粗品号泣「M-1グランプリ アナザーストーリー」芸人たちの緊張と緩和のドラマをご報告
「井上マサキのテレビっ子からご報告があります」第21回。ライターでテレビっ子の井上マサキでございます。この連載は日々テレビを見ていて気になった細かいこと、今のアレってアレなんじゃないのと思ったことを、週報代わりにご報告できればと思っております。どうぞよろしくお願いします。

いよいよ明日、漫才頂上決戦『M-1グランプリ2019』(テレビ朝日系列)が放送される。総エントリー数は初めて5000組を越え、決勝進出9組中7組が初出場。
なにが起こる予感が止まらない。
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年に1回開催される『M-1グランプリ』だが、その裏には多くの芸人たちの物語がある。何年もかけて積み重ねられたそれは、まるで大河ドラマのようだ。今年のM-1グランプリに思いを馳せる前に、昨年のドラマを振り返っておきたい。TVerで配信されている『M-1グランプリ アナザーストーリー』で。

優勝候補だった3組それぞれの軌跡


『M-1グランプリ アナザーストーリー』は、M-1グランプリを主催するABC(朝日放送テレビ)で昨年12月27日放送されたドキュメンタリーだ。

2018年のM-1グランプリは、決勝進出者を3つのグループに分類することができた。結成15年を迎えた「ラストイヤー組」、過去に決勝進出しており出場資格がまだ残っている「常連組」、そして「初出場組」。敗者復活のミキを除くと、それぞれが3組ずつにきれいに分かれていた。

霜降り明星は初出場で、彼らの優勝を予想した人は少なかった。『M-1グランプリ アナザーストーリー』も、最初は優勝候補としてラストイヤー組のジャルジャル、常連組の和牛とかまいたちにスポットを当てる。

M-1グランプリ関連のドキュメンタリーで毎回驚かされるのは、アーカイブの豊富さだ。例えばかまいたち。
2004年大会の1回戦、舞台袖に控える結成1年目のかまいたちのインタビューが残っている。「1回戦突破」を目標にしていた初々しいかまいたちは、翌年結成2年目で準決勝に進出。しかしそこから先に進めない。20代の2人が悔しがる姿が、BGMに流れるフジファブリック「若者のすべて」にシンクロする。

対して、悔しさを見せなかったのがジャルジャルだった。NSC在籍中19歳でM-1に挑戦した2人は、メイキングのカメラに「優勝しちゃいます!」「うん!」とおちゃらけていた。その後も毎年M-1に挑戦し、ほどなく準決勝の常連になるが、あくまで軸足はコント。しかし、挑戦を続けるうちに心境が変わった。2015年には最終決戦まで残り、「漫才楽しいやんけってスイッチ入ってもうて」(福徳)と、ラスト3年で漫才に本腰を入れ始める。

そして和牛。「彼らは決して漫才エリートではなかった」というナレーションと共に映し出されたのは、コンビを結成した2016年の1回戦の様子。2009年にようやく準決勝にたどり着くも、かまいたちやジャルジャルのようなインタビュー映像はなく、時間は一気に2015年の決勝戦へ。
ここから和牛にしかわからない物語がはじまる。2年連続の準優勝はM-1史上初のこと。2017年の放送終了後、2人は楽屋に戻らず、袖に残ったまま呆然と座っていた。

三者三様のストーリーは2018年にもつれ込む。結果はご存じの通り。終了後、ジャルジャル福徳は「これだけ漫才に本気になれたのが意外でした」、和牛川西は「やりきりました」と、共に晴れやかな表情を見せていた。そういえばこの2組は、本番の舞台でも歓喜に沸く霜降り明星の後ろでお互いを称え合っていたっけ。

一方、かまいたち山内は、夜の六本木で帰路につきながら「今のところ(M-1は)今年で終わり」という。自信があるネタだった。今年で終わらせるつもりだった。しかし「一晩寝たら気が変わるかもしれない」「スロットで大負けした次の日も結局並んでたんで、そういう現象が起きるかもしれない」と言い残して密着は終わる。

2019年、かまいたちはラストイヤーで決勝に進出している。
「そういう現象」が起き、再び決勝の舞台に並んでいた。

感情を爆発させる霜降り明星、そして……


もちろん、『M-1グランプリ アナザーストーリー』には霜降り明星の軌跡も収められている。コンビ結成は2013年。2015年の初挑戦は3回戦で敗退し、翌2016年は準決勝敗退。2017年に準決勝敗退が決まったときは、どちらもカメラの前で落胆を隠そうとしなかった。せいやは楽屋に倒れ込み、粗品は「受からんと思ってなかった」「むかつく」といらだつ。それだけ決勝への思いが強かった。

2018年。2人は準決勝の出来に袖で何度もガッツポーズし、決勝進出が決まれば共に泣き崩れ、優勝の瞬間に雄叫びをあげる。楽屋に戻った粗品は母親に電話をかけ「ちょっとだけ親孝行できました」と号泣した。若い2人が何度も何度も感情を爆発させる姿に、少年マンガのようなカタルシスを覚える。

そして、2019年だ。


決勝の顔ぶれは昨年までとガラリと変わった。ファイナリスト経験者は見取り図とかまいたちのみ。他の7組は初出場、うち5組はシード権(2018年に準決勝に進んだ組は1回戦が免除される)すらなかった。全国区ではまだ無名のコンビも多いが、関西で活躍する者もいれば、ライブで定評のある者もいる。初出場の彼らにだって、ストーリーがある。

また、敗者復活も忘れてはいけない。今年は和牛が準決勝で敗退しているが、敗者復活で上がってくる可能性は十分にある。昨年実現しなかった、最終決戦での和牛vsかまいたちだってありえるだろう。ただ、ふたを開けるまで誰が復活するかはわからない。

昨年と同じく初出場初優勝が実現するのか、常連組が意地を見せるのか、何がどうなってもドラマになる。10組の芸人のストーリーが交錯するM-1グランプリ決勝の舞台。彼らの人生が変わるのを見届けたくて、毎年手に汗を握ってテレビの前にいる。
あぁ、落ち着かない。
(井上マサキ タイトルデザイン/まつもとりえこ)
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