決してブレない北の打ち師達の矜持 登録者数100万人突破も大切なのは「次の動画をどう面白くするか」
(左から)はるくん、ふぇると

北海道出身の“ふぇると”と“はるくん”からなる北の打ち師達は、切れ味抜群のヲタ芸が話題を呼び、アイデア満載の企画の数々でも視聴者を楽しませている人気動画クリエイターだ。チャンネル登録者数は約116万人、動画の総再生回数は4億3000万回超と、押しも押されもしないトップクリエイターとして活躍する彼らだが、まだまだ現状に満足した様子は見られない。大きな成功を手にしながらも、数字には現れない「クオリティ」や「面白さ」を貪欲に追求するふたりの美学に迫った。

取材・文/曹 宇鉉(HEW) 撮影/稲澤朝博 編集/日野綾(エキサイト)

「北打ちがヲタ芸をするからには、絶対にいいものしか出せない」


決してブレない北の打ち師達の矜持 登録者数100万人突破も大切なのは「次の動画をどう面白くするか」

2010年に北の打ち師達としての活動をスタートした“ふぇると”と“はるくん”。北打ち結成のルーツは、その名の通り北海道で過ごした中学・高校時代にまでさかのぼる。

ふぇると「中学生のころからお互いのことは認知していたんですよ。学校は違いますけど、ふたりとも野球部だったんで、同じ地区の試合で対戦したりもしましたね」

はるくん「名前は知らなかったけどね。同じ高校に入ってからちょっとずつ絡むようになって。最初のころの印象は、正直よく覚えてないんですけど……」
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ふぇると「お互いに第一印象はそんなに良くなかったんじゃないかな(笑)」

小笠原道大、稲葉篤紀、新庄剛志……。2006年に日本一を達成した北海道日本ハムファイターズの試合に熱中する、どこにでもいる野球少年だったふたり。今ではすっかり阿吽の呼吸の名コンビだが、少年時代のキャラクターはほとんど正反対だったようだ。

はるくん「子供のころからけっこう目立ちたがり屋でしたね。本気でやりたいわけでもないのに、生徒会長に立候補するみたいな(笑)」

ふぇると「僕はわりと寡黙なタイプでした。YouTubeに動画を投稿するようになってから、根は明るくなったかもしれません」
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そんなふたりが、北の打ち師達の代名詞ともなったヲタ芸に惹かれたきっかけはなんだったのだろうか。

ふぇると「初めてヲタ芸の動画を見たときから、暗闇に輝くサイリウムがめっちゃカッコいいな、と。当時はそもそもヲタ芸をやっている人も動画も少なかったんですけど、たまたまネットで本格的なパフォーマンスを目にして、一発で惹かれました」

はるくん「僕の場合は好きだったアイドルと友達経由です。単純に『カッコいい』と思って、自分でもやってみたいなと思いましたね」

ダイナミックな振り付けと、見るものを魅了する幻想的なサイリウムの光。彼らのハイレベルなパフォーマンスからは、ダンスの経験や運動神経の高さを感じるものの、ふぇるとによるとヲタ芸にそういった要素は「あまり関係がない」という。

ふぇると「運動神経もダンスの経験も必要ないところがヲタ芸の面白さですね。僕らも完全に素人のところから始めたんですよ。実家の鏡の前で、両親にバレないように練習したりして(笑)」

はるくん「僕も個人で練習してましたね。練習っていうか、動画を見たら真似したくなっちゃうんですよ」

ふぇると「最初は人目につかないところでやっていたんですけど、高校2年生くらいのころに北打ちを結成してからは休み時間に廊下で練習したり、体育の授業中にやったり……。目立ちたくなってきちゃったんですかね(笑)。謎の自信というか、『とりあえず俺らを見ろ!』みたいな」

はるくん「それはあったかもしれないですね。たぶん周りには引かれていたと思います(笑)」

“好き”を貫いて、ヲタ芸の腕を磨いていった北の打ち師達。「ここまでバズるとは思わなかった」と振り返りながらも、ヒット曲を題材とした華麗なパフォーマンス動画は大評判を呼び、中には1000万回再生を記録したものも含まれている。2019年12月には、映画『天気の子』の主題歌『グランドエスケープ』の新作動画をアップ。圧巻のクオリティで映画と楽曲の世界観を表現した。
決してブレない北の打ち師達の矜持 登録者数100万人突破も大切なのは「次の動画をどう面白くするか」

ふぇると「久しぶりのヲタ芸動画だったんで、かなり力が入りました。振り付けを決めるために一度全員で集まって、別日にまた練習して、当日もしっかりリハーサルをして……。北打ちがヲタ芸をするからには、絶対にいいものしか出せない。それこそ初めてヲタ芸を見る人にも、『おお!』と思ってもらえるようなものを作りたいんです」

はるくん「最初は身内ノリでやっていたものでしたけど、より広い層に見てもらえるようになりましたからね。自分たちの『この曲でヲタ芸をやりたい!』という気持ちを大事にしつつ、多くの人に楽しんでもらえるような選曲を意識しています」

過酷な企画でもカメラが回れば「やるしかねぇ!」



ヲタ芸で一世を風靡した北の打ち師達だが、「1週間○○生活」「24時間生活」といった体を張ったチャレンジ企画や、「可愛い貯金」などバラエティ系の動画でも人気を博している。挑戦的かつユニークなアイデアの数々は、どのように生み出されているのだろうか。

ふぇると「実際、動画を上げる前に『これは絶対にハネる!』みたいな確信があるわけじゃないんです。意外な動画がウケることもあるし、自信のある動画が全然伸びなかったりすることも少なくない。アイデアにしても、集中して考え込んでもまったく浮かばないのに、不意に降ってきたやつが当たることもしばしばあります。『可愛い貯金』なんてまさにそうですね。単純に『可愛いクリエイターが見たいな~』から始まりましたから(笑)」

はるくん「他の動画クリエイターはどんなことをしているのかとか、なにが流行っているのかとか、正直よく知らなくて。それがかえって、僕らなりのオリジナリティに繋がっているのかもしれませんね」

喜怒哀楽を全面に押し出して“ガチンコ”で企画に挑む北の打ち師達の素の表情は、一度見たら思わず次の動画をクリックしてしまいたくなるような等身大の魅力に満ちている。そんなふたりに、これまでの企画で一番過酷だったチャレンジについて尋ねてみた。

ふぇると「僕は1週間毎日某テーマパークでしか食事できない企画がつらかったです。もちろん某テーマパークは大好きなんですけど、食事のたびに行かなきゃいけないのと、使えるお金をランニング1キロあたり100円に設定したのは縛りがキツすぎました(笑)」

はるくん「いろいろと大変な思い出はありますけど、やっぱり僕は『1週間二郎系ラーメン』かなぁ。経験上、食事を我慢するのは意外と大丈夫なんですよ。でも二郎のときは毎日1杯は必ず食べなきゃいけないし、しかも残せないし……。あれはマジでやばかったです。あと、24時間系だとVR生活がキツかった!

ふぇると「あれは24時間がギリギリだよね。さすがに48時間は無理だと思う。でもさ、カメラが回ってたら意外に大丈夫じゃない?」

はるくん「あぁ、でもそれはあるかもしれない。『もうやるしかねぇ!』みたいになるっていうか(笑)。大食いとかも、カメラが回ると意外と食べられたりしますからね」

「カメラが回るとスイッチが入る」と口を揃えるプロ意識の高さが、北の打ち師達の動画のクオリティを担保している。とりわけ、「1本1本の動画が、ひとつの作品」と語るふぇるとの編集へのこだわりは並大抵ではない。

ふぇると「“YouTubeあるある”なんですけど、『今日明日に上げなきゃいけない動画がない!』とか、追い込まれることが結構あって。そこでなんとか企画を絞り出して大急ぎで編集したものって、絶対にいい方向に転がらないんですよ。仮に再生回数が伸びたとしても、そういう動画って『ちょっと抜いたな』っていうのがわかっちゃうんですよね」
決してブレない北の打ち師達の矜持 登録者数100万人突破も大切なのは「次の動画をどう面白くするか」

はるくん「ふぇるとはそういう意識がめちゃくちゃ強いよね。完璧主義者というか」

ふぇると「どんなときでも、下手なものは出したくないんですよ。もちろん出さなきゃいけないけど、後になって後悔することも少なくない。どんなにたくさんの人が見てくれるようになっても変わりませんね。結局、動画クリエイターってそこで葛藤する職業なのかもしれません」

クオリティを下げるわけにもいかないし、投稿のペースを落とすわけにもいかない。タイトなスケジュールの中でも、ふぇるとは動画にかける自身の美学を貫いている。

ふぇると「やっぱり大切なのは手を抜かないこと。具体的には、必ず動画の内容に沿った編集をすることですね。普通に考えたら、制作を効率化するためにフォーマットを作ったほうがいいんですよ。実際、字幕のフォントにしてもBGMにしても同じものを使い回しているクリエイターが多いと思うんですけど、僕は動画ごとに違う素材を拾ってきたり、新しいものを作ったりしていますね。もしかしたら、そんなに意味はないのかもしれませんけど(笑)
決してブレない北の打ち師達の矜持 登録者数100万人突破も大切なのは「次の動画をどう面白くするか」

はるくん「でも、そうやってこだわり抜いて編集している効果って絶対にあると思います。細かいところで手を抜かないことがじわじわと効いてくるというか。僕はどっちかと言うと『そんなに考え詰めなくてもいいんじゃない?』ってことも多いんですけど、逆にそこの気質が一緒じゃなくて良かったかもしれませんね(笑)。僕まで職人気質だと、それぞれの価値観が衝突していたと思います」

「ただただ、動画を見てもらえることが一番嬉しい」



動画へのこだわりが強すぎるあまり、しばしば「暴走することがある」と自戒するふぇるとを、絶妙な距離感でサポートしているはるくん。視聴者を楽しませる動画を量産できているのは、ふたりの絶妙なコンビプレーがあるからだろう。

はるくん「ふぇるとの最後まで突き詰める姿勢、120%を目指そうとする美学みたいなものは僕にはないし、他の人もほとんど持っていない才能だと思うので、そこが北の打ち師達の強みですね。あと、僕らは面白いと感じるツボとかノリは共通しているんですけど、ほどよく好きなもののベクトルが異なるんです。その微妙な違いも、いい結果を生み出せている理由じゃないかと思います」

チャンネル登録者数が100万人の大台を突破しても、「やりたいこと」や「楽しいこと」を貫くふたりの姿勢はブレない。そもそも、「100万人突破は嬉しいですけど、そこに行きたくてYouTubeを始めたわけじゃない」とはるくんは強調する。
決してブレない北の打ち師達の矜持 登録者数100万人突破も大切なのは「次の動画をどう面白くするか」

はるくん「最初はもっと素直に、僕らのヲタ芸をいろんな人に見てほしい、という気持ちだけでしたから。最近はあんまりやらなくなってしまいましたけど、普段から体当たりな企画をやっているからこそ『北打ちってヲタ芸もできるんだ』って部分が際立つのかなと思いますし、やっぱりそこの振れ幅は大切にしたいです」

ふぇると「チャンネル登録者数が100万人を超えても、なにも変わらないですね。満足も安心もしていないです。数字を意識して守りに入ってしまうと、自分たちの良さを見失ってしまうことにもなりますからね。YouTubeって視聴者が求めているものだけをやりすぎると、本当にだれでもいいチャンネルになっちゃうんで。あくまでも僕らが本気で面白いと思ったものを前提に、これからも動画を作っていかなきゃいけない」
決してブレない北の打ち師達の矜持 登録者数100万人突破も大切なのは「次の動画をどう面白くするか」

クリエイターとして、決して立ち止まることをやめない北の打ち師達。ふぇるとは「休みの日も、気付いたらYouTubeのことを考えている」と明かす。

ふぇると「結構、呪いみたいな感じなんですよ(笑)。動画が伸びていてもいなくても、寝る前とか、起きた瞬間からあらゆることを考えちゃうんです。それが僕の長所でもあり、短所でもあるのかもしれませんね」

はるくん「僕はそこまで自分を追い詰められないです(笑)。ただ、よく『次の目標は200万人ですか?』と聞かれるんですけど、何万人とか再生回数とか、大切なのは数字じゃないんですよね。次の動画をどう面白くするか。それだけを毎日考えているという部分は同じだと思います」
決してブレない北の打ち師達の矜持 登録者数100万人突破も大切なのは「次の動画をどう面白くするか」

好きなことに全力で打ち込んで、視聴者を楽しませること。ふぇるとが「ただただ、動画を見てもらえることが一番嬉しい」と実感を込めて語るように、北の打ち師達にとってYouTubeの醍醐味はごくシンプルだ。

はるくん「毎日毎日、自分たちが作ったものへの反響があるって、普通に考えてすごいことじゃないですか? テレビだと何ヶ月もかけなきゃいけないプロジェクトもすぐに出せるし、ひとつひとつの動画にダイレクトに反応をもらえるのは本当に楽しいですよ。たくさんの視聴者に見てもらえるだけで、僕らの労力は充分に報われていると感じますね」

ふぇると「周りのクリエイターとの競争とかも、今はまるで考えていないですね。以前は多少気にしていたんですけど、今後はより動画自体の質が求められる時代になってくると思うので、自分たちの世界をしっかりと表現していくことが大切だな、と。どれくらい妥協せずに面白い動画を作ることができるか。そこに尽きると思います」
決してブレない北の打ち師達の矜持 登録者数100万人突破も大切なのは「次の動画をどう面白くするか」

はるくん「ふぇるとが『競争とかまるで気にしていない』っていうのは初めて聞いたけど、それ、すごくいいね(笑)。僕もいい意味でドンと構えて、自分たちの世界観を崩さず、やりたいことを貫いていきたいです」

「好きなことで生きている実感はありますか?」というお決まりの質問に対して、「あります」「間違いないですね」と胸を張った北の打ち師達。北の大地が生んだ天性の動画クリエイターにとって、現在地はまだまだ通過点に過ぎないのかもしれない。
決してブレない北の打ち師達の矜持 登録者数100万人突破も大切なのは「次の動画をどう面白くするか」


Profile
北の打ち師達

北海道出身のマルチクリエイター。
代表作は「君の名は。」の楽曲でパフォーマンスしたヲタ芸動画や1週間生活、24時間生活などの人気企画がある。また、日常動画ではメンバーのふぇると、はるくんの二人で面白いコンテンツを配信。彼ら独自のネタや高い編集技術は、北の打ち師達の強みになっている。チャンネル登録者数も100万人を突破した期待のクリエイター。

関連サイト
@KitaUchi_cpYouTube公式チャンネル