「週末、私はちょっとした旅に出る。ひとりだけの時間を満喫できる、私の小さな大冒険」

ちょっとした旅雑誌のキャッチコピーのような語りで始まる、濱津隆之主演のドラマ25「絶メシロード」(テレビ東京、深夜0時52分~)。
近年盛り上がっている趣味「車中泊」をしながら、「絶滅してしまうかもしれない絶品メシ」を求めて、小さな旅に出る中年男の姿を描く。

筆者などは毎回見るたびに「こんな旅に出てみたい……」と思ってしまう。生活に疲れたおじさんたちにぜひ見てもらいたいドラマ。

先週放送された第3話に登場したのは群馬県高崎市の「香珍」。ドラマの元ネタである「絶メシリスト」にも取り上げられているお店。これまで放送された中で、もっとも「絶メシ」に近い店とも言える。
その理由は後ほど。
濱津隆之「絶メシロード」3話「醤油ラーメンって何?」って聞かれたら「これ!」って答えるラーメン、絶品
イラスト/サイレントT(ワレワレハヒーローズ)

「車中泊」では「ブラックマーク」に注意


しがないサラリーマンの須田民生(濱津隆之)は家庭でも居場所がない。ようやく姿を現した妻の佳苗(酒井若菜)と娘の紬(西村瑠香)だが、話題は好きなアイドル一辺倒。妻子にアイドル趣味を薦められても肩をすくめるしかない。

そんな民生も車中泊の旅に出かけると途端にイキイキしはじめる。やっぱり「好き」は大切だし、他人の「好き」を蔑ろにしてはいけない。毎度おなじみ、民生の車中泊ルールは以下のとおり。


その1:仕事が終わった金曜の夜に出発して、土曜日の夕方までに戻ること。
その2:誰も誘わない・誰も巻き込まない。
その3;高速代、ガソリン代、食費も含めて、予算はお小遣いの範囲で収める。

妻子に迷惑をかけず、余分なお金も使わず、旅先でのときめきや出会いも期待しない。まさに人畜無害、誰からも好かれる今の時代に適した可愛いおじさんの趣味だと思う。

民生が向かったのは群馬県高崎市。
車中泊で聞いていたラジオがきっかけで女性の部下(梅本静香)が一緒に働いている自分の名前を認識していないことに気づいたり、車のまわりを改造車が走り回ったりと民生は今回も何かとツイてない。ラジオDJは今回の脚本も務めたマンボウやしろ(家城啓之)。

ちなみに車中泊専門誌「カーネル」の大橋保之編集長は、濱津隆之との対談の中で車中泊をする際は暴走族などに絡まれないよう「路面のブラックマーク(車をドリフトさせた時などにできるタイヤ痕)」に注意するよう呼びかけている(テレ東プラス 1月24日)。

「絶メシ」は優しい世界


翌日、すっかり「絶メシ」を求める体になっていた民生が見つけたのが、中華料理屋の「香珍」。しかし、大量の石が並ぶ異様な店先に立ちすくんでしまう。

「足が止まってしまった。入るのが不安だ。
不安だ。不安……それでいい!」

不安までも楽しむのが「絶メシ」の旅ということか。店に入ると、いつものように常連客(廣川三憲)が話しかけてきて、いろいろ教えてくれる。

「メニューいろいろあるけど、ラーメンだから。ラーメンかチャーハンね」

こういうときの常連客は本当に心強い。一方、先に入っていた若い客たちは思い思いの料理を注文して高齢の店主(高橋長英)を困らせる。


「同じものにしてもらえませんかね」

若い客たちは口々に文句を言うが、店主が嘘泣きをすると出ていってしまう。すぐさまケロッとした顔している店主に民生は驚くが、常連客がそっと一言添える。

「親父さん、体的に無理できないんだよ。だから、強気じゃないとやってられないんだよ」

ここにあるのは優しい世界だ。美味しいものを提供しようとする店側と、店側の事情を汲んで美味しいものをいただく客側がお互いに支え合って成立している。「お客様は神様」なんかじゃない。
一方通行じゃ何事も成り立たない。


「香珍」、後継者求む!


民生の注文は「ラーメン」一択。店主は手際よくラーメンをつくっていく。麺は手打ちの自家製麺。カウンターにいる民生が汗をかくほど暑いのだから、厨房の店主はもっと暑いはず。出てきたラーメンは、いかにもといった醤油ラーメン。一口すすった感想は、

「う~、ラーメンのど真ん中!」

思わず発した「うまい!」という声に「だろ!」と呼応する常連客。やっぱり褒め言葉は素直に口に出したほうがいい。まわりも幸せな気分になる。これは家庭でも一緒。

「誰かに『醤油ラーメンって何?』って聞かれたら、『これ!』って答えるな、今なら」

ちなみに濱津隆之自身も、このラーメンがとりわけ印象に残っているそう(テレビ東京プラス・前掲)。最後のスープ一滴まで飲み干して完食。タバコを喫っている店主に「また来いよ」と言われて民生は「はい」と答えるが、店主は「次、来たときにあればいいけどな」と呟く。

常連客が「結局、継ぐ人見つからないの?」と言うが、これは「絶メシリスト」に「香珍」が掲載されたときの「後継者求む!」という告知を受けたものだろう。店主の善養寺静雄さんは次のように語っている。

「自分が“師匠”から受け継いだ味を継承してくれる方を募集しています。経験は不問。むしろ未経験者歓迎です。店への思い入れは人一倍ありますが、継いでくれるなら看板(店名)を変えてもらって結構です。やる気のある方、お待ちしています」

後継者が見つかった1話の店、店主の息子が後継者になりそうだった2話の店に比べると、「香珍」の「絶メシ」度はかなり高いと言えるだろう。善養寺さんは末期がんの診断が下されたことがあったが、幸いにも手術が成功して店は続いているとのこと。だから、「体的に無理できない」のだ。それでも麺づくりは毎日欠かさない。

「材料屋さんには『もう歳なんだから無理しないで市販の麺を使いな』って言われるけど、私は麺を上手く作るのが楽しいんだ。だから、絶対に手打ちはやめないよ」

ドラマに戻ろう。店主はこう呟く。

「俺にはもう夢も何もない。ただ、毎日お客さんに美味しいラーメン食べさせるだけ。もう、それだけしたいんだよ」

この言葉を聞いた民生は、あらためて「ご馳走様でした!」と言う。実は会計のときに一度言っているが、言葉の元の意味のとおり、心をこめた食事の準備に対してお礼を言いたくなったのだろう。路傍に置かれている石のように存在し続ける店がある。だけど、その店に価値がないなんてことはけっしてない。

第4話は「おじさん臭い」と言われる民生が静岡県下田のとんかつを食らう。今夜0時52分から。
(大山くまお)

ドラマ25「絶メシロード」
出演:濱津隆之、酒井若菜、西村瑠香(青春高校3年C組)、長村航希、野間口徹、山本耕史
原案:「絶メシリスト」(博報堂ケトル)
脚本:森ハヤシ、村上大樹、家城啓之
演出:菅井祐介、古川豪、小沼雄一、原廣利
音楽:河野丈洋
主題歌:スカート「標識の影・鉄塔の影」
プロデューサー:寺原洋平、畑中翔太、田川友紀
制作:テレビ東京、テレコムスタッフ
製作著作:「絶メシロード」製作委員会
配信:ひかりTV、Paravi