「スカーレット」51話。喜美子が八郎に壁ドン、原因はフカ先生
連続テレビ小説「スカーレット」51話。木俣冬の連続朝ドラレビューでエキレビ!毎日追いかけます

(これまでの木俣冬の朝ドラレビューはこちらから)

連続テレビ小説「スカーレット」 
◯NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~
◯BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~ 再放送 午後11時30分~
◯1週間まとめ放送 土曜9時30分~
「スカーレット」51話。喜美子が八郎に壁ドン、原因はフカ先生

『連続テレビ小説 スカーレット Part1 (1)』 (NHKドラマ・ガイド)

第9週「火まつりの誓い」51回(11月27日・水 放送 演出・佐藤 譲)


百合子(福田麻由子)の学校の先生・寺岡(湯浅崇)が川原家を訪ねてきた。百合子が県短……短期大学の家政科進学を希望しているというのだ。
喜美子(戸田恵梨香)にあこがれて自分も夢を持ちたくなった百合子は家庭科の先生になりたいと考えた。


「高校はあかん」


話を聞いた常治(北村一輝)は短大に行ってもいいが高校はあかんと禅問答みたいな回答をする。高校に行けなきゃ大学も行けないではないか。働きながら高校相当の勉強を独自でして大学に行くという方法もあるだろうけれど、かなり大変だし。こんなことを言うなんて、常治、意地悪である。

「こいつね きゅーちゃんなんですわ」


常治、学はなくても、頭はいい。こうやって知恵を働かせて生き抜いてきたのだろう。
信楽の状況もしっかり把握し、丸熊陶業の社長の死や火鉢の需要の終焉等を鑑みて、自分の運送業も先細りになると予想し気が気ではないのだ。
喜美子の絵付けの仕事も風前の灯。直子(桜庭ななみ)が東京に出稼ぎに行ったとはいえ、川原家の経済の未来は危うい。百合子に高校、大学と行かせる余裕はない。

常治は、喜美子がマスコットガールとして祭り上げられたことも知っていた。寺岡先生も含み、誰もがそれをすごいことと思っていたが、常治は、それが茶番でしかなく、あくまでも「9番弟子」でしかないことに気づいていた。弟子程度の給料しか得ていなかったからだ。
それを、学歴と性差のせいだと主張する喜美子に、常治は、まだ一人前じゃないからだと断じる。


喜美子の意見にも常治の意見にも一理ある。そうは言っても、週に二回おかずが一品増えるだけでもいいではないか。常治がもっとがんばれよ。酒をやめろよ。なんで子供の働きにそんなに頼るのかとは思う。

個ではなく家


再放送中の「おしん」ではおしん(田中裕子)の夫・竜三(並樹史朗)が、軍に協力することで商売繁盛となり広い部屋を借りて自信満々になっている。関東大震災で店を失い実家に戻り干拓にも失敗し妻の世話になることを恥じていた竜三が自分の裁量でやれるようになって自信を取り戻した。この頃の価値観は、男はいかに家を守っていくかが大事で、常治は竜三とは違い、子供たちを働かすることで家を維持することを恥とは思っていない。

いまの価値観では考えられないが、こんな時代もつい数十年前まではあった。個人が何をしたいかではなく、その家に生まれた者が家を守る。「あさが来た」でもそういうことが中心に書かれ、最後に姉妹で振り返るのは「家を守れたか」だった。
喜美子も疑問ももたずに、妹の学費を自分が働いてだそうとしている。助け合いというと麗しいけれど、なんだか釈然としない。


百合子も、ごく自然に、喜美子が絵付け師として働いているから家にお金があって大学にも行けるんじゃないかと淡い期待をもっていた。喜美子や直子が学校に行かずに働いているのに自分は学校に行けると思っているところを
よく思えない視聴者もいるだろう。子供だからしょうがないし、どの家庭も子供が一定水準の教育を受けられる環境にあるべきなのだ。

とまあ、こういう固い話ばかりに一話を費やしてはいけないとばかりに、喜美子と八郎(松下洸平)とのとぼけたやりとりが描かれる。

「フカ先生、僕、川原さんの順番で」


フカ先生(イッセー尾形)が丸熊陶業を去ることを、喜美子が知らないことを知らず、八郎はフカ先生と火まつりで思い出作りをしたいと言う。
フカ先生を慕う同士、弟子である喜美子、それとはまた違うところでつながっていると思っている(絵ももらったし)八郎はフカ先生との関係をさりげなく張り合っているように見える。
弟子だから、フカ先生に聞きたいことがあるなら「うちが代わりに聞きます」と言う喜美子。
川原さんも一緒でも構いませんよ でもフカ先生、僕、川原さんの順番です と牽制する八郎。
なんだか面白い。ちぐはぐなやりとりのなかで、喜美子がフカ先生が辞めることを知ってしまう。

フカ先生のことを問い詰めるとき、柔道の技(たぶん)からの壁ドンを、喜美子がやった。もはや男の壁ドンの時代は終わった。斎藤工の写真集「JOERNEY」でも上戸彩が斎藤に壁ドンしている。


ところで、視聴率が奮わない。よくできたドラマなのになぜだろう?と思ったとき、夕暮れの場面が多いからではないかと思い当たった。「スカーレット」という題名のせいかアンバー系の照明を多く使用しているためいつも夕方ぽい雰囲気がする。夕方や夜放送のほうが似合いそうなのだ。

喜美子と百合子の夜の会話を蚊帳の中にして少女たちの淡い雰囲気を出すなど工夫しているのも素敵なのだが、全体的に朝の明るさが不足していることは否めない。
(木俣冬 タイトルデザイン/まつもとりえこ)

登場人物のまとめとあらすじ (週の終わりに更新していきます)


●川原家
川原喜美子…戸田恵梨香 幼少期 川島夕空  主人公。中学卒業後、大阪の荒木荘に女中として就職。三年働いた後、実家の経済事情の悪化により信楽に戻り、丸熊陶業に就職。深野心仙に弟子入りし、絵付けを学び、丸熊陶業初の女性絵付け師として新聞に載る。

川原常治…北村一輝 戦争や商売の失敗で何もかも失い、大阪から信楽にやってきた。気のいい家長だが、酒好きで、借金もある。にもかかわらず人助けをしてしまうお人好し。運送業を営んでいる。
家に泥棒が入り、
喜美子の給料を前借りに行く。オート三輪を無理して買ったうえに捻挫して働けなくなって喜美子を呼び戻す。

川原マツ…富田靖子 地主の娘だったがなぜか常治と結婚。体が弱いらしく家事を喜美子の手伝いに頼っている。あまり子供の教育に熱心には見えない。
川原直子…桜庭ななみ 幼少期 やくわなつみ→安原琉那 川原家次女 空襲でこわい目にあってPTSDに苦しんでいる。それを理由にわがまま放題。東京の熨斗谷電機の工場に就職する。
川原百合子…福田麻由子 幼少期 稲垣来泉→住田萌乃 末っ子でおとなしかったが、料理もするようになり、直子が東京に行くと気丈になっていく。

●熊谷家
熊谷照子…大島優子 幼少期 横溝菜帆 信楽の大きな窯元の娘。「友達になってあげてもいい」が口癖で喜美子にやたら構う。兄が学徒動員で戦死しているため、家業を継がないといけない。
婦人警官になりたかったが諦めた。高校生になっても友達がいないが、楽しげな様子を書いた手紙を大量に喜美子に送っている。喜美子とは幼いときキスした仲。京都の短大を卒業後、婿をとる。

熊谷秀男…阪田マサノブ  信楽で最も大きな「丸熊陶業」の社長。娘には甘い。
熊谷和歌子… 未知やすえ 照子の母。敏春を戦死した息子の身代わりのように思っている。
熊谷敏春…照子の婿。 京都の老舗旅館の息子。新商品開発に意欲を燃やす。

●大野家
大野信作…林遣都 幼少期 中村謙心 喜美子の幼馴染。
子供の頃は心身共に虚弱だったが、祖母の死以降、キャラ変し、モテるように。高校卒業後、役所に就職する。

大野忠信…マギー 大野雑貨店の店主。信作の父。戦争時、常治に助けられてその恩返しに、信楽に川原一家を呼んでなにかと世話する。
大野陽子…財前直見 信作の母。川原一家に目をかける。マツの貯金箱を預かったことで離婚の危機に直面する。

●信楽で出会った人たち 幼少期
慶乃川善…村上ショージ 丸熊陶業の陶工。陶芸家を目指していたが諦めて引退し草津へ引っ越す。喜美子に作品を「ゴミ」扱いされる。

草間宗一郎…佐藤隆太 大阪の闇市で常治に拾われる謎の旅人。医者の見立てでは「心に栄養が足りない」。戦時中は満州にいて、帰国の際、離れ離れになってしまった妻・里子の行方を探している。喜美子に柔道(草間流柔道)を教える。大阪に通訳の仕事で来たとき喜美子と再会。大阪には妻が別の男と結婚し店を営んでおり、離婚届を渡す。

工藤…福田転球  大阪から来た借金取り。  幼い子どもがいる。
本木…武蔵 大阪から来た借金取り。
…中川元喜  常治に雇われていたが、突然いなくなる。川原家のお金を盗んだ疑惑。
博之…請園裕太 常治に雇われていたが、突然いなくなる。川原家のお金を盗んだ疑惑。

●信楽 丸熊陶業の人々
城崎剛造…渋谷天外 丸熊陶業に呼ばれて来た絵付け師。気難しく、社長と反りが合わず辞める。
加山…田中章 丸熊陶業社員。
原下…杉森大祐 城崎の弟子。
八重子…宮川サキ 丸熊陶業で陶工の食事やお茶の世話をする。
…西村亜矢子 丸熊陶業で陶工の食事やお茶の世話をする。

深野心仙…イッセー尾形  元日本画で戦後、火鉢の絵付け師となる。喜美子を9番目の弟子にする。
池ノ内富三郎…夙川アトム 深野の一番弟子。
磯貝忠彦…三谷昌登 深野の二番弟子。

藤永一徹…久保山知洋 陶器会社で企画開発をやっていて、敏春に雇われる。
津山秋安…遠藤雄弥 大阪の建築資材研究所にいて、敏春に雇われる。
十代田八郎…松下洸平 京都の美術大学出身。祖父が買った深野の絵をお米に代えた過去がある。

●大阪 荒木荘の人々
荒木さだ…羽野晶紀 荒木荘の大家。下着デザイナーでもある。マツの遠縁。
大久保のぶ子…三林京子 荒木荘の女中を長らく務めていた。喜美子を雇うことに反対するが、辛抱して彼女を一人前に鍛え上げたすえ、引退し娘の住む地へ引っ越す。女中の月給が安いのでストッキングの繕い物の内職をさせる。
酒田圭介…溝端淳平 荒木荘の下宿人で、医学生。妹を原因不明の病で亡くしている。喜美子に密かに恋されるが、あき子に一目惚れして、交際のすえ、荒木荘を出る。
庵堂ちや子…水野美紀 荒木荘の下宿人。新聞記者だったが、不況で、尊敬する上司・平田が他紙に引き抜かれたため、退社。女性誌の記者となり、琵琶湖大橋の取材のおり、信楽の喜美子を訪ねる。
田中雄太郎…木本武宏 荒木荘の下宿人。市役所をやめて俳優を目指すが、デビュー作「大阪ここにあり」以降、出演作がない。

●大阪の人たち 
マスター…オール阪神 喫茶店のマスター。静を休業し、歌える喫茶「さえずり」を新装開店した。
平田昭三…辻本茂雄 デイリー大阪編集長 バツイチ 喜美子の働きを気に入って、引き抜こうとする。
不況になって大手新聞社に引き抜かれた。
石ノ原…松木賢三 デイリー大阪記者
タク坊…マエチャン デイリー大阪記者
二ノ宮京子…木全晶子 荒木商事社員 下着ファッションショーに参加
千賀子…小原華 下着ファッションショーに参加
麻子…井上安世 下着ファッションショーに参加
珠子…津川マミ 下着ファッションショーに参加 
アケミ…あだち理絵子 道頓堀のキャバレーのホステス お化粧のアドバイザーとしてさだに呼ばれる。

泉田工業の会長・泉田庄一郎…芦屋雁三郎 あき子の父。荒木荘の前を犬のゴンを散歩させていた。
泉田あき子 …佐津川愛美 圭介に一目惚れされて交際をはじめる。

ジョージ富士川…西川貴教 「自由は不自由だ」がキメ台詞の人気芸術家。喜美子が通おうと思っている美術学校の特別講師。
草間里子…行平あい佳 草間と満州からの帰り生き別れ、別の男と大阪で飯屋を営んでいる。妊娠もしている。

あらすじ


第一週 昭和22年 喜美子9歳  家族で大阪から信楽に引っ越してくる。信楽焼と出会う。
第二週 昭和28年 喜美子15歳 中学を卒業し、大阪に就職する。
第三週 昭和28年 喜美子15歳 大阪の荒木荘で女中見習い。初任給1000円を仕送りする。
第四週 昭和30年 喜美子18歳 女中として一人前になり荒木荘を切り盛りする。
第五週 昭和30年秋から暮にかけて。喜美子、初恋と失恋。美術学校に行くことを決める。
第六週 昭和31年 喜美子、信楽に戻り、丸熊陶業で働きはじめる。
第七週 昭和31年 喜美子、火鉢の絵付けに魅入られ、深野心仙の弟子になる。
第八週 昭和34年 喜美子21歳 「信楽初の女性絵付け師ミッコー」として新聞に載る。

脚本:水橋文美江
演出:中島由貴、佐藤譲、鈴木航ほか
音楽:冬野ユミ
キャスト: 戸田恵梨香、北村一輝、富田靖子、桜庭ななみ、福田麻由子、佐藤隆太、大島優子、林 遣都、財前直見、水野美紀、溝端淳平ほか
語り:中條誠子アナウンサー
主題歌:Superfly「フレア」
制作統括:内田ゆき
編集部おすすめ