若宮「生きるために知らなくていいことだってあるんだぞ」
獅子雄「俺は、生きるために知りたいんだ」

12月16日(月)放送のドラマ『シャーロック』(フジテレビ系)。「えーっ!」と言っているうちに終わってしまう最終話だった。
ついにモリアーティにあたる男・守谷が登場するも、謎を残して本編は幕を下ろした。
えー!最終回ディーン「シャーロック」モリアーティ=守谷は偽物なのか。謎は今夜特別編に持ち越し?
イラスト/まつもとりえこ

前回、江藤(佐々木蔵之介)が屋上で東京を見下ろしながら、意味ありげに「君が代」を歌っていた。その演出や歌詞の意味などから、江藤が守谷か。あるいは、江藤も守谷の信奉者か。と予想してしまった。しかし、オープニングのタイトルバックの時点でその予想は否定される。


廊下を歩いてきた江藤が、「レストレード」と判を押す。若宮(岩田剛典)は、獅子雄(ディーン・フジオカ)を真似るようにペンで「ワトソン」と書く。そして獅子雄は、指を噛んで自らの血で「シャーロック」と記した。やはり江藤は原作の「レストレード警部」で間違いない。その点をスッキリさせてくれたところで本編に向かう親切設計だ。

「ライヘンバッハの滝」のように海に消えた守谷と獅子雄


前回の最後に起こった東京拘置所集団脱走事件。第3話に登場した市川利枝子(伊藤歩)を含めた守谷の信奉者と思われる者たちが、看守の手を借りて逃亡した。


江藤「見つけた場合は、手荒な真似をしても構わない。都民を守れ」

捜査一課長への昇進を前に、脱走犯たちを確実に捕まえたい江藤。守谷への手がかりがほしい獅子雄は情報提供をするように言うが、江藤はトップシークレットだとそれを断る。守谷が拘置所にいたことや、守谷を捕まえたのが自分だったことを、江藤は獅子雄に隠していた。

江藤との仲が決裂した獅子雄は、レオ(ゆうたろう)や若宮、兄の万亀雄(高橋克典)らの協力を得ながら独自に守谷に迫る。

獅子雄「急げ。
何百人で大捜索している警察より、お前らのほうが優秀だろう」
レオ「当然」

思えば、レオの存在も謎が多い。獅子雄の「お前ら」という台詞や、レオからのメッセージの「仲間」という言葉から、レオが仲間とともに獅子雄に協力していることが明らかになった。そのおかげで、レオの背景にもまた広がりが感じられた。

獅子雄と万亀雄が異母兄弟であることを市川が調べ上げ、獅子雄の人生も少しだけ明かされる。市川が守谷に心酔する理由や、江藤の本心、守谷たちの脱走の意図なども次々と示されていくスピード感のある展開。しかし、肝心の守谷の正体は最後まで謎のままだった。


守谷「あなたは私が、本当の守谷だと思っていますか?」

獅子雄は守谷を名乗る人物と会った。最終話で守谷を演じたのは、俳優の大西信満。過去には、映画『キャタピラー』(2010年)、『さよなら渓谷』(2013年)、『止められるか、俺たちを』(2018年)などに出演している。

守谷は、自分の力を誇示するために東京の治安と交通を混乱させようとしていた。守谷を止めるか、守谷の信徒になるかを迫られる獅子雄。対峙する二人を若宮が見つけたが、彼らは原作の『最後の事件』の「ライヘンバッハの滝」さながら、若宮の目の前で海に落ちて消息不明となってしまった。


長台詞にはない、日常の繰り返しの説得力


若宮「生きるために知らなくていいことだってあるんだぞ」
獅子雄「俺は、生きるために知りたいんだ」

「TOKYOを、解け。」というコピーを掲げた『シャーロック』。若宮の「知らなくていいことだってある」という台詞は世論で、獅子雄はそれに抗う者として生まれたのかもしれない。

守谷については、大西信満が演じていたのが本当に守谷本人だったのか? という点も含めて謎を残して終わった。守谷が罪を犯し続ける理由は、格差社会への復讐と、頭が良すぎるという自分の才能を活かす目的であったことは語られた。だが、消化不良感は否めない。

守谷は「これまで、私のような人間が声をあげようとすると拳をあげるしかありませんでした。世界中で起きているデモのように。
でもねえ、拳を突き上げ政治家や金持ちを批判したところで何も変わらない」と言っていた。

「拳をあげるしかありませんでした」という認識はどこかズレている。香港の逃亡犯条例改正案に反対するデモは犠牲を出しながらも一定の成果をあげており、フランスの年金改革に関するストライキは多くの市民の賛同を得て1週間以上も続いた。「何も変わらない」わけではない。

守谷「悪の概念は一部の人間が作ったものです。物を略奪し、人を殺すことは悪い。でも、ほしいものを自由に奪い、殺されて当然の人間を殺すことが許された世界のほうが、人は幸せに生きれるかもしれない」

この台詞もかなり中二病的だ。哲学的な問いとしてあまりに浅い。これに市川たちが心酔したのだとは、ちょっと納得がいかない。

もしかしたら、もっと早くから守谷を登場させていれば、あるいは守谷からのメッセージが多少あれば、この思想も深掘りできたのかもしれない。たった1回の最終話という短い時間で、多くの信奉者を持つ思想犯を表現するのは難しかったか。あるいは、最終話の守谷は、例えばSNSやオンラインサロンなどで聞こえの良いことを言ってはユーザーや金を集める者などへの批評的存在だったなどと考えられなくもないが……。

獅子雄「少なくとも俺は、そんな幸せは要らない」
守谷「あなたも私と同じように、退屈が嫌いでしょう?」
獅子雄「確かに、退屈は大の苦手だ。だが俺はあんたと違って、平凡な日々の大切さもよく知っている」

守谷を名乗る男との会話で最も重要だったのはここで、孤独に生きてきた獅子雄が若宮との暮らしで「平凡な日々の大切さを知った」という点だ。そこだけは説得力があった。

獅子雄「行くぞ、若宮ちゃん」
若宮「おう。急ぐぞ、早くしろって」
獅子雄「いいから早く出せ」
若宮「しっかりつかまってろ……おおっ!」

守谷の居場所の見当がついたときの、獅子雄と若宮のやり取り。自然にヘルメットを差し出し、「しっかりつかまってろ」という若宮の言葉に従って腰にがっつりと手を回す獅子雄。ここに一番グッときた。熱のこもった長台詞よりも、毎話繰り返されてきたささいなやり取りのほうに「説得力」を感じる。

今夜9時からは「特別編・誉獅子雄という男」


若宮「でも俺、獅子雄のこと本当はよく知らなかった。なぜ俺なんかの部屋が気に入ったのか。なぜ飯も食わず推理にのめり込んでいたのか。なぜ考えるとき、わざわざバイオリンを弾いていたのか。なぜ格闘技がやたら好きだったのか。なぜ唐突に消えてしまったのか……」

毎回あったバイオリンのシーンは心象風景なのか現実なのか……、と疑問だったところ、若宮が最後に現実だったことを明かしてくれた。

江藤の本音、守谷の姿、獅子雄が消える終わり方に「えーっ!」と唖然となっているところに、次週の「特別編・誉獅子雄という男」の放送が発表された。

月9枠では、『監察医 朝顔』、『ラジエーションハウス?放射線科の診断レポート?』と、全11話で本編を放送したあとに「特別編」が設けられるパターンが続いている。本当の守谷は他にいるのか、獅子雄は生きているのかいないのかなど、消化不良にも感じられた本編への解が、特別編で示されることを期待している。

特別編の放送は、今夜9時から。
(むらたえりか)

=配信サイト=
FOD:https://fod.fujitv.co.jp/s/genre/drama/ser4l20/
TVer:https://tver.jp/corner/f0040635

=作品情報=
『シャーロック:アントールドストーリーズ』(フジテレビ系)
10月7日(月)スタート 毎週月曜21:00〜21:54
出演:ディーン・フジオカ、岩田剛典、山田真歩、ゆうたろう、佐々木蔵之介ほか
原作:アーサー・コナン・ドイル『シャーロック・ホームズ』シリーズ
脚本:井上由美子
プロデュース:太田大
音楽:菅野祐悟
オープニングテーマ:DEAN FUJIOKA「Searching For The Ghost」(A-Sketch)
主題歌:DEAN FUJIOKA「Shelly」(A-Sketch)
演出:西谷弘、野田悠介、永山耕三
制作著作:フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/sherlock/