
第2週「運命のかぐや姫」7回〈4月7日 (火) 放送 演出・吉田照幸 松園武大〉

違う朝ドラがはじまったかと思った
「最終回だと思った」というのは朝ドラあるある。最終回でもないのに最終回のようによくまとまった回のことを言う。「エール」では新機軸。
「エール」は、福島が生んだ名作曲家・古関裕而をモデルにしたドラマ。主人公は古山裕一(石田星空)で、6回までは小学5年生の彼が音楽や親友に出会うまでが描かれた。が、7回からは、未来の妻となる関内音(清水香帆)の話で、舞台は豊橋に移る。
第一週で、福島の川俣に父・安隆(光石研)の仕事(軍に納品する馬具の製造販売)に付いて出かけた音は、そこの教会で賛美歌を歌い、そこで裕一に見初められる。
朝ドラおじさん日村勇紀いわく「出会いは教会。ロマンチック!」(先週の振り返り番組より)
7回は川俣に行ってきた後の音の物語。関内家は、キリスト教を信仰する優しいお父さんとお母さん(薬師丸ひろ子)と三人姉妹の5人家族である。こちらのほうが朝ドラっぽい。テッパンの朝ドラ家族は、ダメ父+優しい母+姉妹もしくは姉弟って感じであるが。
音のお父さんは名言だらけ
音は「女子供」という言葉が大嫌いで、男中心の社会に疑問を感じている先進的な少女。学芸会でお芝居をやるに当たって、男、しかもおじいさんが主人公の演目ばかりであることを指摘。「女性が輝く物語」をやるべきと、女性が主役の物語「竹取物語」を提案したものの、自分は主人公のかぐや姫にはなれず、おじいさん役になってしまう。そこで安隆は娘に「人にはみんな役割がある。誰もが主役をやれるわけじゃない。だけど主役だけでもお芝居はできん。必ずそれを支える人がいるんだ」と説く。

裕一のターンでは、藤堂先生がいいことを言う「役割」を担わされているが、豊橋・音のターンでは安隆がいいことを言う役割になっているようだ。裕一のターンでは、三郎も善治もダメ父であるが、安隆はできた父。元獣医で馬が好きで「馬のように優しい」とナレーション(津田健次郎)に紹介される。
音が川俣の教会のコーラスに飛び入りで参加したときには「やらずに後悔するより やって後悔するほうがいい」なんてこともお父さんは言っていた。
働くお父さんが読むような名言本とかに掲載されそうなセリフがいっぱいの「エール」。
いやあ、久々に名前をつけたくなった(過去に「ダイジェスト師匠」「インスタント師匠」など)。「名言本師匠」もしくは「企画書師匠」。名言や設定なども含め、会議ですんなり通りやすい企画書みたいなのである。つまり、出世できるタイプの安心な内容というわけです。
だから、音のターンには、「あまちゃん」で大人気だった薬師丸ひろ子、Foorinの新津ちせなどSNS対策も万全である。
さらに、音の大人になったときを演じる二階堂ふみも、裕一の窪田正孝もまだ出ない物足りなさを埋めるために、柴咲コウまで音のターンの初回から登場させてきた。
音、またまた運命の出会い
教会で音は世界的なオペラ歌手・双浦環(柴咲コウ)が歌を歌っているところに遭遇。彼女との出会いが、音は歌手を目指すきっかけとなる。裕一が音楽に目覚めている頃、音は歌手を目指すという、まさに運命が離れた場所で動き出しているのである。柴咲コウはやっぱり、華がある。大河ドラマ「おんな城主 直虎」で堂々たる主人公をつとめただけはある。
デビューは98年。「バトル・ロワイアル」(00年)で迫力あるアクションを見せて注目され、翌年「GO」(01年)で在日韓国人の青年(窪塚洋介)とロミジュリ的な恋をする少女の芝居が鮮烈で人気俳優の座を揺るぎないものにした。その後「黄泉がえり」(03年)ではRUI名義で歌手の役、及び主題歌を担当、その歌が映画を大ヒットに導き、俳優のみならず歌手としても活躍。オペラは専門外と思ったが、伸びやかな高音が美しかった。少女の憧れという役にピッタリだと思う。

少女の音役・清水香帆の演技もしっかりしている
清水香帆のにっと笑う顔が二階堂ふみに似ていると、第1週に登場したとき話題になったが、演技がすごくしっかりしている。獲得できなかったかぐや姫のセリフも手振りを交えてしっかり語っていたし、先生に物申しているときのセリフ「ほとんどおじいさんの話です。ひどくないですか」「最後はおじいさんです」というセリフの言い回しが高校生くらいの子が言いそうな口調であった。まだ11歳。今後が楽しみである。
(文/木俣冬、タイトルイラスト/おうか)
番組情報

連続テレビ小説「エール」
◯NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~
◯BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~、再放送 午後11時~
◯土曜は一週間の振り返り
原案:林宏司
脚本:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
キャスト: 窪田正孝 二階堂ふみ 唐沢寿明 菊池桃子 ほか
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」
制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和