12月23日(月)放送のドラマ『シャーロック』(フジテレビ系)特別編。

守谷(大西信満)とともに海に飛び込み、そのまま行方不明になった獅子雄(ディーン・フジオカ)。
獅子雄の帰りを待つ若宮(岩田剛典)を、ジャーナリストを名乗る女性・門司かれん(木南晴夏)が訪ねてくる。かれんは、獅子雄の功績を後世に伝えるために、獅子雄について調べているという。

かれん「彼に関わった人たちの思い。私はそれこそが、誉獅子雄という男が存在した、いえ、この世に存在する意義だと思っています」

「いつ獅子雄の生死が確定するのか」という緊張感を持ちながら、獅子雄と若宮が解いてきた事件を振り返っていった。
ディーン×岩田剛典「シャーロック」謎を残して終わるのは原作オマージュか。2022年続編開始に希望
イラスト/まつもとりえこ(一話)

獅子雄は「正義の人」だったのか?


どの時点で「獅子雄は生きているようだ」と感じただろうか。さまざまポイントはあったかもしれないが、最も違和感があったのは獅子雄から若宮への手紙の言葉だ。

獅子雄「だが、安心してほしい。諸悪の根源をこの手で葬り去れることは、この上ない喜びだ」

本編では、獅子雄が守谷を追う動機は正義のためではなく、自分の「知りたい」という欲求のためだと強調されてきた。それなのに「諸悪の根源」という強い言葉を使い、また「葬り去るのが喜び」とまで言い切ってしまっている。若宮は手紙を読んで獅子雄の死を確信し泣き崩れていたが、なんだか大げさすぎて若宮をからかっているような文面にも感じられた。

若宮とかれんは、「獅子雄に裁かれた人」と「獅子雄に助けられた人」を訪ねて歩く。

かれんが訪ねたのは主に「裁かれた人」。登場したのは、赤羽汀子(松本まりか)、石橋卓也(金子ノブアキ)、乾千沙子(若村麻由美)、宇井宗司(和田正人)、長嶺加奈子(黒沢あすか)、加藤茂(田邊和也)、そして市川利枝子(伊藤歩)だ。


第1話での怪演が話題となった松本まりか演じる汀子は、獅子雄が死んだと聞いて殺されたと決めつける。「色んな人に恨まれていたでしょうから、殺されても不思議じゃないわ」と。そして、かれんにこう迫った。

汀子「だったらこう書いて。『あの男のせいで逮捕された人間は誰一人反省していない無駄な、自己満足の正義だ』って」

獅子雄が好奇心で謎を解き明かすことは、正義でも義憤でも何でもなかったはずだ。純粋な獅子雄の言動に正義や人助けなどの意味を見出しているのは、いつも他の誰か。汀子や加奈子が獅子雄を恨む一方で、石橋や加藤は獅子雄に感謝をしていた。

若宮が会ったのは獅子雄に「救われた人」たちだ。河本美沙(岸井ゆきの)、細谷潤(小林喜日)、乾貴久(小市慢太郎)、高遠綾香(吉川愛)、羽佐間虎夫(山城琉飛)、古賀智志(大友康平)。虎夫に会いに行ったときなどは、若宮の熱湯芸も健在だった。

綾香「誉さんは、最初から私をよく見てくれました。それは疑いの目かもしれないけど、見てもらえることは嬉しかった」
若宮「獅子雄に救われたんだね」
綾香「はい。
でも、いま前を向いていられるのは若宮さんのおかげです」

獅子雄はその頭の良さで人を救っていたが、若宮はただ獅子雄の謎解きに協力していたわけではなかった。精神科医としての技量と、普通の人だからこその共感力で、綾香や美沙ら居場所がない人たちの心をケアしていたことが、今回明らかになる。

こうして、獅子雄が謎を解いてきた意義が「正義」という一面的なものではないことが、関わってきた人たちの言葉で明らかになっていく。それなのに、獅子雄のほうがまるで正義や義憤のために死を選ぶかのような言葉を残すのは、やはり不自然だった。

若宮「俺は……、俺は前に進むためにここに来たんだ」

獅子雄が死んだことを確信し、発見されたコートにすがって泣く若宮。船の上でバイオリンを弾く獅子雄の幻覚を見る若宮。獅子雄が落ちた海に白い花束を投げ込み、獅子雄には言わなかった別れの言葉をかれんに言う。

若宮「さよなら」
かれん「達者でね」
ディーン×岩田剛典「シャーロック」謎を残して終わるのは原作オマージュか。2022年続編開始に希望
イラスト/まつもとりえこ

獅子雄の帰還と「語られざる事件」


3年後、若宮は獅子雄の真似をして、白衣のような白いコートを着て江藤(佐々木蔵之介)の捜査を手伝っていた。しかし江藤が降格しているのを見るに、その成果はあまり出ていないのだろう。原作の語られざる事件「にせ洗濯屋事件」を踏襲したのであろう事件の推理をしているところに、獅子雄が唐突に現れた。

獅子雄が今までどこで何をしていたのか語られることはなかった。だが、獅子雄の「そんなんじゃ盛り上がらないなあ」という声が聞こえ、変わらない調子で推理を披露し始めただけでドラマは一気に「盛り上がって」しまう。
これまで本編で繰り返されてきたお約束の嬉しさは、そのまま獅子雄帰還の嬉しさになった。

若宮「2022年12月24日、この男は何事もなかったかのように、再び僕の目の前に現れた。この再会が何を意味するのか、今はまだわからない。3年ぶりに動き出した彼との時間は、すべて記録に残すことにする。僕の名前は若宮潤一。そして彼は、誉獅子雄」
ディーン×岩田剛典「シャーロック」謎を残して終わるのは原作オマージュか。2022年続編開始に希望

原作の語られざる事件を解き明かすだけでなく、獅子雄自身が語られざる事件・物語を持った。それは、『シャーロック』は独立した物語ではなく原作との地続きにあるという意思のようにも感じられる。また、本作自身が私たちにもアントールドストーリー、語られざる事件を残したことで「知りたい」という好奇心をくすぐっている。

かれんが市川に会いに行ったとき、市川は守谷への忠誠を誓うために自分の舌を噛み切ろうとした。市川は守谷が生きていることを確信しているのだろう。大西信満が演じていた守谷は本当の守谷だったのか? という謎も、いまだ残されたままだ。

獅子雄や守谷に謎を残したまま終わることを「消化不良」と感じていたが、語られざる事件を残すことは原作に倣っているのだと考えると、この終わり方も納得。
一方で、これからの獅子雄と若宮をもっと知りたいという思いもある。原作にも、まだまだ語られざる事件は残されている。

獅子雄が若宮のもとに帰ってきたのは2022年12月24日。そのときまた、『シャーロック』の続編が始まることを期待している。
(むらたえりか)

=配信サイト=
FOD:https://fod.fujitv.co.jp/s/genre/drama/ser4l20/
TVer:https://tver.jp/corner/f0040635

=作品情報=
『シャーロック:アントールドストーリーズ』(フジテレビ系)
10月7日(月)スタート 毎週月曜21:00〜21:54
出演:ディーン・フジオカ、岩田剛典、山田真歩、ゆうたろう、佐々木蔵之介ほか
原作:アーサー・コナン・ドイル『シャーロック・ホームズ』シリーズ
脚本:井上由美子
プロデュース:太田大
音楽:菅野祐悟
オープニングテーマ:DEAN FUJIOKA「Searching For The Ghost」(A-Sketch)
主題歌:DEAN FUJIOKA「Shelly」(A-Sketch)
演出:西谷弘、野田悠介、永山耕三
制作著作:フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/sherlock/
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