多部未華子『私の家政夫ナギサさん』ロマンティック来たーーと思ったら「さっそく介護」“わたナギ”最終回
イラスト/ゆいざえもん

「あなたはいつもそうやって私の肩の荷を下ろしてしまいますね」

ナギサさんのこのセリフに尽きた。人生の、いろんな肩の荷を下ろしてくれるドラマが『私の家政夫ナギサさん』(TBS系 毎週火曜よる10時〜)だった。


視聴率19.6%(ビデオリサーチ調べ 関東地区)まで上がった第9話は最終話。15分拡大とはいえ、短い。せめて10話やってほしかった。きっとコロナのせいだ。

恋と笑いもくるくる回るねじりんぼう『私の家政夫ナギサさん』最終回

ものすごく駆け足でメイ(多部未華子)ナギサさん(大森南朋)が4日間のトライアル結婚に突入する。

新婚生活(トライアル)1日目。ナギサさんを待つ間、妙にあたふたするメイ。「今、私、恋をしている?」 あいみょんの主題歌「裸の心」の歌詞がセリフに。初々しい〜。

いちごパイを焼いてきたナギサさん。歩いているシーンを見て、ウエストまわり、前からこんなにたぷたぷしていたっけ? と思った。役作りでなにか入れているのか。もみあげ部分の白髪はいかにもおじさんで、仕上がりがすばらしい。
でもそんなおじさんがいちごパイ。

まさにギャップ萌えのナギサさんに、呼び捨て、ツンデレを妄想したメイは、「ちょっと亭主関白」なナギサさんをオーダーする。「清楚な感じでいきますか? わりと得意なほう」とメイもシチュエーションプレーの提案。得意なんだ……。いや、あくまでトライアルだからいろんなパターンを試すという意味である。

ナギサさんはそんなふんわりした感じではなく、いわゆる結婚の基本ルール的なことをすり合わせようと提案して、子供はどうする問題にメイは激しく動揺するのだった。

2日目、亭主関白パターンがハマり過ぎていてやばかった。前の晩、おじさんのための消臭スプレーを部屋にまいていた人には見えない。原作のほうはわからないけれど、ドラマのナギサさんは大森南朋しかもはや考えられない。

「ひとりだと好きなときに食べて、好きなときに寝て、なんでも自由だったけど、誰かと生活するってことは当然相手のことも考えないといけないんだよね」という根本的なことを考えるメイ。いや、ホント、結局、ここに尽きるわけで、相手のことを考えてないで甘えてしまうと、たちまち崩壊する。雇用者のときはメイが好き勝手していても良かったけれど、夫婦は対等なのである。
だからこそ家政夫がいいなあと思うんだけれど、相手のことも考えてみるという一歩をメイは踏み出したのだ。

だが、トライアルは3日目にして暗礁に乗り上げる。「トライアル制度にも驚きですが、3日で出ていかれたことにも驚いています」と淡々と言う田所(瀬戸康史)。メイに適当にあしらわれているにもかかわらず、感情的にならないから立派だ。

田所の真剣告白に返事しないままトライアル結婚してしまうメイはやっぱりちょっと勝手な人である。多部未華子はすべてにおいてセリフの意味を強調する演技をしないので、悪気がないという感じで済まされるところが得している。棒読みにならない程度に熱演しないって大事。

ふたりを繋いだおそろいのカップ

田所をはじめとして、報われないキャラたちに良いセリフがあてがわれている。薫(高橋メアリージュン)のセリフ「トライアル離婚」も良かった。瀬川(眞栄田郷敦)は仕事で見せ場がある。お母さん(草刈民代)は「結婚って真っ暗闇の中を進んでいくようなものよ」にはじまって、名言をつらつらと語る。

ふいに出ていってしまったナギサさんは、おそろいのカップを用意していた。陸橋の上で改めて語り合うメイとナギサ。
年齢的な問題を考えるナギサさんと、それを理詰めで引き留めようとするメイ。ふたりの会話は一見、ロマンティックじゃなくて、でもそれが気持ちいいなと思ったら、ついに告白があって、あいみょんタイム来て、メイが助走をつけてナギサさんに飛びついて、抱きとめられて、くるくる回るスローモーション。ロマンティック来たーーと思ったら、腰を痛めるナギサ。

「さっそく介護」

恋と笑いもくるくる回るねじりんぼう。

結婚の許しをもらいに来たナギサさんとお父さん(光石研)が酒を酌み交わす。お父さんが許さん!みたいな話にはならない『ナギサさん』。年の差婚は彼女のお父さんとの問題も気になるけれど、光石研と大森南朋だったら問題はない。

最後は『私の家政夫ナギサさん』が『私の夫ナギサさん』に。タイトルロゴがもともと「私」と「夫」だけピンクで、ラストは最初から暗示されていたのである。

肩の荷もおり、タイトルから“家政”もとれ、心が軽くなった。世間体のルールからの解放を「呪いが解ける」という言い回しにするのが『逃げ恥』以降流行っていたけれど、「肩の荷を下ろす」という普通の言葉を用いたことが『ナギサさん』らしいと感じる。

多部未華子『私の家政夫ナギサさん』ロマンティック来たーーと思ったら「さっそく介護」“わたナギ”最終回
9月8日に『新婚おじキュン!特別編』放送。画像は番組サイトより

メロンパン号登場で『MIU404』とリンク

さて、メイがナギサさんの待つ我が家に帰る道すがら、まるごとメロンパン号が出てきて、同じTBSで放送しているドラマ『MIU404』(金曜10時)の世界とリンクをしたのだが、飯尾和樹(ずん)はしろくまメディカルの駒木坂さんなのか、『MIU404』にも出てきた『アンナチュラル』のUDIの坂本さんなのか。ドッペルゲンガーなのか。


それはともかく、駒木坂さんは最後にすごいネタを持っていた。まさか古藤(富田靖子)と夫婦だったとは! ゲストでラオウこと病院薬剤師・畠山役で宇梶剛士が出てきたから、『逃げ恥』で夫婦役だった富田と宇梶(みくりの父母)が夫婦というパターンもあるかと思ったが、駒木坂さんだった。

『逃げ恥』に『MIU404』と自局ドラマをつなげる『ナギサさん』。『MIU404』は『アンナチュラル』とつなげていた。これからは、いかに自局のコンテンツを再利用して、一作一作のドラマで闘うのではなく、局ごと愛してもらう時代なのではないかと思う。

これで終わりは寂しい〜と思ったら、2時間スペシャルあり。総集編と、最終回のその後も描かれるらしい。ナギサさんの癒やしはまだ終わらない。
(木俣冬)

※エキレビ!では、次回『新婚おじキュン!特別編』のレビューも掲載します。記事を更新しましたら、ツイッターでお知らせします。ぜひフォローしてくださいね

番組情報

TBS 火曜ドラマ『私の家政夫ナギサさん』
新婚おじキュン!特別編
9月8日(火)よる8:57〜2時間スペシャル

公式サイト:https://www.tbs.co.jp/WATANAGI_tbs/
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