生田斗真主演の土曜ドラマ「俺の話は長い」(日本テレビ系)は傑作だと思う。そういう記事をあまり見かけないので、あえて繰り返してみる。
「俺の話は長い」は傑作だ! 
生田斗真「俺の話は長い」はホームドラマの傑作。「サザエさん」「男はつらいよ」を引き合いに検証してみた

「ザ・テレビジョン」 首都圏関東版 2019年10/18号

あらためてストーリーを紹介しよう。といっても、特に大きなストーリーらしいストーリーはない。

主人公は31歳のニートで口喧嘩には絶対に負けない屁理屈の天才というどうしようもないスペックを持つ男・岸辺満(生田斗真)。夫に先立たれてから息子をつい甘やかしてしまう母・房枝に養ってもらっていたが、そこへ家の改築のため、口うるさい姉の綾子(小池栄子)、綾子に頭が上がらない夫の光司(安田顕)、人間関係で悩みを抱える姪の春海(清原果耶)と同居することになるというお話。見どころは、満と綾子を中心とした家族同士で繰り広げられる丁々発止の会話である。

公式サイトには次のように書かれている。

「これは30代でニート、親元にいる男子がざらに居る今の日本、このドラマはそんな『変わるのが怖い、しんどい』がゆえにヘリクツをこきまくるダメ男の、奮闘や挫折やしょうもなさと、それに翻弄されながら絆を深めていく家族を笑いながら見守るホームドラマです」

そう、「俺の話は長い」はいまどき珍しいホームドラマなのだ。櫨山裕子プロデューサーはこのドラマのポイントとして「ホームドラマの復権」を挙げている(スポーツ報知 9月5日)。

そっくりな境遇の満と20年後のカツオ


ホームドラマは昭和の時代に隆盛をきわめたジャンルだ。大きな事件などは起きず、平凡な日常の中で家族を中心とした人情の機微をていねいに描く作品が多い。平成の30年間でほぼ滅んだが、最近徐々に復活の兆しを見せている(ような気がする)。筆者は「きのう何食べた?」を「令和最初のホームドラマ」と呼んでいる。

昨今の視聴者にもっとも馴染み深いホームドラマは「サザエさん」だろう(アニメだけど)。
「俺の話は長い」は「その後の『サザエさん』」としても観ることができる。なお、30分×2本立てという特徴的なスタイルが「サザエさん形式」と呼ばれることもあった(日刊スポーツ 10月8日)。製作者サイドも意識していた部分はあると思う。

屁理屈ばかりで働かない満が20年後のカツオだとすると、勝ち気で姉弟ケンカばかりしている綾子がサザエ、妻の家族と同居する光司がマスオ、母親の房枝はもちろんフネだ。春海はワカメとタラちゃんのフュージョン。波平は惜しくも死んだ後ということになる。岸辺家を「20年後の磯野家」と見立てることはあながち無理筋ではないのではないだろうか。

奇しくも天海祐希主演のドラマ「磯野家の人々~20年後のサザエさん」が先日放映されたばかりなので、2作品を比較してみても面白いだろう。「失われた20年」を生きてきて、世の中との折り合いをうまくつけることができずに悩んでいる満とカツオの境遇は実によく似ている(2人とも飲食店経営に手を染めていることも同じ)。

全体的に沈鬱なムードが覆っていた「磯野家の人々」だが、食卓に家族が揃うシーンだけは活気があった。ホームドラマの面白さの肝は食卓で家族の会話シーンにある。「俺の話は長い」はそのあたりも織り込んで作られているはずだ。


寅さん「メロン騒動」と満


屁理屈ばかり言って周囲を振り回す満を、映画「男はつらいよ」の主人公・車寅次郎になぞらえるという見立てもある。エキレビ!で「俺の話は長い」のレビューを連載しているむらたえりかさんも、満について「あんまり遠くには行かないタイプの寅さんのよう」と評していた(11月30日)

ホームドラマの面白さの肝は食卓を囲んだ家族の会話にあると書いたが、「男はつらいよ」もまさにそう。名シーンとして語り継がれているのが、第15作「男はつらいよ 寅次郎相合い傘」に登場する通称「メロン騒動」だ。「アメトーーク!」の「男はつらいよ芸人」の回でも紹介されていたので目にしたことのある人もいるだろう。
生田斗真「俺の話は長い」はホームドラマの傑作。「サザエさん」「男はつらいよ」を引き合いに検証してみた

「とらや」に送られてきた高級メロンを家族みんなで分けて食べていたのだが、ついうっかり寅次郎(渥美清)の分をとっておくのを忘れてしまった。そのことを知って激昂する寅さんは、長々と家族にイヤミを言い続ける。

「俺の言ってんのはメロン一切れのことを言ってんじゃねえんだよ! この家の人間の心のあり方について言ってんだ!」

これを聞いたおいちゃん(下條正巳)は激怒し、おばちゃん(三崎千恵子)は「メロンなんかなければよかった」と号泣する。メロン一切れで家族がしっちゃかめっちゃかになってしまうわけだが、どこか「俺の話は長い」にあってもおかしくない場面に見える。何より、ろくでなしの寅さんの言い草が、何かと食べ物の好みや自分の取り分を家族に主張して困らせる満そっくりだ。

叔父と姪である満と春海の関係は、伯父と甥である寅次郎と満男(吉岡秀隆)に置き換えることができる。進学や恋愛で悩んでいた満男は、世の中の常識とは異なる物の見方を持つ寅さんによく相談を持ちかけており、寅さんも満男をいつも応援していた。
満と春海はお互いもう少しクールだが、それでも春海は変わった叔父さんの満の物言いを信頼しているようだ。

「男はつらいよ」と「俺の話は長い」の共通点として、ちょっと複雑な家族構成も挙げられる。前者は叔父夫婦と異母兄妹と妹の夫(と子)が家族を形成していたが、後者は母と姉弟、姉の娘、娘と血のつながらない姉の夫で構成されている。ちょっと不自然な家族同士がお互いのことを思いつつ家族の絆を深めていく話として見ることができる。

何より、満もカツオも寅さんも「みんなに愛されるダメ男」である。「サザエさん」と「男はつらいよ」の良いエッセンスを引き継ぎつつ、現代の人々が抱える小さそうで実は大きな悩みを笑いに包み、家族愛とともにお茶の間にそっと届ける「俺の話は長い」はやはり傑作ホームドラマだと言わざるを得ない。最終回が楽しみだ。
(大山くまお)
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