「有吉ダマせたら10万円」この詩の作者はバカリズム?相田みつを?だよなあ…有吉との真剣勝負をご報告
「井上マサキのテレビっ子からご報告があります」第28回。ライターでテレビっ子の井上マサキでございます。この連載は日々テレビを見ていて気になった細かいこと、今のアレってアレなんじゃないのと思ったことを、週報代わりにご報告できればと思っております。どうぞよろしくお願いします。

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21日放送『有吉ダマせたら10万円』(フジテレビ系列)を記録に残しておきたい。バカリズムvs有吉弘行の心理戦がひたすら面白かったのだ。


相田みつをか?バカリズムか?


『有吉ダマせたら10万円』は、芸能人たちが有吉弘行に「ウソかホントかわからない」クイズを出題し、見事有吉をだませたら賞金10万円を獲得できるというもの。例えばEXITは「今から兼近が6年ぶり会う思い出の人はAとBどっち?」、純烈は「次のうち実在する強烈なファンはAとBどっち?」という具合だ。

出題者と有吉はカジノのテーブルを模したセットに向かい合い、有吉は相手にじっくり質問しながら正解を推理する。近藤真彦の「約45年ぶりの跳び箱、できる?できない?」には散々悩みつつ、「マッチさん体力的に若いからな」「これできないマッチさん見るの嫌よ!」とコメントして、「できない」の札を躊躇なく上げるなどしていた。

そしてバカリズムが持ってきた問題が「このポエム、相田みつを?バカリズム?」である。問題は全部で5問。1問目がこれだ。


「あいが始まると 最後はわをんと 泣くんだなあ」

実は『有吉ダマせたら10万円』は特番として3回目の放送であり、この「相田みつをorバカリズム」は初回からずっと行われている。バカリズムの「ニセみつを」は毎回クオリティが高く、相田みつをの事務所からも「素晴らしい」と褒められるほど。もはや二代目みつをである。

さて先ほどの1問目。筆文字のフリップを見た有吉は「パッと見て、いいなぁ〜って思うのが相田」と、いきなりの呼び捨て。「あい」と「わをん」の並びを疑い、「技術論じゃないだよな相田は」「小細工始まっちゃってる」「相田終わってない?」とビシビシ言う。


本当に相田みつをだったときのことなんて恐れない。「小賢しさと素朴さを同居させてしまっている」「相田には素朴さしかない」と、バカリズムが書いたと回答。結果は……バカリズム作だった。完全に見切った。

続く2問目はこちら。番組を未見の皆さんは推理してみてほしい。
このポエム、バカリか?相田か?

「泥水で育っても 花は きれいに咲くんだよなあ」

有吉、相田ゾーンに入る


フリップを一瞥した有吉は「これは素朴」「まあ相田だな」という第一印象。「だよなあ」という語尾にも「相田は『だなあ』じゃシンプル過ぎると思ったんだね」という見解である。

これは相田で決まりかと思いきや、すぐに決断はしない。「泥水で育っても……」と、ゆっくり復唱し「……果たして本当にそうか?ってことだよね」とつぶやく。

有吉「ホントに人に照らし合わせたときに……。生まれた場所とか環境が本当に酷い状況だったら、ほんっとうに素直にまっすぐ育つかな?」

まばたきせず、バカリズムが持つフリップを見つめる。「これはね……。
メッセージがない」と言い切った。

「相田にしては軽い」「相田の解釈を間違えてる」「相田のわけがない」とメッタ斬りし、バカリズムが書いたと予想。正解は……バカリズム作! 立ち上がりガッツポーズの有吉、バカリズムは天を仰ぎ「これダメか〜!」と悔しがる。

このクイズ、バカリズムにとっては「相田みつをが書きそうなことを教えてください」という大喜利だとも言える。大喜利だと考えれば、シンプルに作風を寄せることも、あえて少しズラすこともお手のものだ。対して有吉は、文章から相田のメッセージを読み解こうとする。


3問目の「アノネ なるべくなら うそはないほうがいいんだなあ オレ そんなこという資格はねぇけどね」には、「どうしたんだよ?相田……」と、ついに相田に話しかけ始めた。「批判している人が出てきたんだろうな」と思いを馳せ、「相田!気にすんなよ!」と呼びかけ、「そういう時期もあるだろうな」と、これは相田が書いたと推理。

で、これが正解である。「相田がわかる!」と興奮する有吉。もはやゾーンに入った……かのように見えた。
「有吉ダマせたら10万円」この詩の作者はバカリズム?相田みつを?だよなあ…有吉との真剣勝負をご報告
相田みつを『しあわせはいつも』(文化出版局)

「相田の時代です」


言い忘れたが、出題するバカリズムの手元にはたくさんのフリップがある。
あらかじめ多くの問題を用意しておき、場の流れに合わせて最適なものを出しているのだ。『IPPONグランプリ』でも短時間でフリップを量産し、場の流れに合わせて答えていたのを思い出す。

4問目、バカリズムが出したのは「毎日少しずつ それがなかなか できねんだなあ」。有吉は「ちょっと説明強くないか?相田」「本当に相田か?お前」と疑いの目を向けた。そして「しょうもない。相田じゃなくていいよ、これ言うの」とバカリズムだと予想。しかし正解は相田! 「確かにこれ出すの勇気必要だったんですよ」と笑うバカリズム。ようやく一矢報いる。

いよいよ最終問題。ラストの詩がこれだ。バカリか?相田か?

「勝つことは だいじなことじゃない 負けることは たいしたことじゃない」

有吉は相田が生きた時代を思い返す。「当時はバリバリ競争して、這い上がって、血反吐吐いてでも仕事しろって時代でしょう?」と。

そんなときに「勝つことは だいじなことじゃない」と書くのは、とても勇気が必要だったはずだ。でもだからこそ「負けることは たいしたことじゃない」と言わないでほしい、とも思う。有吉はフリップの中の相田に語りかける。

有吉「2つ言わないでよ。どっちか1つは頑張ってよ。ちょっとゆとりが過ぎないか?相田。……わかるよ?そう言ってやりたいもん俺も。だけど、少し頑張らないか?相田……(笑)」

入りこみすぎて自分で笑ってしまう。苦悩した果てに選択したのは「相田」。

有吉「相田が生きている時代にこれを言うってことは、なかなか覚悟のいることだったろうなと思います。今はなんでもないことですから、今この時代にバカリズムがこんな当たり前のことを書くわけがない。相田の時代です

力強く言い切る。果たして正解は……なんとバカリズム作!

有吉は「今この時代に当たり前のことを書くわけがない」と判断したが、バカリズムこそドラマ脚本で「今」の言葉を絶妙に切り抜いてきた人だ。あえて「当たり前のこと」を書いたとしても、なんら不思議ではない。むしろ見破る鍵は「だいじ」と「たいし」で韻を踏む、「小賢しさ」のほうだったかもしれない。

バカリズム作と知り、両膝を床につき愕然とする有吉。「よっしゃー!」と拳を突き出し喜びを爆発させるバカリズム。真剣に遊ぶ2人を見るのはとても楽しい。「年に1度の趣味だから(バカリ)」というこの対決、来年も期待して待っています。
(井上マサキ タイトルデザイン/まつもとりえこ)