
2018年1月〜2019年6月まで、毎週土曜日の朝に子供たちとアニメファンを夢中にさせていたテレビアニメ『新幹線変形ロボ シンカリオン』が映画となって約半年ぶりの帰還。本日、12月27日(金)に、劇場版『新幹線変形ロボ シンカリオン 未来からきた神速のALFA-X』が公開される。
エキレビ!では、主人公の速杉ハヤトを演じる佐倉綾音と、速杉ホクトを演じる杉田智和の速杉親子対談を実施。前後編で、テレビシリーズと同じく家族の絆がテーマの一つになっている本作について語り合ってもらった。

大勢の子供たちから、『シンカリオン』を選んでもらえた
──『シンカリオン』のテレビシリーズが大人気の中、6月に放送を終えた時の心境と、劇場版として復活したことへの感想を教えてください。
杉田 現代で、家族向けの作品が受け入れられて良かったなと思いました。
佐倉 うんうん。
杉田 (何かを作る人たちは)みんな、あらゆる世代に向けてとか、ファミリー向けにということを狙うんですよ。あと、子供向けもそうですね。もし、その作り方を適確に分かる人がいたら、世の中の玩具メーカーや食品メーカーが「天才だ!」と言って寄ってくると思います。みんな、その答えが分からなくて、どうすれば子供向けのものを作れるのかって、日々悩んでいるので。
──誰もがかつては子供だったけれど、大人になると、子供が好きなものが分からなくなるわけですね。
杉田 そう。何が当たるかなんて分からないんです。しかも、子供が好きなものって、一度に何個も選べなくて、一つだけしか選べなかったりもするじゃないですか。大勢の子供たちから、その中の一つに『シンカリオン』を選んでもらえたことは、とてもありがたいなと思いました。
佐倉 杉田さんのお話を聞いていて、第1話が放送される前のことを思い出しました。『シンカリオン』は、家族もテーマになっていて。第1話でハヤトがシンカリオンの運転士になって戦う原動力も、「お父さんのため」というのが最初でした。私自身は、家族というものに対してポジティブな感情で向き合っている人間なので、もし今の世の中に、この作品が受け入れられなかったとしたら、私、世界のことを嫌いになっちゃうかも、って思っていました(笑)。この『シンカリオン』を「良いよね」と言ってもらえない世界だとしたら、人間不信が加速するなって。
──「加速」ということは、すでに人間不信は始まっていることになりますが。
佐倉 日々、いろんなことが起こりますから……。
杉田 いかん、佐倉が人の心を失いつつある!
佐倉 でも、『シンカリオン』がたくさんの人に受け入れてもらえたので、良かったなと(笑)。まだ、世界には仲良くなれる人が多そうだなと思いました。あと、私自身にとっても劇場版のアニメーションは、夏休みや冬休みの家族の中での風物詩でもありました。親にせがんで映画館まで車を出してもらって。グッズもせびって。ふわふわの椅子に座って、約2時間、すごく贅沢な時間を過ごすというのが、子供の頃、すごく楽しみなお祭りでした。なので、『シンカリオン』も、そういう子供たちに夢を与えられる機会をいただけたことをすごく嬉しく思いました。
杉田 この作品では、子供が進化する、成長することを描いているのですが、それは、子供だけでなく、どの世代にも言えること。速杉ホクトとして、(劇場版で)次はどんな進化をするのかが描かれる。しかも、息子たち家族や、信頼する仲間たちと一緒にその機会を得られたこと自体がまず幸せでした。
こういう設定をよく考えつくなと感嘆する気持ちが大きかった
──ホクトが行方不明になり、入れ替わるように過去から9歳のホクトがやってくるという本作の展開を知った時の感想を教えてください。
杉田 「子供のホクトの声、どうするんだ?」って。一瞬、覚悟しましたけれど。
佐倉 あはは(笑)。
──少年ホクトの声も杉田さんが演じることになるかと?
杉田 まあ、さすがにそれは無いだろうなって。事故ってレベルじゃない事故になるので。その物語の説明を受けた時、「少年ホクトは釘宮理恵さんが演じます」ということも一緒に教えてもらいました。それを聞いて、本当に良かったなって。一番良い未来が過去からやってきたと思いました。
──「釘宮さんで良かった」と思ったのは、どのような点で?
杉田 お芝居や人柄など、すべてにおいてですね。長年、同じ番組に出ていたりもしましたし。あと、デビュー時期も近いのですが、釘宮さんはかなり最初の頃から、ディレクションや周囲の期待にすごく応えられている人だったんです。お互いに本当に新人の頃、『シンカリオン』と同じスタジオで録っていたアニメでも一緒だったのですが。自分は何もできないどころか、何をやっているのかも分かってないような状況の中、適確に周囲の期待に応えている釘宮さんがすごい人に見えて。その後、他の作品で会っても、ずっとそういう印象です。

──佐倉さんは、この展開について、どのような感想を?
佐倉 私は、クリエイター的な考え方ができないので、何かを生み出すよりも、人が生みだしたものに対してお返しする、打ち返す方が得意なタイプなんです。だから、こういう設定をよく考えつくな……と感嘆する気持ちがまず大きかったです。キャッチーだし、大きな問題だし。これには、みんなで立ち向かっていかなきゃいけないよねと思いました。
──キトラルザスとの戦いを描いたテレビシリーズは綺麗な最終回を迎えたので、その続きの物語がどうなるのか気になっていたのですが。こういう展開できたのかと驚きました。
佐倉 そうなんですよ。もちろん敵の個性にもよると思いますが、ただ単に新しい敵が出てくるだけだと、どこか新鮮さが足りないかもしれない中で、さらにもう一つ新しい要素を放り込む。本当に、『シンカリオン』をいろいろな人に楽しんでもらおうと思って作っている大人たちの力の賜だなと思いました。
息子の進化速度にはいつも驚かされている
──ホクトとハヤトの関係は、日常の新幹線が大好きな仲良し親子、指導長と運転士、ともに肩を並べて戦う運転士同士など、状況によっていろいろと変化します。二人を演じる佐倉さんと杉田さんの中でも、その時々によってお互いに対する感覚は変化しているのでしょうか? それとも、状況は変わっても、常に変わらぬ父と子という感覚なのでしょうか?
杉田 速杉家の場合、いつも息子の方が先に(状況の変化を)察するんですよ。「あ、ここではお父さんじゃない、指導長だ」って。
佐倉 たしかに!
杉田 これが他の家庭と違うところ。本当は父が先に察しなくてはいけないんですけど。「父として、なんて恥ずかしいことを……」と悔やむだけではなく、その状況をどう受け入れて、前向きに捉えるのか。「ハヤトはこういう進化速度の速い子供なんだ」と前向きに捉えないと意味が無いなと思っていました。

──テレビシリーズで、ハヤトが正式にシンカリオン運転士になる時も、まずハヤトが決断をして、ホクトがその思いを理解したという流れでした。
杉田 息子の進化速度にはいつも驚かされています。かといって、(息子に)従い過ぎてもいけないので。
──それだと、ホクトがダメお父さんのような印象になってしまいますね。
杉田 ええ、「ハヤトに全部任せておけば良いな」となってしまっては違いますから。
──佐倉さんは、物語の中でハヤトが意識を切り替えるのに合わせて、自然と感覚が切り替わる感じなのでしょうか?
佐倉 ハヤトは、いろいろな人に対して本当に分け隔てがないんです。だから、上の人、下の人という見方は一切していなくて。誰に対しても、対人間として、それぞれに向き合っている気がしています。
──だからこそ、同世代の運転士だけでなく、超進化研究所の大人たちともしっかりコミュニケーションが取れて、信頼されているのでしょうね。
佐倉 ただ、その中でも、やっぱり家族という存在や、小さい頃から知っている(上田)アズサに対しては、ハヤトの中でも少し無意識下で感覚の切り替えがあるのかなとは思っています。
杉田 ハヤトがちょっとだけアズサのことを苦手に思うところ、ちょっと防衛本能が働くところが見ていて面白い(笑)。でも、嫌いとかでは無いんですよね。
佐倉 そうそう。アズサって、ハヤトが唯一、苦手という感情も出す他人なんですよ。
杉田 あれは、不思議な距離感。
──本当に幼い頃からずっと一緒にいる友達だからこその関係性ですよね。
佐倉 だから、アズサは特別。誰かに揺さぶられているハヤトって、日常生活では、対アズサの時だけくらいですから。
杉田 アズサだけだね。
佐倉 アズサとは、家族以上に謎の絆があるんじゃないかなって思ってしまいます(笑)。
(後編に続く)
≪作品情報≫
劇場版『新幹線変形ロボ シンカリオン 未来からきた神速のALFA-X』
12月27日(金)全国ロードショー
【スタッフ】
監督/池添隆博 脚本/下山健人 キャラクターデザイン/あおのゆか
メカニックデザイン/服部恵大 音楽/渡辺俊幸 音響監督/三間雅文
【キャスト】
佐倉綾音 沼倉愛美 村川梨衣 真堂圭 竹達彩奈 杉田智和 雨宮天 うえだゆうじ 山寺宏一/釘宮理恵 伊藤健太郎 吉田鋼太郎
【配給】
東宝映像事業部
(C)プロジェクト シンカリオン・JR-HECWK/超進化研究所・The Movie 2019
(取材・文=丸本大輔)