薗田「第三のライオンなんているんですか」
「うん、例えば、王族にペットとして飼われているライオンいるじゃん。よくあの、『アラジン』とかに出てくる」
渡利「はは」
海星「ああいうのだいたい虎ですけどね」

思えば、(生田斗真)が「第三のライオン」になれないことは、海星の台詞に表れていたのかもしれない。


11月23日(土)放送の土曜ドラマ 『俺の話は長い』(日本テレビ系)第7話。満、春海(清原果耶)、光司(安田顕)、変わろうとした3人ともが上手くいかない切ない回だった。
生田斗真「俺の話は長い」満は放浪しないフーテンの寅か? 実家=ルンバの充電器理論7話
イラスト/たけだあや

明日香の家にルンバの充電器はなかった


前回、明日香(倉科カナ)から「やりたいことが見つからなくて何もしないのは良くないから、嫌じゃないことから始めてみたら?」と言われた話を聞いた満。ノートを買ってきて自分の「嫌じゃない事」リストを作っていた。

〈嫌じゃない事
・人と話す事
・喜んでもらう事
・本を読む事〉


簡潔に書かれたその下には、明日香のために作る今晩の献立が書いてある。満は、明日香のサポートをして暮らしたいと申し出る。自分の人生にこだわってきた満が、初めて他人のために生きたいと思った。しかし、明日香はがっかりしてしまう。

明日香「いや、だから、そんなこと求めてないんだって。サポートとか裏方とか言ってるけど、状況だけ見たらヒモと変わらないよ」
「はあ? そんな風に思ってんの?」
明日香「そんな風に思いたくないから言ってるの」
「じゃあ、俺のことは最初から遊びだったってこと?」
明日香「遊びの人にこんなことまで言うわけないじゃん」

一生懸命考えて出した「明日香のために生きる」という答えを否定され、満は混乱する。

明日香「働きたい気持ちは誰よりもあるって言ってたよね? その気持ちに必死に向き合い続けてきたんだよね? だから力になりたいって思ったの。私がそばにいてそんな楽な答えしか選べないんだったら、もう一緒にいないほうが良いと思う」

一方、満の実家では、光司が綾子(小池栄子)に相談もなく会社を早期退職していた。「喫茶 ポラリス」を継ぐと言い出したものの、コーヒーを淹れることや料理はもちろん、配膳すらまともにできない。


綾子「最初からそんなに上手くいくわけないでしょう」
光司「上手くいかないことにも、レベルがあると思うんだ……」
綾子「そんなにできなかったの?」
光司「ああ、明日の朝起きるのが怖いよ」

綾子にその意図はないのだが、「最初からそんなに上手くいくわけない」という台詞は、光司にも、満にも、(水沢林太郎)にフラれた春海にもかかっているように感じられる。

満は、「実家は、ルンバの基地(充電する場所)」と言い張っていた。明日香の家で、広い部屋を壁にぶつかりながら方向転換して掃除する満は、お掃除ロボットのルンバのようだ。でも、明日香の家に充電用の基地はない。

明日香に厳しく言われた満は、明日香の家を出て実家に戻るしかなくなってしまう。すぐに帰るのではなく、漫画喫茶で一晩過ごすところが満っぽい。

家族を振り回し、安心させる厄介者


「第三のライオン(明日香のサポート)」のときの海星の台詞や、綾子の台詞、ルンバの話など、満が実家に帰る予感に満ちていて、そのとおりに実家に戻ってくる満。

春海「遅いよ。海まで車出して」
「え? なんだよなんだよ、え? フラれたの?」
春海「うるさい」
「奇遇だね、俺もちょうど海に慰めてもらいに行こうと思ってたのよ」
春海「自分だってフラれてんじゃん」
「よーし! 張り切って行こー!」

第2話「其の三 焼きそばと海」で、満は落ち込む春海を海に連れて行って励ました。そのとき、二人はこんな会話をしていた。

春海「どうして人生の大事なことに限って、誰も教えてくれないんだろう」
「たまに教えてくれる人もいるんだけど、聞いてるときはそんな大事なことって気づかないもんでさ。たいていのことは傷ついて覚えるしかないんだよ」

満と春海は、好きになった相手にフラれたことで、自分の思い通りにいかない愛情もあることを知った。
大事なことを、傷つく経験をして覚えた。

「相手を思うことが、自分のためになると思ったんだけどなあ。まーた振り出しだよ」

ドラマがだいたい10話程度で完結すると考えると、7話で振り出しに戻ったと言われると、残り話数でどうなるのか? と期待と不安が生まれる。とはいえ、満と光司、春海は今回それぞれに一歩を踏み出しており、綾子も光司のベースを処分させたことを謝って丸くなった。些細な変化は、日々確実にある。

房枝「まったく困ったもんね」
春海「全然困った顔に見えないけど」
光司「フル充電すれば、きっと勢いよく走り出しますよ」
綾子「光司は人の心配してる場合じゃないからね」
光司「もちろんです」

最初は、綾子や房枝(原田美枝子)と一緒になって「満はいつ実家を出て働くのか?」という視点で見ていた。そのはずが、いつの間にか「満はいつ実家に戻って来てくれるんだろう」に擦り替わっていて、そして帰ってきたのを見て呆れながらも安心している。房枝もそんな風に感じているようだ。

満が家にいなかったら、春海は失恋を誰にも話せず傷ついたままだったかもしれない。光司も仕事を辞めなかったかもしれないし、ベースをBar クラッチに置けず捨ててしまい、綾子が謝る機会がなかったかも。房枝がポラリスを続けるのも、満と暮らしているからだ。

家の厄介者に見える男性も、どこかで家族や周りを助けている。
それは、1969年から始まった映画『男はつらいよ』シリーズの寅さんなどにも通ずるところがある。

今年10月から11月まで放送されていたドラマ『少年寅次郎』(NHK総合)では、寅さんがどんなこども時代を過ごしてきたかを描いていた。誰かを困らせる行動にも寅次郎なりの理由があり、すべては理解できなくても、母・光子がそれを受け入れ見守っていた。

満は口は達者だが、肝心なことは言わず、そのままいなくなったりもしてしまうし帰っても来る。それに房枝が嬉しそうな顔で「まったく困ったもんね」と言う。満は、あんまり遠くには行かないタイプの寅さんのようだ。実家には心配な妹・春海もいるし(正確には姪だけど、春海は満を「兄ちゃん」と呼ぶ)。

元々、綾子、光司、春海は、3ヶ月間のリフォーム期間だけ実家に住んでいる。今回、リフォーム後の家で房枝と暮らすという話もあった。満たち岸辺家と綾子たち秋葉家が離れて暮らすときは近づいている。別れをフラットに描くのもイメージができるし、意味を大いに含ませてほしい期待もある。

過去の「土曜ドラマ」枠を見ると、前回の『ボイス 110緊急指令室』、前々回『俺のスカート、どこ行った?』は全10話。
今回もそれに倣えば残り3話だ。終わってほしくない気持ちが強くなっていくが、満がどんな結末を迎えるのか、今から楽しみだ。

(むらたえりか)

=配信サイト=
hulu:https://www.hulu.jp/orebana
日テレ無料!(TADA):https://cu.ntv.co.jp/orebana_01-01/

=番組情報=
土曜ドラマ 『俺の話は長い』(日本テレビ系)
毎週土曜日よる10時〜
出演:生田斗真、安田顕、小池栄子、清原果耶、杉野遥亮、水沢林太郎、浜谷健司(ハマカーン)、本多力、きなり、西村まさ彦、原田美枝子、ほか
脚本:金子茂樹
音楽:得田真裕
主題歌:関ジャニ∞「友よ」(インフィニティ・レコーズ)
コーヒー指導・監修:篠崎好治
動物指導:ZOO動物プロ
国語指導:藤本裕子
チーフプロデューサー:池田健司
プロデューサー:櫨山裕子、秋元孝之
演出:中島悟 ほか
制作協力:オフィスクレッシェンド
製作著作:日本テレビ
番組公式サイト:https://www.ntv.co.jp/orebana/
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