弱っていく老人がいるかと思えば、ヨガインストラクターの筋肉男に夢中になって元気を爆発させる老婆たちも。

楢山行きを考える年になった
ドラマも終盤となり「やすらぎの郷」には、ほんのりと死のニオイが漂っている。
先週ぶっ倒れたマロ(ミッキー・カーチス)、女性から誘われる夢を見て「半分あっちの世界に逝きかけている」状態に。
九重めぐみ(松原智恵子)の認知症もかなりの重症となっているようで、若き日に主演した「雪国」と「雨月物語」を組み合わせたトンチンカンな映画のプランを語っていた。
濃厚キャラ目白押しな「やすらぎの郷」においては地味なポジションにいる香川さくら(丘みつ子)は、105歳になり、棄老伝説のある「デンデラ野」に行きたいと言い出した母親をどうするか頭を悩ませる。
母親が健在のまま、娘が老人ホームに入っているという老老介護の極み。
さくらの話を聞いた菊村も、棄老伝説を題材にした映画「楢山節考」を見た母から「楢山に行きたい」と言われた過去を思い出していた。
「今やこっちが楢山行きを考える年になっているのだ」
倉本聰はインタビューなどでたびたび「デンデラ野」や「楢山節考」について言及している。
本作で繰り返し扱われている「尊厳死」もそうだが、「老いて子どもたちの世話になるくらいなら自分の意志で消えたい」という願望は倉本自身のものだろう。
相手を自殺に追い込んでやるわ!
そんな「やすらぎの郷」の中で、ひとりギンギンに生気を放っていたのが「シルバーヨガ」のインストラクター・稲垣新一(中島歩)こと新ちゃん。
かつてオリンピック選手だったという彼の腹筋に老婆たちは夢中になり、理事長夫人のみどり(草刈民代)もバレエで鍛えたレオタード姿でハッスル。それを見て男たちは嫉妬。新ちゃんを中心に、「郷」内の勢力図が変化していく。
これまで桂木夫人(大空眞弓)とは距離を置いていたお嬢(浅丘ルリ子)も、いつの間にか桂木夫人グループに加わって新ちゃんを取り囲んでいた。
このムーブメントに乗り遅れたのがマヤ(加賀まりこ)。
「あのムキムキマンを中心とした趣味の不一致が原因でしょうな。一頭の新鮮なオスが現れると、群れの勢力図がたちまち変わる。テレビで時々見る、アフリカかどっかのワイルドライフを見るようですな」
アフリカのワイルドライフは繁殖を目的とした勢力争いだろうが、さすがにもう繁殖は望んでいないであろう老婆たちの目の色をも変えさせる「やすらぎの郷」のワイルドライフ……すさまじい。
いじけたようにひとりで食事をしたり、新ちゃんの自動車に傷をつけたりと、らしくない陰湿な行動を繰り返していたマヤだったが、突然、自殺未遂を起こす。
新ちゃんに熱狂する老婆たちの仲間に入れず“ハブ”状態なのを苦にしたのか……と思いきや、原因は予想外のものだった。
実はマヤ、キャーキャー言ってる老婆たちを尻目に、新ちゃんに自動車を買い、マンションを借りてやり、そのマンションに出入りしていたのだ。
ライブハウスでステージ前に押し寄せるファンたちを見ながら、ホールの一番後ろで余裕かまして腕組みしている“バンドマンの女”パターンだったのね。
パツパツのパンツにコーフンするだけの老婆たちとはレベルが違う。それでこそマヤ!
とはいえ、若いムキムキマンが80手前の老婆と真剣交際するはずもなく(加藤茶のとこはもっと年の差婚だけど)、ムキムキマンと早川アンナというお騒がせモデルとの交際がフォーカスされたことで、自殺未遂騒動を起こしたようだ。
マヤは若い頃にも、ヒモの男に入れあげた挙げ句、振られて自殺未遂騒動を起こしていたという。
ただ、入院しているマヤの様子からは、本気で死のうとしたというよりは、「小僧、ただじゃ済まさんぞ、揉めるだけ揉めてやる!」という怨念を感じた。
マヤを見舞いに来たお嬢は「アタシ、自殺なんかしないわ。
こんな恐ろしい老婆たちをたぶらかした新ちゃんには、どエライ末路が待っていることだろう……。
老婆軍団の生&性への執着っぷりに安心
1年続いた大巨篇「やすらぎの刻~道」も残すところあと1ヶ月。
壊れていくマロや九重めぐみ。さらにデンデラ野行きを思う菊村など、最終回に向けて老人たちも「人生を閉じる準備」をはじめるのかとしんみりしていたら、老婆軍団の生&性への執着っぷりに安心させられた。
先週、「がんがもう全身に回ってしまっています」と菊村が告知されるシーンがさんざん予告で流れていたので、まさかの菊村死亡エンドなのでは……なんて思っていたら、なんとそのシーンはただの夢だった。
予告の“引き”が夢って、ちょっとズルイよ!
ということで、「やすらぎの刻」パートはまったく落とし所が読めない。
「道」パートの方も、明らかに東日本大震災にともなう原発事故が起こりそうな伏線が張られているが、そこからどうストーリーを終わらせるのか……?

【配信サイト】
・Tver
『やすらぎの刻〜道』(テレビ朝日)
作: 倉本聰
演出:藤田明二、阿部雄一、池添博、唐木希浩
主題歌: 中島みゆき「進化樹」「離郷の歌」「慕情」「終り初物」「観音橋」
音楽:島健
チーフプロデューサー:五十嵐文郎(テレビ朝日)
プロデューサー:中込卓也(テレビ朝日)、服部宣之(テレビ朝日)、山形亮介(角川大映スタジオ)
制作協力:角川大映スタジオ
制作著作:テレビ朝日