日曜劇場「グランメゾン東京」最終回が12月29日に放送された。演技という意味では、このドラマで最も重要なのは、美味しい料理を食べた後の表情だと思う。
冨永愛が、めちゃめちゃよかった。
圧巻最終回「グランメゾン東京」木村拓哉は脇役だった!振り返って「三ツ星取らせる」の本当の意味を考察
イラスト/たけだあや

最終回あらすじ


フレンチにとって“禁断の食材”であるマグロを使うと決めた尾花(木村拓哉)。しかし、ミシュランの審査が迫っても完成せず、焦りを感じた倫子(鈴木京香)がマグロをやめるよう口を出すと、尾花は「自分でも魚料理スタンバイしとけよ」と自分勝手な発言。倫子は、尾花のマグロに勝てる料理を作ると宣言する。

一方、ライバル店の「gaku」は、江藤オーナー(手塚とおる)が連れてきた新シェフ・結月(馬場徹) の傍若無人な振る舞いでボロボロになっていた。なりふり構わずに三ツ星を目指してきた江藤は、壊れていく「gaku」に号泣。そこに丹後が現れ、救いの手を差し伸べた。


「三ツ星を取らせる」の本当の意味


マグロ料理に没頭し、フルコースの一品一品の完成度を高めることを怠ったかのように見えた尾花。しかし、実際はメンバーの力を信頼していて、後押ししたのは一人ひとりのメンタルの部分だ。

「例えば、このスイーツ。もっと優しい気持ちで作れば、もっと優しい甘さができるし、ささくれだったやつが作るともっと落ち着かない味になる」

フルコースのラストを飾るデザート担当の萌絵(吉谷彩子)は、プレッシャーと戦っていた。そんな萌絵に対して尾花は、あえて恋敵である美優(朝倉あき)に試食をさせることで殻を破らせた。そこから美優、祥平(玉森裕太)と心境の変化は連動。おそらくは祥平が担当した「キジバトのドゥミ・アンクルート」にも影響を与えたことだろう。


倫子に魚料理に挑戦させたのもそういうことだ。自信が持てない倫子を試すような口ぶりで挑発し、ひとり立ちさせた。1話から尾花が宣言していた「三ツ星を取らせる」の本当の意味は、「倫子の店に三ツ星を取らせる」ではなく、「倫子に自分で三ツ星を取らせる」だったのだ。

倫子が作った「ハタのロティ・ノアゼットアンショア」の完成度の高さに、嬉しそうでどこか悔しそうな表情を見せる辺りは、負けず嫌いの尾花らしい。

リンダ・真知子・リシャール


リンダは、料理界で絶大な権力を持つオーナーの機嫌を取るために「グランメゾン東京」にミシュランの調査員が訪問するのを阻止していた。そんなリンダに尾花は、「グランメゾン東京」の料理を食べるよう説得。いつもだったら、ふてぶてしく上から目線で相手の感情を逆撫でするように挑発する尾花だが、リンダへの態度は少し違った。


「逃げんなよ。怖いんだろ。うちの料理食べるの」

セリフこそ挑発的に見えるが、その姿はどちらかというと懇願という言葉が似合っていた。権力なんかよりも自分の舌を信じる“本物のフーディ”であって欲しいと、尾花は元恋人を信じたかったのだ。思いを受けてリンダは、後日「グランメゾン東京」を訪れる。

京野(沢村一樹)の接客に始まり、萌絵の「クレームダンジュ」まで、「グランメゾン東京」のメンバーは、それぞれの思いが詰まった料理をそれぞれがサーブ。
「ご機嫌が傾いていた」リンダだが、少しずつ、少しずつその硬い表情を崩していった。

問答無用の美人で、いつもキツイ表情をしていたリンダが、ほんのりと口角を上げて、目尻を緩ませる姿は実に可愛らしい。最後に流した涙は、「心がほどけていく」という言葉がピッタリだった。

「gaku」の変化


ライバル店「gaku」にもドラマがあった。全てを失い崩れ落ちる江藤に、丹後は「今度は俺が救ってやる」と手を差し伸べた。丹後が意見の合わない江藤と組んでいたのは、資金や三ツ星のためではなく、過去の恩義からくるものだった。

店の崩壊を乗り越え、改めて手を組み直した2人。
他を蹴落としてでも駆け上がろうとしていた江藤の執念は、全て食材集めへと向いた。目当ての物を手に入れるためにどこへでも出向き、土下座もいとわない。「自分にできること」をやりとげ、丹後へと思いを託した。

スーシェフの柿谷(大貫勇輔)も、2人の思いに呼応するように料理へと真剣に取り組むようになる。悪役だと思われた江藤と柿谷の変化と、自信を取り戻した丹後。これまではつぶす対象だった「グランメゾン東京」のピンチに、和ぜりをプレゼントする心意気と余裕を見せる。
3人の「gaku」の料理に対する自信の表れだ。

「これで心置きなく『グランメゾン東京』をつぶせる」

丹後の去り際のセリフが憎い。あくまで敵ですよ、と。

木村拓哉なりのわき役


1話から最終話まで、キムタクがキムタクらしく、目一杯カッコよく居続けてくれた今作。尾花を中心にストーリーが展開されたのは間違いないが、変化や成長など、見どころを提供したのは他のメンバーたちだ。

何もできなかった芹田(寛一郎)は三ツ星のフルコースにかかわれるようになり、才能にあぐらをかいていた萌絵は本気になることができた。祥平なんて主役かってくらいドラマを盛り上げたし、京野、相沢(及川光博)、栞奈(中村アン)、リンダ、そして倫子ももちろんだ。ライバルである丹後は、尾花に習うかのようにその背中で江藤、柿谷を変えた。

主役でありながら周りを引き立てる。木村拓哉がただただ輝き続けることで周りを照らす、そんな物語だった。
(さわだ)

『グランメゾン東京』
出演:木村拓哉、鈴木京香、玉森裕太 (Kis-My-Ft2)、尾上菊之助、冨永愛、中村アン、手塚とおる、及川光博、沢村一樹
脚本:黒岩勉
プロデュース:伊與田英徳、東仲恵吾
演出:塚原あゆ子、山室大輔、青山貴洋
料理監修:岸田周三(カンテサンス)、トーマス・フレベル(INUA)、服部栄養専門学校
音楽:木村秀彬主題歌:山下達郎「RECIPE(レシピ)」