「私の家政夫ナギサさん」イケメン田所(瀬戸康史)と指切りもすぐ嘘をつくメイ(多部未華子)4話
イラスト/ゆいざえもん

ジャンルミックスだった「私の家政夫ナギサさん」4話

「指切りしたそばからまた嘘をつきました」

『私の家政夫ナギサさん』(TBS系 毎週火曜よる10時〜)第4話は、視聴率12.4%(ビデオリサーチ調べ 関東地区)と12%台をずっとキープしている。とにかく気楽に見られるラブコメであるうえ、昨今の多様性問題にも配慮された安心ドラマ。いや、『ナギサさん』は単にヒロインと家政夫の関係を描いたラブコメではなく、ラブストーリーあり、ホームドラマあり、お仕事ものありの、ジャンルミックスドラマである。
4話はそれが色濃く出ていた。

家政夫ナギサさん(大森南朋)と正式に契約を交わしたメイ(多部未華子)。これで仕事もオフもうまくいきそうと思ったのもつかの間、ライバル会社の田所(瀬戸康史)にマンションのお隣同士であったことがバレてしまって大慌て。

メイの部屋の前に男の靴が出ていたことを見たと訝しむ田所に、メイは父親がたまに来ると嘘をつく。ついでに田所と隣同士であることを秘密にしようと提案する。

「指切りしたそばからまた嘘をつきました」というセリフだけを取り出すと、赦されない恋を描いたしっとりした世界も想像できるが、『ナギサさん』はそうではない。あくまでコメディである。その証拠に、そのあとの田所のワイシャツの背中にタイトルが書かれている。こんなふうにタイトルの出し方が毎回違うのは、同じ徳尾浩司脚本で、目下深夜に再放送されている『おっさんずラブ』(16年 テレビ朝日系)でやっていたことで、その後、『凪のお暇』(19年 TBS系)もそれに続いていた。

仕事からなし崩しに恋愛モードに流れ過ぎではないか

4話は、コロナ禍が影響しているのか、この回の撮影時期がわからないながら、会社の草食社員・馬場さんの「無口婚」や、毎回出てくる『北斗の拳』ネタ、肥後先生(宮尾俊太郎)とメイの食事会(という名のデート)と、それが会社のコンプライアンスに抵触しないようにする作戦会議や、そこに参加した後輩・瀬川(眞栄田郷敦)の「無」の境地、メイのマンションに訪ねてきたホントのお父さん(光石研)とナギサさんの会話。そこからナギサさんの気になるプライベート(結婚しているのかどうかなど)が明かされるなど、登場人物のシチュエーションコメディふうな展開の組み合わせで進行していく。かなりジャンルミックスであった。

ホームドラマパート:お父さんが出てきて3年、一緒に会っていないメイの一家の崩壊をどうするか問題が持ち上がり、お父さんの還暦をきっかけに家族関係の修復をはかろうという流れになって、ナギサさんがそれに協力を申し出る。


ラブストーリーパート:肥後先生がメイに結婚を前提に付き合ってほしいと言い出す。肥後先生がぐいぐいキャラを出してきて、演じている宮尾がバレエダンサーだから、劇的な動きがお似合い。「壁ドン」「顎クイ」「耳つぶ」と「恋つづ」のような恋アクションをどんどん決めていく。ただしこれは薫(高橋メアリージュン)の脳内妄想。

薫は薫で、「結婚はタイミングと勢いです」と馬場さんに言われて刺激を受け、田所にやっぱり結婚を前提に付き合ってほしいと迫る。

急展開の会食の帰り、メイはコンビニで田所とばったり。買ったものを持ち寄って公園で一杯。そこで、田所が「顎クイ」(メイの口元にマヨネーズがついていた)。メイも田所も、突然、結婚を前提に付き合ってと言われ戸惑っている。

ブランコに乗る二人は完全にお似合いで、コンビニで買う食べ物の趣味も合っている。でも各々、別の人に付き合ってと言われてすれ違ってしまうもどかしさ。結婚が考えられないとお互い言うのは、結婚の相手が違うような気がしているからという雰囲気が漂う。
このまま誤りを正して、メイと田所が結ばれればいいけれど、そう簡単にはいかないだろう。田所がナギサさんをお父さんと勘違いしていることがゆくゆく問題になるはず。

お仕事ものパート:馬場さんの無口婚を会社の仲間たちと聞く会が開かれる。会社の仲間たちがいつもじつに仲がよく気を使いあい、セクハラ・パワハラ・モラハラなど存在しない世界。

肥後とメイの慰労会に至るまでの、企業コンプライアンス問題。庇護がメイと付き合うために、病院を変わる決心をするなど、企業間の私的な癒着に配慮した展開。

連ドラの基本を抑え、視聴者が見たいものを見せてもらっている感じ。よくできた構成かつ、登場人物の行動を阻むもの――恋のライバル、仕事と恋の板挟み、ナギサの存在、家族の確執、会社のコンプライアンス、上司の異動問題、等々がまったく重くのしかからない。すべてがそれほど難しいことでなく、さらりと解決してしまいそう。ドラマのなかまで、日常のストレスを感じたくないという視聴者のニーズに応えている。

ひとつだけ疑問があるとすれば、あまりにやさしい世界過ぎること。仕事の慰労会ということで、瀬川も無になりながら立ち会ってはいるものの、実質デートで、その席で付き合ってくださいとすばやく話を進めてしまう人たち。
一応「慰労会」という名目であることは、会社の経費で食事しているんだろうか。

そこはよくわからないが、同じ火曜9時枠で人気だった「恋つづ」(恋はつづくよどこまでも)もそうだったが、仕事からなし崩しに恋愛モードに流れ過ぎではないか。仕事と恋愛を切り分けず、地続きに描き過ぎて、世の中そういうものなのか? と疑問に思ってしまう。

「私の家政夫ナギサさん」イケメン田所(瀬戸康史)と指切りもすぐ嘘をつくメイ(多部未華子)4話
第4話は8月4日放送。画像は番組サイトより

ジャンルミックスはいいが、恋と仕事をミックスし過ぎではないだろうか。ただ、こうでもしないと、いまの若者が仕事と恋を生真面目に切り離し、職場恋愛が生まれず、少子化に歯止めがかからなくなる一方だものなあ。と日本とテレビドラマの未来を心配して今日は終わります。
(木俣冬)

番組情報

TBS 火曜ドラマ『私の家政夫ナギサさん』
毎週火曜よる10:00〜10:54
番組サイト:

https://www.tbs.co.jp/WATANAGI_tbs/
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