
華奢な手でマイクを握り聴衆の前で香港の未来を訴える。23歳の女性活動家・周庭(アグネス・チョウ)の姿に目を留めた人は多いはずだ。
街頭でチラシ配りできないくらいの恥ずかしがり屋

――まず周さんの現在に至る過程を教えてください。2012年に香港では、中国への愛国心を育てる「国民教育」という教科を香港政府が学校教育に導入しようとして、反対運動が起きました。続いて2014年、普通選挙の実施を求める形で「雨傘運動」と呼ばれたデモが広がりました。そして今回の2019年、逃亡犯条例の改正に抗議する形で、再びデモが続いています。
私が香港で学生運動に参加し始めたのは、2012年の「国民教育」に反対した活動からです。当時、私は高校1年生でしたが、国民教育の内容を調べてみると、中国共産党の良さを盲目的に教えるものでした。それに気づいた時に、反対活動をしようと思いました。さまざまな政治思想団体についても調べて、今は無くなりましたが、学民思潮という愛国教育に異を唱える団体に所属したんです。
――当時の同級生や学生は、周さんと同じように政治に興味を持つ人は多かったのでしょうか?
今は中学生や高校生でも政治活動への参加は普通のことになっています。しかし2012年の香港では、大学生だったらありえたかもしれませんが、中学生や高校生が政治活動に参加することは、まだそれほど普通のことではありませんでした。
――その後、周さんは香港の民主化デモにおいて中心人物の一人になり、日本メディアを担当するスポークスマン的な立場でカメラの前に立つことが多くなりましたね。2016年には、黄之鋒(ジョシュア・ウォン)さんらと共に政治団体「香港衆志(デモシスト)」を立ち上げました。元々、積極的な性格だったんでしょうか?
最初は今とは全く違う人間でした。街頭でチラシも配れないくらい恥ずかしがり屋で、人ともちゃんと話せなかったんです。活動を7年していますから、今はそういう気持ちはなくなりましたが。あと日本語もできなかったんですよ。2015年に初めて日本を訪れましたが、その時は通訳を付けて広東語で話しました。その後は独学で、日本のメディアの取材などを受けながら、日本語を勉強しました。今後は韓国語とドイツ語を学びたいと思っています。
――2014年と2019年ではデモの形も変わりました。
2014年の雨傘運動の時は代表の存在がすごくはっきりしていて、メディアにも代表が立っていました。
――2019年からのデモは「Be water(水になれ)」というスローガンを掲げています。
柔らかく常に変化できる形で活動しようという意味です。2014年の雨傘運動では、地区を定めて、そこをずっと占拠するなどしてデモを行いました。今は場所にこだわるというよりは、毎日いろいろな場所でデモをして、運動を継続させる形に変わっています。今は昔と比べて、想像できないくらい警察の対応が強くなりましたので。
好きなタレントはマツコ、昔一番だった有吉は二番に
――今は大学生ですよね?
学生生活は終わりました。昨年9〜12月までの学期が最後の学生生活でした。通常だと試験が12月にあって、それで学期の成績が出ます。ただ2019年は香港の大学はデモの影響を受けたため、11月に早めに授業が終わり、あとは宿題とか論文は全部オンラインという形になりました。
――周さんの大学での専門は国際関係とうかがいました。
専門といっても全然。ダメ大学生ですよ(笑)。内容は香港と日本の市民運動の中のメディアの役割比較です。ただ、日本は市民運動が少ないですから、比べようとしてもどこから比べていいか、迷ったこともありました。
――日本のことに興味持ち出したのはいつですか?
小学校6年の時です。香港では、たぶん他のアジアの国もそうなんですけど、テレビ局が日本のアニメを放送しています。そのため香港の子供は、幼い頃から日本のアニメを見ています。男子だったらガンダムとか、女子だったらプリキュアとか。
――放送は香港で話されている広東語の吹き替えですか?
はい、そうです。でも小学校6年生から広東語字幕の日本語版を見るようになりました。どうしてかというと、私がすごく好きなアニメの第1シーズンは広東語の吹き替え版があったんですけど、第2シーズンがテレビで放映されなかったので、日本語版に広東語の字幕が載ったものを見始めたんです。
――周さんはオタクだと聞いたのですが、実際に周さんをオタクと呼んでもいいんでしょうか?
はい、オタクです! アニメ好きということだけではなく生活も完全なインドア派です。だから極力外には出かけたくないです(笑)。家の中でアニメなどを見たり、お布団の中が好きです。お化粧せずに一番楽な姿でいたいです。
――アニメ以外では何が好きですか?
日本のアイドルもすごく好きです。嵐とか乃木坂46とか。なかでも特に日本語を勉強したいと思ったきっかけは、日本のバラエティ番組です。香港はテレビ局の数も少ないですし、放送している番組も、どちらかというとおじいちゃんおばあちゃん向けの内容です。
――好きなタレントや芸人はいますか?
今はマツコ・デラックスさんがすごく好きです。会いたいくらい。日本のテレビの取材を受ける時に、マツコさんに会ったことがある記者さんがいると、「どんな方ですか?」といつも質問しています。でも昔の一番は有吉弘行さんだったんです。今は二番になりました(笑)。
――嵐の二宮和也さんも好きだとか。
好きです! 嵐を好きになったのは2013年から。その年に二宮くんが『プラチナデータ』という映画に主演していて、それがきっかけです。じつは私、メガネ男子が大好きなんです。その映画では二宮くんが眼鏡をかけていて……それで好きになりました。
――嵐に会ったことはないですよね?
もちろんないですよ! ただ以前に、日本テレビ「news zero」の取材を受けたことがあって、ちょうどその日は櫻井くんがキャスターを務める日でした。時間が合えば直接、櫻井くんからスカイプで取材を受けられる機会があったんですけど、その日だけ……そうその日だけ! 忙しくてタイミングが合いませんでした……。

――周さんはInstagramでいつも素敵なお写真を上げていますね。日本のファッション誌も読みますか?
日本のものだと『non-no』が好きです。元乃木坂46の西野七瀬さんが好きで、西野さんは『non-no』の専属モデルなんです。あとは『Ray』も読みますよ。とても個人的なことなのですが、いつか日本のファッション誌に出てみたいです。メークさんなどが付くプロのファッション撮影に、すごく憧れています。
――日本の食はどうですか?
抹茶のスイーツが好きです。甘いものがとても好きで、日本に行った時は毎回スイーツ食べ放題に行っていました。少なくとも1回は必ず行きますし、前回は滞在中に3回も行きました!
香港民主化には欧米以外への訴えも大切

――高校1年生からデモに積極的にかかわるようになって、周さんの生活も随分変わったんじゃないですか? 注目されることも多いでしょうし。
もう7年間活動していますから結構慣れました。街中を歩いていても気づかれることがありますので、普段からちゃんとしなきゃと思っています。
――政治活動を始めた高校生の当時、ご両親も心配されたのでは?
2012年に学民思潮に参加した時、家族は反対しました。政治は汚いものであるとか、若いんだからまずは勉強しろといった考え方です。これは日本の雰囲気とも近いかもしれません。こういう考え方でしたから、親は当初とても心配していました。私が誰かに利用されているんじゃないかという不安もあったんだと思います。しかし活動を続けて、誰かに利用されているわけじゃないよということを証明したから、今は納得して私の考えを尊重してくれています。
――今、何が一番大変ですか?
当局の許可なく香港外に出られないため、日本へ行けないのが一番つらいです。日本で観光したいという気持ちではなくて、日本に行ってメディアの取材を受けたり、大学の先生と会ったり、ということが全てできなくなりましたから。
――国外への発信は香港の民主化にとって重要ですか?
外国への発信はとても大事です。私たちの主張を、報道に乗らないことも含めて、きちんと国外内に向けて発信する必要があるからです。とりわけアメリカや旧宗主国であるイギリスとの関係は重要です。そういった国々から香港政府や中国政府に圧力がかかることは、香港の民主化の助けになります。
――なぜ日本への発信も力を入れているのでしょうか?
英語での発信は20年前もありました。香港の人は英語を話せる人が多いですし、香港の政治家がアメリカなどに行って香港の現状を伝えるということは、以前から行われてきました。しかし日本はなかった。それは日本語を話せる香港人が多くないからです。今の活動では、私を含めて話せる人がいます。日本と香港の経済・文化的な往来も増えている。香港人も日本が好きで、日本をよく訪れたりしています。だからこそ、経済や文化だけでない香港の現状も日本に伝えたいです。香港の民主化運動には欧米だけでなく、それ以外の国々の態度もとても重要だと思っています。

1996年12月3日生まれ。香港衆志(デモシスト)常務委員。香港の大規模民主化デモ「雨傘運動」を中心メンバーとして率いた。SNSなどを通じて香港の現状を訴え、Twitterでは日本語で発信を続けている。2019年11月北海道大学公共政策大学院のグローカルフェローに就任。