
自称「日本一の詐欺師」の枝村真人(エダマメ)は、浅草で白人男性から金を騙し取ろうとするが、逆に騙されて金を取られてしまう。ローラン・ティエリーと名乗るそのフランス人も同業者だったのだ。
『リーガル・ハイ』『コンフィデンスマンJP』などの実写作品で知られる人気脚本家の古沢良太が初めてテレビアニメの脚本を担当した『GREAT PRETENDER』。
Netflixでの先行配信に続き、7月からはテレビ放送もスタート。古沢の描く魅力的なキャラクターや、次々と予想を覆していくコンゲーム、『進撃の巨人』『甲鉄城のカバネリ』のWIT STUDIOが作り出すハイクオリティな映像などで大きな注目を集めている。
そこでエキレビ!では、古沢良太にロングインタビュー。先日放送された第5話までで描かれた最初のエピソード「CASE1 Los Angeles Connection」の内容も振り返りながら、本作が生まれた経緯やメインキャラクターたちについて語ってもらった。
ネタバレも含むので、本編をまだ観ていない人は、第5話までを観た後に読んでほしい。

詐欺師の物語は、脚本家的にはチャレンジしがいのある題材
──本作の企画は、WIT STUDIOの和田丈嗣プロデューサーが古沢さんに「一緒にオリジナルアニメを作りましょう」とオファーしたことから始まったそうですね。最初に和田さんに会って、その話を聞いた時の率直な心境を教えてください。古沢 それ以前にも何度か(他社から)アニメに関するお仕事のお話をいただいたことはあったのですが、なかなかタイミングが合いませんでした。だから、今回も最初は、一応、お話を聞くだけは聞いて、将来のための繋がりだけでもできたらいいなぐらいの気持ちでお会いしたんです。それでいつか、タイミングとか、やりたい企画や内容が合致した時にやれたらいいなと思っていました。
──自然消滅しがちなのですね。
古沢 でも、和田さんはその後もけっこう根気強く連絡をくれて(笑)。手紙をくださったこともあったし、時々会っては世間話をしたりしていました。そのうち、だんだんと書いてみようかなという気持ちになっていったんです。
──コンフィデンスマン(詐欺師)という題材は古沢さんから提案したそうですが、詐欺師を主人公とする物語のどのようなところに魅力を感じたのか教えてください。
古沢 ピカレスク的なヒーローって昔からたくさんいますが、最後はだいたいアクションで決着がつくじゃないですか。でも、詐欺師の場合、頭脳を使って相手を陥れることになる、そこが脚本家的にはチャレンジしがいのある題材だなと。でも(それを書くのは)難しいだろうとも思っていて(笑)。やりたい気持ちと、止めておいた方がいいだろうという気持ちの間でずっと揺れ動いてるような感じでした。
──本作の企画は、コンフィデンスマンが主人公のテレビドラマ『コンフィデンスマンJP』(2018年4月〜6月に放送)よりも先に始動したそうですが、以前からやりたいけれど迷ってもいた題材に関して、WIT STUDIOと一緒に作るアニメの企画で挑戦しようと決断したのはなぜだったのでしょうか?
古沢 日本のアニメには世界中にファンがいますよね。特にWIT STUDIOは世界中のファンに向けてアニメを作っている感じがあって、和田さんもそういう夢や野望などを語ってくれていたので、そこに惹かれました。
──古沢さんは、過去のインタビューの中で、影響を受けた作品として『機動戦士ガンダム』を挙げていらっしゃいました。その記事はTVドラマに関するインタビューだったので、アニメの名前が挙がったことに少し驚いたのですが、アニメはよく観るのですか?
古沢 元々テレビっ子でしたし、今はそうでもないですが、子供の頃は片っ端から観ていました。だから、自分の原点と言うのは少し大げさですけれど、作劇に関する原初的な知識はアニメから得ていると思います。
──私は古沢さんと同世代なのですが、我々が子供の頃は、深夜ではなく、夕方や夜の普通の時間にもたくさんアニメが放送されていましたよね。再放送も多かったですし。
古沢 当時のテレビ東京は、「再放送専門の局かな?」と思うくらい、ずっとアニメの再放送をやってました(笑)。だから、世代ではない古いアニメとかもけっこう観てましたね。
──では、テレビアニメの脚本を書くこと自体にも、以前から興味は強かったのでしょうか?
古沢 常日頃いろいろな仕事をしてみたいとは思っているので、テレビアニメに限らず、やっていないことに挑戦したいという気持ちはありました。
小さな詐欺をしているやつが、世界の大海原に引っ張り出される話
──監督やプロデューサーの意見も取り入れながら、(物語全体の流れを書いた)シリーズ構成や脚本を書いていく工程に関しては、ドラマとアニメで異なることもあったのでしょうか?古沢 基本的には変わらないですね。まずは僕が勝手に書いて、みんなに意見をもらいながら直していくという作業でした。
──では、まずは古沢さんがシリーズ構成案を作るところから始まっていったのですね。
古沢 そうなのですが、シリーズ構成はあまりきっちりとは固めないまま進めていった気がします。
──CASE1のターゲットは、ロサンゼルスマフィアのカッサーノ。主人公のエダマメ(枝村の愛称)は、新型ドラッグの開発者と偽って、カッサーノに近づくことになりました。そういったプロットは、どのように発想していったのですか?
古沢 エダマメが(視聴者の)目線になる主人公なので、当然、CASE1ではエダマメがメインの話をやろうと思っていました。それも、日本の小さなところで小さな詐欺をしているやつが、世界の大海原に無理やり引っ張り出される、そういう話にしたかったんです。それなら、舞台はアメリカがいいんじゃないかなと思って。あと、何者かになりすまして潜入する話って、もしバレたら殺されるといった緊張感が面白いわけじゃないですか。だから、潜入先をマフィアにするというのは、一番の常套手段ではあったんです。最初は、そういったベーシックなことをやろうという感じで考えていました。

──アメリカの中でも、特にロサンゼルスを選んだ理由は?
古沢 僕が好きだったからです(笑)。以前、行った時に楽しかったんですよ。
──背景を自由に描けるアニメの場合、ロケやセットが必要な実写よりも舞台の選択肢は広がると思うのですが、だからこそ海外を選択したということもあるのでしょうか?
古沢 もちろんです。最初から、世界を舞台にした作品にするつもりでした。この後のエピソードも、基本的には僕が行ったことのあるところを舞台にしています。その舞台と、よくある詐欺の手法を組み合わせて、お話を考えていった形ですね。詐欺のパターンって、ある程度決まっていて、まず基本は偽物を売りつけること。だから、CASE1は、偽物のドラッグをどうやって本物だと信じさせて売りつけるかという話にしました。あと、レースの八百長も、よくある詐欺の代表なんですよ。それがCASE2。舞台は、前に行った時、すごく楽しかったシンガポールがいいなって(笑)。最初はF1レースにしようと思っていたのですが、せっかくアニメなので、より派手なエアレースにしようかなと。
中学生くらいの頃の自分に向けて作りたいという気持ちはあった
──本作には、エダマメとローラン・ティエリーら4人のメインキャラクターが登場します。4人の設定は、シリーズ構成を決める段階でかなり固まっていたのでしょうか? それとも、各話の脚本を書きながら固めていったのでしょうか?古沢 それぞれの人物が背負っているものや過去などは、もう一つのドラマとして重要だと思っていたし、それを描くこともこの作品でやりたかったことなので、最初にある程度は固めていました。
──すごく意外な設定でした。
古沢 そうでしょう? たぶん、最初にアビーというキャラクターをガッチリ作ってから書きはじめていたら、あの設定は出てこなかったと思います。「さて、アビーの過去はどうしようか」と考えることになった時に、(すでに)CASE1でアビーを書いてきたからこそ、あの発想が出てきたんです。

──人物像がさらに膨らむような設定でした。では、メインキャラの4人は、それぞれどのような役割やイメージの人物として描かれたのですか? まずは、主人公のエダマメについて教えてください。
古沢 モラトリアムというか、くすぶってるというか、小さな殻にこもっている感じの生き方に悩んでいるような主人公にしたいという気持ちがまずありました。
──そういった主人公が広い世界に引きずり出されることで変化していく物語ということですね。
古沢 はい。(『機動戦士ガンダム』の主人公)アムロ・レイの類型なのかもしれないですが……。
アニメの道に進んでいた可能性もあったと思う
──ちなみに、その後、あまりアニメを観なくなったのは、何かきっかけがあったのですか?古沢 当時は漫画家になりたいと思っていたのですが、手塚治虫が「漫画家になりたければ、漫画を読んでいちゃだめだ」と言っているのを読んだんです(笑)。手塚治虫は、実写の映画からアイデアや刺激をもらって漫画にするということをやっていた人だから、「こういう映画を観なさい」「ああいう映画を観なさい」とか、いろいろと言っていて。それを真に受けて実写映画を勉強し始めたら、嗜好が実写の方に移っていったんです。だから、手塚治虫に変な影響を受けていなかったら、アニメの道に進んでいた可能性もあったと思うんですよ。あるいは、すっごいオタクになっていたかもしれない(笑)。僕が中学生の頃って、ちょうど、(『GREAT PRETENDER』キャラクターデザインの)貞本(義行)さんとかが出てきた時期だったので。
──では、「貞本さんにキャラデザしてもらえた!」とアニメファン的な感覚で大喜びしていた可能性もあったのですね(笑)。
古沢 貞本さんにキャラデザをしてもらえたのは、実際にすごく嬉しかったです(笑)。僕、『(王立宇宙軍)オネアミスの翼』(貞本がキャラクターデザインを担当した1987年公開の劇場アニメ)もリアルタイムで観ていたんですよ。
──テレビアニメだけではなく、劇場作品もチェックしていたのですね。想像よりも濃い目のアニメファンでした(笑)。
古沢 当時は『プロジェクト A子』のOVA(オリジナルビデオアニメーション)とかも観ていたし、オタクの入口には立っていたと思います(笑)。
──古沢さんのインタビューで、『プロジェクトA子』の名前が出てくるとは思いませんでした(笑)。子供の頃から漫画やアニメが好きで漫画家を志し、その後、実写ドラマの脚本家としてデビューをされたとのことですが、フィクションの物語に対する興味はずっと変わらないものだったのですね。
古沢 何かを作りたいという気持ちはずっとあったのだと思います。でも、物語にこだわっていたわけではなくて。絵を描くのも好きだったから、絵描きにもなりたかったんですよ。ただ、シナリオを書いてテレビ局のコンテストに送ったら、それが受賞して。その局の連ドラに参加することになり、そのまま今に至る感じです。
──その後もドラマや映画の脚本を書いていたら、子供の頃に好きだったアニメの方から脚本の依頼が来たと。
古沢 ええ、面白いものですね。まさか、そこで貞本さんと一緒にお仕事できることになるとは(笑)。
──ちなみに、キャラクターのビジュアルに関して、貞本さんに具体的なイメージなどは伝えていたのですか?
古沢 貞本さんからは、俳優さんとかの実在する人物で伝えてくれるのが一番ありがたいと言われていたので、自分の思いつく限り俳優の名前を伝えました。

──エダマメに関しては、誰の名前を伝えたのですか?
古沢 神木隆之介さんとか、菅田将暉さんとか……。ただ、エダマメみたいな役って、若くて優秀な日本の男性俳優さんの大半にハマると思うんですよ。だから、名前を挙げだしたらキリがなくなった感じはありました(笑)。
(丸本大輔)
※インタビュー後編はこちら
作品情報
『GREAT PRETENDER』フジテレビ「+Ultra」
毎週水曜日24時55分から放送(BSフジ、ほか各局でも放送)
Netflix視聴ページ:https://www.netflix.com/title/81220435