俳優とプロ雀士、“二足の革靴”を履いた萩原聖人が思い描く理想像「見てくれる人と同じ呼吸になりたい」

俳優とプロ雀士、“二足の革靴”を履いた萩原聖人が思い描く理想像「見てくれる人と同じ呼吸になりたい」

30年以上にわたって人気俳優として活躍を続ける萩原聖人は、麻雀界のトッププロが集う「Mリーグ」のTEAM雷電に所属するプロ雀士でもある。同リーグに参戦するにあたり、萩原は俳優業とプロ雀士の兼任を“二足の革靴”と表現した。数々の映画やドラマで唯一無二の存在感を発揮してきた萩原が、ときに苦悶の表情さえ浮かべながら麻雀牌に運命を委ねる姿は、多くの視聴者の胸を熱くしている。

プロ雀士として活動する以上、結果がついてこなければ厳しい批判にさらされることも少なくない。もちろん、俳優としての仕事をおざなりにするわけにもいかない。決して軽くはない“二足の革靴”を履き、それぞれの道を全力で駆け抜ける萩原の決意に迫った。

取材・文/曹宇鉉(HEW) 撮影/ナカムラヨシノーブ

“二足の革靴”という言葉に込めたリスペクト


俳優とプロ雀士、“二足の革靴”を履いた萩原聖人が思い描く理想像「見てくれる人と同じ呼吸になりたい」

――俳優兼プロ雀士として、多忙な日々を送っている萩原さん。中学生のころに麻雀を覚えたということですが、ここまで夢中になったきっかけはなんだったのでしょうか?

昔から「なんでそんなに麻雀にこだわるんですか?」とよく聞かれるんですが、これがなかなか難しくて(笑)。結局、ただただ「好きだから」としか言えないんですよね。わかりやすい美談があるわけではないし、むしろ僕の若いころは芸能人が麻雀好きを公言することは、ほとんどマイナスにしかならなかった時代だったと思います。どうしてもギャンブルとしての暗いイメージがありましたから。

――たしかにどこか不良の文化というか、不健康なイメージはあったかもしれません。

それでもこういった立ち位置で麻雀に惹かれてしまった以上、亡くなった小島武夫さんがこだわっていた“魅せる麻雀”を大事にしたい、と考えるようになりました。“魅せる麻雀”というのは、要するに「自分」じゃなくて「ファン」ありきのアプローチですね。役者という職業をやらせてもらっていることもあり、見てくれる人がいてこそ、という意識は元々すごく高かった。アマチュアのころから、「飽きさせない」「一度見た人が僕の手牌から目が離せない」というイメージをもって打ち続けてきたつもりです。

――2018年にMリーグが発足するにあたって、正式にプロ雀士として活動するようになりました。あらためて、プロになった当時の心境を教えていただけますか?

それまでプロにならなかったのは、かつての麻雀界には「夢がない」と感じていたから。俳優という職業は、ある意味で夢を売っている職業でもありますよね。エンターテイメント業界に身を置く人間のひとりとして、麻雀が強いことや勝つことはもちろん大切ですけど、「それだけでいいのかなぁ」とずっと考え続けてきました。そんな僕でも、Mリーグの構想には心の底から「夢がある」と思えたんです。

――麻雀を打つことが、俳優としての仕事に通じている部分はありますか?

役者という仕事も麻雀も30年以上の付き合いになるので、自分でも意識しないまま精神的につながっている部分や、相互に応用できる考え方もあるのかもしれません。ただ、それぞれの仕事をする現場では“似て非なるもの”として区切っているつもりです。プロになったことで、より明確に「しっかりと区別しよう」と意識するようになりましたね。
俳優とプロ雀士、“二足の革靴”を履いた萩原聖人が思い描く理想像「見てくれる人と同じ呼吸になりたい」

――そういったニュアンスを込めて、俳優とプロ雀士の“二足の革靴”という表現が生まれたということでしょうか。

役者も麻雀も、どちらも半端にはできないし、「あらためて襟を正して向き合います」と。“二足のわらじ”というのはよく使われる慣用句ですけど、どうしても“わらじ”と表現することに抵抗がありまして……。僕がプロになるにあたって、「Mリーグができたから今さらプロになるのかよ」と思った人もたくさんいるはずです。俳優の仕事をおろそかにしないことはもちろん、麻雀界のみなさんやファンにリスペクトを示したくて、“二足の革靴”という言葉を使わせてもらいました。

麻雀は「人間という生き物にとって一番楽しめるゲーム」



――ドラフト1位でTEAM雷電に指名されてMリーガーとなり、Instagramも開設しました。あまりプライベートを見せてこなかった萩原さんですが、どういった意識の変化があったのでしょうか?

僕はもう根っからのアナログ人間で、Instagramを始めるまではずっとガラケーだったんですよ(笑)。でもMリーグの開幕を機に、「なにか自分から発信できることはないだろうか」という思いでアカウントを開設しました。俳優という職業はイメージの世界でもあるので、自分の素の部分をさらすことはプラスではないのかもしれない。それでもプロ雀士として、ひとりでも多くの人に麻雀に興味を持ってもらいたかったんです。

――Mリーグは新たなファン層を開拓し、“見る雀”という言葉も定着してきています。萩原さんの所属するTEAM雷電は“面白い麻雀”を標榜していますが、昨シーズンは最下位の7位と悔しい結果に終わりました。

もちろんTEAM雷電として勝ちたい気持ち、負けて悔しい気持ちはあります。いくら“魅せる麻雀”と言っても、負けるたびに「結局ラスじゃないか」と本当に申し訳ない気持ちになりますし……。結果というリアルと美学のせめぎ合いは常にありますけど、そこで葛藤する姿を見せることも必要なのかもしれません。とにかく応援してくれるファンのみなさんに喜んでもらうためにも、もっともっと悩んで、自分の麻雀に磨きをかけていきたいと思っています。

ただ最終的には、個人やチームを超えて“Mリーグそのもの”が勝たないと意味がない。「どうすればMリーグ全体にもっと追い風を吹かせることができるだろう」と考えれば考えるほど、麻雀の素晴らしさを開かれた世界に発信していくことの難しさを感じますね。「ルールがわからない」というハードルもあるし、偶然性に大きく左右される以上、圧倒的なスター選手のような存在が生まれにくい競技でもありますから。

――その点を踏まえて、どういった切り口で麻雀の魅力を伝えることが有効だと考えていますか?

麻雀をまったく知らない人に、ルールを最初から説明するのはやっぱり難しいですよね。乱暴な言い方かもしれませんが、麻雀のルールを知らなくても中継を見てしまいたくなるくらい、個性的かつ魅力的なパーソナリティが必要なのかもしれません。とはいえ過剰にキャラクターを演じると、技術や理論が進歩した現代の麻雀の世界ではどうしてもチープに見えてしまうし……。僕自身も、いろいろと試行錯誤している段階です。
俳優とプロ雀士、“二足の革靴”を履いた萩原聖人が思い描く理想像「見てくれる人と同じ呼吸になりたい」

――モデルとして活躍する岡田紗佳プロ(KADOKAWAサクラナイツ)も、今シーズンからMリーグに参戦しました。Mリーグの熱を広げていくうえで、特に萩原さんがキーパーソンだと感じている選手はいますか?

知名度のある岡田さんはもちろん、瑞原さん(瑞原明奈プロ・U-NEXT Pirates)や日向さん(日向藍子プロ・渋谷ABEMAS)、丸山さん(丸山奏子プロ・赤坂ドリブンズ)のようなフレッシュな選手にすごく期待しています。丸山さんのデビュー戦のオーラスでの大逆転は本当に素晴らしかったですね。もちろん麻雀はそんなに甘いものではないし、これから苦しい局面もたくさんあるでしょうけど、すべてが彼女の成長の糧になると思います。

――萩原さんが考える麻雀の魅力や面白さは、どんなところにあるのでしょうか。

人それぞれに麻雀の面白さがあるのは言わずもがなですけど、僕の場合は……。人間っていろいろなことを考えるし、想像する生き物じゃないですか。その点、麻雀って本当に想像力が大切なゲームだと思っていて、怖さも喜びもすべて“想像する”という行為が根っこにある。知的生命体として生まれた人間という生き物にとって、ある意味で一番楽しめるゲームじゃないかと思うんです。

しかも麻雀は「負けすぎて嫌になった」とか「勝ちすぎて嫌になった」とか、そういうことが決して起こらないんですよね。頭がいいだけでも勝てないし、もちろん運だけでも勝てない。だからこそ、これだけ多くの人を魅了しているんだと思います。最初はルールがわからなくても構わないので、ぜひ実際のMリーグの対局を見て、なにかを感じてほしいですね。どんな競技でもそうですけど、トッププロたちが全力でしのぎを削っている姿って本当に素晴らしいものだと思うので。

俳優という仕事には、どこまで行ってもゴールがない


俳優とプロ雀士、“二足の革靴”を履いた萩原聖人が思い描く理想像「見てくれる人と同じ呼吸になりたい」

――俳優として、現在も多くの作品に出演しています。プロ雀士との“二足の革靴”で非常に忙しいと思いますが、なにが萩原さんのモチベーションになっているのでしょうか。

これは本当に綺麗ごとではなくて、ファンのみなさんの応援です。もう長いこと俳優として活動していますけど、あまりダイレクトに反応を感じたことがなかったんですよ。若いときはファンレターやプレゼントをいただくこともありましたけど、おじさんになってからは「自分を応援してくれている人って本当にいるのかな?」と(笑)。

それでもSNSを通じて、ドラマや映画を長年見てくれている人や「よく知らないけど『カイジ』の声は好き」「Mリーグからファンになりました」と言ってくれる人の存在にあらためて気付かされました。今はその人たちを少しでも喜ばせたい、という気持ちが僕自身の支えになっています。30年以上俳優をやってきて、ようやく恩返しをするタイミングが来たんでしょうね。

――萩原さんといえば、山田洋次監督や崔洋一監督、黒沢清監督をはじめとした日本映画界の巨匠との仕事も印象的です。近年では、三宅唱監督の『きみの鳥はうたえる』も素晴らしい映画でした。

俳優として、「この監督、このチームと一緒にやってみたい」と思える出会いがたくさんあったのは僥倖でした。若いころから「人気が出るのは別の作品かもしれないけど、この監督と仕事をしたほうが成長できる」という方針で事務所も育ててくれましたし、出会いのひとつひとつが、かけがえのない財産になっています。俳優業で運を使ってしまったから、ここぞというタイミングで裏ドラが乗らないのかもしれません(笑)。

――(笑)。ジャンルや規模の大小を問わず、萩原さんの存在によって作品全体に重厚感が生まれる印象があります。芝居をするうえで、特に意識していることはありますか?

この年齢になって、「芝居ってなんだろう、役作りってなんだろう」と考え込むようになりましたね。若いころは感覚や瞬発力で演じられたこともありましたが、求められる役柄も難しいものが増えてきて、単純に「こういう人間だよ」という以上の奥行きを見せなければいけない。100%の正解が存在しないものを演じることで、「わかることなんてひとつもない」と今になってわかってきたというか……。どこまで行っても引退やゴールがない。つくづく、一生続けられるものに足を突っ込んでしまったな、と痛感しています。

――しかも俳優と麻雀、ふたつも同時に。

それでも、身体がついてくるかぎりは突っ走っていきたいですね。役者と麻雀の仕事を区別しつつも、「見てくれる人と同じ呼吸になりたい」というイメージは共通しているかもしれません。たとえば僕が麻雀を打ちながら苦悶の表情を浮かべているときに、視聴者も思わず同じ状態になってしまう、みたいな(笑)。俳優としても、演じている役の呼吸と見ている人の呼吸が、ふとした拍子にシンクロするような芝居ができたら、と思っています。

出演情報



金曜ドラマ『病室で念仏を唱えないでください』
TBS系にて、2020年1月17日(金)22:00放送開始(初回15分拡大)

出演:伊藤英明、ムロツヨシ、松本穂香、片寄涼太、堀内健、余貴美子、萩原聖人、中谷美紀ほか
原作:こやす珠世『病室で念仏を唱えないでください』(小学館『ビッグコミック』連載中)
脚本:吉澤智子
音楽:井筒昭雄
主題歌:三浦大知「I'm Here」(SONIC GROOVE)
演出:平野俊一、岡本伸吾、泉正英
プロデューサー:峠田浩
製作著作:TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/nembutsu_tbs/
Twitter:https://twitter.com/nembutsu_tbs
Instagram:https://www.instagram.com/nembutsu_tbs/

Mリーグ
2018年に発足した麻雀のナショナルプロリーグ。チェアマンはサイバーエージェント代表取締役社長の藤田晋。最高顧問は元日本サッカー協会会長の川淵三郎。テレビ朝日、サイバーエージェント、KADOKAWA、電通などの大企業が各チームのスポンサーとなり、所属選手には400万円の最低年俸が保証される。同時に麻雀のイメージ一新のため選手の賭博行為への関与は固く禁じているほか、対局中は他のプロスポーツと同様にユニフォームを着用する。

2019年シーズンは男女混成の8チームが参戦。選手はドラフト会議で指名されたトッププロたちで、チームごとにレギュラーシーズンの90試合を戦う。上位6チームが各16試合のセミファイナルシリーズに進出。さらに上位4チームが12試合のファイナルシリーズで優勝を争う。優勝賞金は5000万円。すべての試合をAbemaTVが生中継で配信している。

公式サイト:https://m-league.jp/
Twitter:https://twitter.com/m_league_
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCBHvzjvii3kp4gd_gw6UEIA

Profile
萩原 聖人
はぎわら まさと

1971年8月21日生まれ、神奈川県出身。アルファエージェンシー所属。1987年にドラマ『あぶない刑事』の第32話「迷路」で俳優デビュー。以降、30年以上にわたって数々の映画やドラマで活躍し、日本アカデミー賞新人賞・話題賞(『月はどっちに出ている』、『教祖誕生』、『学校』)、日本アカデミー賞優秀助演男優賞(第17回『マークスの山』、第19回『CURE』)、ブルーリボン賞助演男優賞(『マークスの山』)をはじめ受賞多数。舞台やナレーションのほか、アニメや海外ドラマの吹き替えなど声優としても高い評価を得ている。俳優業のかたわら、90年代なかばからアマチュア麻雀界屈指の強豪として多くの公開対局で活躍。2018年7月、日本プロ麻雀連盟に入会し、正式にプロ雀士となる。同年8月に実施されたMリーグ初のドラフト会議において、TEAM雷電から1位指名を受けた。

関連サイト
@hagiwaramasato_ml

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