12月14日(土)放送の土曜ドラマ 『俺の話は長い』(日本テレビ系)最終話。

家のリフォームが終わり、綾子(小池栄子)、光司(安田顕)、春海(清原果耶)の引っ越しの準備が始まった。
無職の弟・(生田斗真)を三ヶ月間で就職させると言っていた綾子だったが、それは諦めると母・房枝(原田美枝子)に話す。
生田斗真「俺の話は長い」最終話。ついに就職面接へ「スーツ似合ってるぞー!」満の長い話をもっと聞きたい
イラスト/たけだあや

誰もが日々、壮大じゃない伏線を回収している


引っ越しの準備は一気に、あっという間に進んでいく。その慌ただしさに乗せて、物語もあっという間に展開していく最終話だった。

光司「ああ、俺も綾子が昔よく作ってくれたロールキャベツが無性に食べたくなる時あるんだよな」
「まだ生きてるじゃないですか」
光司「独身時代の綾子はもう死んだよ」
「頼んで作ってもらえばいいじゃないですか」
光司「いやあ、頼めるわけないじゃない。手間はかかるし、俺無職だし」
「じゃあ、俺が代わりにガツンと言ってやりましょうか」
光司「それだけは本当にやめて」

ニートブラザーズとしての最後の時間を、こたつでみかんを食べながら過ごす二人。取るに足らない会話かと思いきや、満は光司の話をちゃんと覚えていた。

引っ越し当日、じゃんけんで負けて自転車で新居に向かうことになった綾子。満を道案内として連れて行く。河川敷で野球をするこどもたちを見て、こどもの頃に綾子のソフトボールの試合に満と父が応援に行ったことを思い出す。道がわかるところまで来たから帰ろうとする満を引き留め、綾子は「三ヶ月、色々ありがとうね」とお礼を言う。

「いや、別に大したことしてないけど」
綾子「特に春海のことは、本当に感謝してる」
「あ、光司さん、あんまいじめんなよ」
綾子「優しく接するようにする」
「ははは」
綾子「なあに?」
「ねえ、一個だけお願い聞いてもらってもいい?」

後になって、満のお願いは「光司さんに一度ロールキャベツを作ってあげてほしい」だったとわかる。満は光司の話をちゃんと覚えていたし、「ガツンと」ではなく綾子が受け入れやすいタイミングを見て話していた。

「伏線を回収する」という言葉があるが、ロールキャベツの件を含めて最終話にはそんなエピソードが多かった。


三ヶ月前は満が嫌いだと言っていたすき焼きがまた登場する。「友達と同じ高校は目指さないほうが良い」という満の言葉に、春海と(水沢林太郎)が別の答えを出す。以前満と食べられなかった土手鍋を、今度は房枝と満の二人きりで食べる。家具にぶつかりながら新居を動き回るルンバ……。

働くルンバがその暗示だったのだろうか。最後に、満はとうとう議員秘書の面接を受けることに決める。安くもなく高すぎもしない値段のスーツを新調し、満は面接に向かう。

面接の日は、ハーフマラソンがおこなわれていた。ランナーを応援する市民の「がんばれ!」という声に満は少し肩身が狭い。でも、マラソンを応援に来ていた春海や喫茶「ポラリス」の常連客たちが満を見つけ、その声は確実に満を応援するものになる。

光司や諸角(浜谷健司)たちのバンドが演奏する、あまり上手じゃない『ロッキー』のテーマ曲。キーボードの人は練習と同じところを同じように間違っていた。
綾子の応援は、こどもの頃に満に言われたことに似ている。満は少し涙ぐみながら、面接に向かって歩いて行った。

「スーツ似合ってるぞー!」

すれ違ったランナーからそんな声を掛けられ振り返ると、それは走り去っていく明日香(倉科カナ)の声だった。「いってきます」と、満は小さく返す。明日香だけでなく、きっと応援してくれたみんなに。

涙ぐんでいる満にグッときてしまうが、客観的には6年無職だった人がただ就職の面接に行くだけだ。まだ就職が決まったわけではない。でも、たったそれだけのことに感動できる。これまでの満を覚えているからだ。

日常で起こる伏線回収とは、壮大なものではない。約束を守るとか、誰かの言ったことやしたことをちゃんと覚えているとか、支えてくれていた人の存在に気づくとか、そんなことで誰もが日々伏線を回収している。

『俺の話は長い』その後について


面接でも普段の満らしく屁理屈をかます満。
その後、就職できたのかどうかはわからないままお話は終わる。それもまた、人生は続くのだと感じられるラストだった。

光司と春海は、新居に向かう車の中でこんな会話をしていた。

光司「春海はどう思う?」
春海「何が?」
光司「お父さんがタクシー運転手になるのは嫌かな」
春海「ううん。お父さんがやりたかったらやれば良いと思う」

初めて「お父さん」と呼ばれた光司は、感極まって路肩に停車しその言葉を噛みしめる。これもまた、二人の関係がこの先も続いていくことを思わせる。

房枝は牧本(西村まさ彦)に初めて墓参りの車の運転を頼む。綾子は光司が春海の塾のお迎えに行くというのを「助かるわ」と嬉しそうに受け入れる。登場してきたみんなに過去と今があり、そしてこれからも日常が続いていくという雰囲気をまとわせて終わるのがきれいで優しい最終話だった。

最後に誰もいない岸辺家の家の中が映された。綾子たちがいなくなった岸辺家は、ドラマのセットらしくきれいに整頓されていた。それなのに、満たちの生活の雰囲気が感じられる。
変わるもの、変わらないものと、続いてきた暮らし、続いていく暮らしを、会話劇に乗せて大切に描いてきたからこそ残る「生活の香り」があった。

『俺の話は長い』を見始めてから、岸辺家、秋葉家のみんなが出演しているCMを見ると反射的に「満だ」「あ、綾子だ」と思うようになった。洗濯洗剤のCMの生田斗真や安田顕、お味噌汁などのCMの小池栄子、化粧品のCMの原田美枝子、ドリンクのCMの清原果耶。すっかり本作のイメージで、親しみを感じる。

すでに「満が就職してからの続編が見たい」「春海がラジオパーソナリティになった姿が見たい」「100年続いてほしい」と、シリーズ化を希望する声もSNSで複数見かけた。私は割とドラマの続編や映画版は蛇足に感じることが多く要らないと思うタイプだが、今作ばかりは確かに別なお話も見たいと思ってしまう。

また、多くの男性がハマっていたというのも本作の特徴のひとつだった(参考:オリコンニュース「男性から支持される『俺の話は長い』、満足度90Pt台へ上昇」)。「満は俺だ! 光司は俺だ!」と思うほど感情移入してしまう男性もいると聞く。しかし、参考記事でも実際のファンに話を聞いても客観的に「会話劇が上手い」などの感想ばかりで、どうも「どんな部分で自分は彼らに共感するのか」という話が出てこない。「満は俺だ!」というほどにハマっているはずなのに!

近年、男性はセルフケアが苦手だという課題が話題にのぼり始めている。ざっくり言うと、体調面のケアが苦手なほか、「男らしさ」の制約や見栄、感情の言語化訓練の少なさなどから、自分がどんな部分に生きづらさやもどかしさを感じているのか自己分析が上手くできない人が多いようだ。

満や光司に強く共感し盛り上がる男性たちの姿を見ると、そこに何を感じたのか言語化することが、自分の内面の理解につながっていくように感じられた。
もし続編があるならば、それまでに、あるいはそのときには、また満と光司に会いたいと思う男性たちの話ももっと深く聞いてみたい。
(むらたえりか)

=配信サイト=
hulu:https://www.hulu.jp/orebana
日テレ無料!(TADA):https://cu.ntv.co.jp/orebana_01-01/

=番組情報=
土曜ドラマ 『俺の話は長い』(日本テレビ系)
毎週土曜日よる10時〜
出演:生田斗真、安田顕、小池栄子、清原果耶、杉野遥亮、水沢林太郎、浜谷健司(ハマカーン)、本多力、きなり、西村まさ彦、原田美枝子、ほか
脚本:金子茂樹
音楽:得田真裕
主題歌:関ジャニ∞「友よ」(インフィニティ・レコーズ)
コーヒー指導・監修:篠崎好治
動物指導:ZOO動物プロ
国語指導:藤本裕子
チーフプロデューサー:池田健司
プロデューサー:櫨山裕子、秋元孝之
演出:中島悟 ほか
制作協力:オフィスクレッシェンド
製作著作:日本テレビ
番組公式サイト:https://www.ntv.co.jp/orebana/
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