かが引っかかっている証拠」 アルスマグナ、ベストアルバムまでの8年間を振り返って

:それと、リアルタイムで変化していっていることも大きいと思います。実際に今こうして話している言葉とか、ライブ中に発した言葉とか、あとは2次元の漫画とかで話していた言葉が、どんどん自分たちの基本プロフィールに追加されていくんですよね。そこに2次元と3次元が融合した、終わらない楽しさがあるのではないでしょうか。

下積み時代には、自腹でチケット購入も「もう手を上げても天井に当たんねえんだ」


──動画投稿も、最初は鳴かず飛ばずだったんですよね。人気が出てきたな、と実感した瞬間はあったのでしょうか?

:2014年にニコニコ動画で「【アルスマグナ】男5人で ギガンティックO.T.N 熱く踊ってみた」という動画を出したときには、ランキングに入ってコメントもたくさんつきましたね。それまではライブを自主でやっててもお客さんが全然入らなかったんですが、目に見えて動員数が増えたきっかけでもありました。とはいえ、当時はあくまで「目の前のことに集中してやれることをしっかりやろう」という気持ちでやっていたんです。注目されたことへの喜びはありましたけど、先生が「次、次」と導いてくださったおかげで、逆にそこで満足せずさらに次に行けた。その切り替えがあったから、ツアー規模が段々大きくなっていったり、武道館でライブができたりしたんだと思いますね。
「アンチコメントも何かが引っかかっている証拠」 アルスマグナ、ベストアルバムまでの8年間を振り返って
泉奏

──当時から具体的な目標設定があったのでしょうか?

ケント:いや、「とにかくいまの会場の規模感から脱出したい」という思いだけでした。どこでやりたい、というより、今の規模感を出たい。最初はとにかく小っちゃくて、照明に頭はぶつかるわ、手を伸ばしたら天井つくわ……とにかくダンスを見せられるような広さではなかったんです。

:「行きたい」よりは「出たい」でしたね。

アキラ:振り返れば楽しい思い出はたくさんあるんですけど、「なんでここまで頑張ってこられたのか」って考えると、やっぱり当時の「ここから抜け出したい」っていう思いがあったからで。最大90人ぐらい入るキャパの会場で、5人くらいしかお客さんがいないときもあったんですよ。チケットがたくさん売れたことにするために友達の名前だけ借りて、料金は自腹切って。会場も当然貸していただいているものだから、チケットリストがあまりにも埋まらないと示しがつかないんですよね。当時の僕のなかでは「なんでチケットの売り上げを心配してライブしてんだろうな」っていういろんなやきもちとかやっかみとか、負の感情がありました。最初の方は多分メンバー全員そうだったんじゃないかな。……今でこそ笑い話にできますけど(笑)
「アンチコメントも何かが引っかかっている証拠」 アルスマグナ、ベストアルバムまでの8年間を振り返って
神生アキラ

ウィト:記憶から消してたかも(笑)

:そのあたりの話をオープンにできるようになったのって、それこそ武道館に立った頃くらいからですよね? 最初の武道館公演の演出で、売れてなかった頃のサイズのステージを再現する試みをして、「そういえばあのときあんなことありましたよね」って会話になって。そのときにちょっと笑い話にできたおかげで、その後こんな風に話せるようになったんですけど、あれがなかったら今でも全員が沈黙を貫いてた話題でしたね。

アキラ:だから徐々にお客さんが増えて、次のステージに行けたとき、つまりそれまでの所を抜け出せた瞬間はやっぱり嬉しかったですね。「もう手を上げても天井に当たんねえんだ」って。

2019年を、漢字1文字で振り返ると?


──少し気が早いのですが、2019年を漢字1文字で表すと、皆さんにとってどんな年でしたか?

先生:僕はね、「種」ですね。「ARS THE BEST」が出るまでの2019年って、みんな個人活動をしたり、スピンオフの部分が動いていた。僕も自分の家を題材にした舞台があったり、講演会をやらせていただいたりして。そこからまたアルスマグナというチームに戻った時、僕は何ができるんだろうって。今年はツアーもやっていませんし、例年と違う年を過ごすなかで生まれた気持ち達を、今持っている。来年はこれらの種を、どんな風にチームに還元できるかなぁって考えています。
「アンチコメントも何かが引っかかっている証拠」 アルスマグナ、ベストアルバムまでの8年間を振り返って
九瓏ケント

タツキ:僕は「増」ですね! 先生が言ってた通り一人の活動が多かったこともあって、自分のやるべきことも増えましたし、できるようにならなきゃいけない課題も増えました。それと同時に、先生に与えてもらえる振り付けの部分が増えたことも嬉しかった。来年はもっと出番を増やしてもらいたし、年始にはライブもあるので、さらに力を増しているんだぞ、という所を見せたいなと思っています。あ、体重も増えました(小声)
「アンチコメントも何かが引っかかっている証拠」 アルスマグナ、ベストアルバムまでの8年間を振り返って
榊原タツキ

ウィト:漢字一文字難しいな(笑)。己……いや、「自」かな。今年は各々の活動が増えたからこそ、今自分にできることってこれぐらいなんだとか、これもできるんだ、って自分自身を見つめる年になった。逆に「僕はこれが苦手だったんだ、じゃあ今までは他のメンバーが補ってくれてたんだ」って気付けたこともある。あと今年はライブが少なくて、ファンクラブツアーで台湾に行ったときに久々に全員でライブしたんですけど、それがすごく楽しくて。その感覚というか、ライブという空間が僕はすごく好きなんだなと改めて思ったんですよ。なので、来年はライブをたくさんしたいなって思います。
「アンチコメントも何かが引っかかっている証拠」 アルスマグナ、ベストアルバムまでの8年間を振り返って
朴ウィト

:一文字で表すと、「見」。見る年だったかもしれないな、と。朴と違って俺は個人というよりアキラとの「me can juke」というユニットで動いていたので、常にアルスマグナの誰かとは一緒にいたわけなんですが。でも5人と1匹っていう今までずっといた環境から離れたときに、みんなってこんなに面白かったんだ、と気付いた部分もあって。DVDとかを改めて見直していても、やっぱり自分の中にはアルスマグナとして活動していた思い出が強かったので、目の前にアルスマグナとしての活動がないことを少し寂しく感じてしまって。今までライブやツアーが当たり前にたくさんあったことを、本当は当たり前じゃないってことに気付いて、その瞬間寂しくなって……。
「アンチコメントも何かが引っかかっている証拠」 アルスマグナ、ベストアルバムまでの8年間を振り返って
泉奏

ウィト:もう、別れた後の彼氏じゃん!寂しくなったりやっぱりみんなでいるのが好きだったり、アルスマグナのこと大好きじゃん。「好」でいいんじゃない。

:……じゃあ「好」にします。来年はできること、目の前にあることをしっかり噛み締めて、一つひとつの時間を過ごしていきたいなと思っています。

アキラ:「悔」しい、ですかね。この一年いろんな作品を見る機会があって。というのも、誰かと比べてじゃないとなかなか自分たちの居場所って探せないじゃないですか。それで…ここだけの話ですよ? 絶対僕たちのコンテンツの方が面白いなって思っている自分がいたんです。「同じこと、僕たちもやってるよ」とか。でも逆に言えば、「間違ってなかったんだ」とも思えました。僕たちが面白いと思ってやってきたこと、その感覚は間違っていなかったんだって。
「アンチコメントも何かが引っかかっている証拠」 アルスマグナ、ベストアルバムまでの8年間を振り返って
神生アキラ

──それぞれに様々な想いのある軌跡を振り返っていただきましたが、今度発売されるベストアルバムは、まさにその集大成となるものですよね。どんなアルバムになっているか、最後にお聞きしたいです。

アキラ:僕たちのデビューシングルから最新の楽曲まで詰まってます。僕らはもともとダンスがメインのグループなので、どうしてもCDにできなかったダンス音源とかもあるんですよね。それらをCDという形で改めて届けられて嬉しい。……っていうのは、すみません、あくまで僕たちにとっての想いです。

じゃなくて、ベストアルバムって、今まで応援してくれた子たちの結晶でもあると思うんですよ。アルスマグナが頑張ってきたからどうこうじゃなくて、それを見守ってくれる人たちがずっと居続けてくれたからベストが出せるだけで。

──「出せた」というより「出させてもらえた」が近い。

アキラ:今アーティストでもなかなかベストまでたどり着けない方も多くいるなかで、応援してくださる方々のおかげで出せたというのは、ひとつの結晶ですよね。結晶というか勝ち取ったものかな。それに、そういう人たちがまた他の人にアルスマグナを説明したいときは、このベストを渡しちゃえば早いじゃないですか。だから名刺代わりにもなってもらいたいし、買ってくださった方々の自信にもなってもらいたいんです。「応援してたやつらのベストアルバム出たんだぜ」って。
「アンチコメントも何かが引っかかっている証拠」 アルスマグナ、ベストアルバムまでの8年間を振り返って


リリース情報


Best Album『ARS THE BEST』
2019年11月27日(水)発売
・初回限定盤A(CD+DVD)
¥4,091 + 税 UPCH-7527
・初回限定盤B(2CD)
¥4,091 + 税 UPCH-7528/9
・通常盤(CD)
¥2,727 + 税 UPCH-2196
・各メンバーソロ盤(CD)6種
¥2,000 + 税 UPCH-7530〜UPCH-7535
※2019年12月末までの期間限定出荷

ライブ・ツアー情報


アルスマグナSpecial Live 2020~私立クロノス学園ダンス部New Year Party~
2019年1月26日大阪 IMPホール
2019年2月1日 東京・豊洲PIT

Profile
アルスマグナ

由緒正しき全寮制の共学高校「私立九瓏ノ主(クロノス)学園」を舞台に活動する2.5次元コスプレダンスグループ。クロノス学園の高校1~3年生と、化学教諭、ぬいぐるみ1匹の“5人と1匹”で構成。

関連サイト
@_ARSMAGNA_YouTube公式チャンネルアルスマグナ 公式サイト 九瓏ノ主学園