多部未華子「私の家政夫ナギサさん」 大森南朋がナギサさんでよかった―― 来週が最終回だなんて 8話
イラスト/ゆいざえもん

次回が最終回だなんて……(泣) 「私の家政夫ナギサさん」8話

「この恋が実りますように〜♪」 あいみょんの主題歌「裸の心」がナギサさんの気持ちと重なるドンデン返し。『私の家政夫ナギサさん』(TBS系 毎週火曜よる10時〜)の第8話は、メイ(多部未華子)田所(瀬戸康史)の仲が接近しかかったら、ナギサさん(大森南朋)の心が揺れはじめ……。視聴率は16.7%(ビデオリサーチ調べ 関東地区)とまた上昇。


7話でメイがナギサさんに抱きついているところを目撃した田所。ナギサさんに「あなたは誰ですか?」と問い詰める。その流れでナギサさんを連れてメイの部屋に押しかけていくが、何も知らないメイは一生懸命「お父さん」扱い。そのときのナギサさんの顔……。そしてバレてることを知ったメイの「私はもう……死んでいる」。

ナギサさんが大森南朋でよかった。田所がメイの秘密を知って打ち解けていくなかで、徐々に感情を出してくる。もしかして7話で、後輩MR箸尾(松本若菜)に恋人がいなかったら……。ナギサさん、本当は彼女を想っていたのではないか、彼女を助けられなかったことをくよくよしていたのは失恋の傷が癒えなかったからではないか。

主題歌のように、もう恋なんかしないと臆病になってしまっていて。そんなときにメイが現れて、箸尾とメイの行動や考え方が似ていたから惹かれてしまい、でもその想いの実体を自覚しないように抑え込んでいて……と直接的なセリフがなくても、大森の表情の動きに、勝手にどんどん想像が沸いてしまう(主に「裸の心」に影響されての妄想です)。

大森南朋は、代表作「ハゲタカ」をはじめとした作品で、顔にグラデーションの影がかかってグレーな雰囲気の人物を演じてきた俳優で、『ナギサさん』ではお母さん思いで、お母さんになりたくて、「おじさん」と呼ばれるとちょっと傷つくような人物の心をみごとに演じている。


ハゲタカの人もナギサさんも環境の違いで人生、全然違うけれど、誰にだっていろいろな過去や秘密があることを、人間の心はとてもミステリアスであることを、大森は全身で示してくれる。

田所が隠しに隠して来た部屋の秘密がついに明らかに

ナギサさんがもてあます心を、薫(高橋メアリージュン)が察知する。薫は本当にいい人。好きだった田所がメイのことを好きだとわかってもくよくよしないでメイを応援するし、メイの恋を、会社の仕事をサポートするからと、さらに応援する人の善さ。ナギサさんのことを最も「おじさん」と連呼したことはさておく。

『ナギサさん』はいやなことが全然ないストレスフリーの世界と毎回のように書いているが、恋のために仕事をサポートするなんて、そんなことがこの世にあるものだろうか。ナギサさんも雇いたいし、薫も友達に欲しいし、天保山製薬にも入りたい。

メイは自分の仕事の能力にやたら自信満々だが、それはみんなが甘やかしてくれる環境にいるからではないかと思う。そんなメイだから「北斗の拳」に描かれた愛の過酷な苦しみなど到底わからない。

とはいえ、この回、メイは子宮内膜症の薬が効かない患者さんの症状からほかの病気(HAE)に気づくという『アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋』(フジテレビ)のような優秀な働きを見せている。しかもそれに田所が手助けするという素敵展開。

余談だが、その流れで登場した妹・唯(趣里)とメイのお団子ヘアが似ていて本当に姉妹のようだった。ふたりともうなじが美しい。


メイはそれほど痛みも苦しみもなく、田所、肥後、ナギサさんに囲まれて、悩む。田所のことをメイに、ナギサさんが彼のことをどう思うか聞いて、そうやってたくさん悩んでいることが田所にちゃんと向き合っていることだと言う。そう思うと、肥後先生(宮尾俊太郎)のことをメイはまったく考えてない。忘れちゃっているくらいだから、田所のほうが優勢。

残念な肥後先生とお断りを前提で食事する店で『オズの魔法使い』の映像が流れているのは、ドロシーとライオンとかかしとブリキが、メイとナギサさんと田所と肥後先生の暗示ということなのだろうか。じつのところ、とくに頑張らなくても複数にモテてる時期が人生でいちばん幸福だと思う。ひとりに決めるといろいろ面倒くさいことが付随してくるから。

でもメイはまず肥後先生を片付け、田所とナギサが残る。そのとき、田所の秘密がついに明かされる。田所が隠しに隠して来た部屋の秘密とは――。

メイと同じく片付けられない人だった。洗濯機の水が玄関に流れ出し、カラフルでかわいげなお風呂小物が流れてくるのでまさかの子供がいる展開? と一瞬、ドキドキしてしまったが、そんなヘヴィな展開があったら『ナギサさん』ワールドが崩壊してしまう。


田所の部屋を見たメイは幻滅するどころか、自分とまったく同じ散らかり方に親近感を覚える。メイも田所も、外ではがんばって優秀であろうとし、その分、部屋に自分の弱点を隠している。

同類同士、大接近かと想いきや、同類というのは曲者で、お付き合いするなら違うタイプのほうがよかったりするものである。1話から印象的に出てきたものの、それほど登場しない上司・古藤(富田靖子)に、いろんなものを全部背負っているとき、そばにいて笑わせてくれるような人がいるといい。そういう人は絶対に手放しちゃダメよと言われたとき、メイに脳裏に浮かぶのは……。田所も笑わせてくれるし、肥後先生も。ただ家事はしてくれない。とすればやはり、ナギサさんしかいない。

メイとナギサさんとつなぐかのようなあいみょんの主題歌

あいみょん「裸の心」タイムは、メイと田所が仲睦まじいところを目撃して思うところありそうなナギサさん。部署異動があってメイとお別れかもしれない状況にもあって、もやもやするナギサさんの哀愁の姿に「この恋が〜♪」とかかるから、おお、この歌はメイでなくナギサさんのためだったのか!と心がざわめいたが、メイにも曲はかかる。まるでこの歌が離れているメイとナギサさんをつなぐかのようだった。主題歌でぐっと盛り上げるパワーは「MIU404」の米津玄師「感電」と並ぶ勢いである。

ふたりが向き合って、ナギサさんがおずおずと言うのは――

「メイさん、お食事にしましょう」

このセリフ、いい。
大森南朋だからこそこのセリフに深みが出る。

ナギサさんが辞めると聞いたメイがとっさに思いついたことは、最初に似てる、似てると言われていた『逃げ恥』展開(お試し結婚)であった。たしかに初期は「家政夫」と「家政婦」で『逃げ恥』と重ねて見ていたが、いまや関係なく『ナギサさん』は『ナギサさん』。だからこそ来週、最終回であるということが残念でならない。この癒やしがなくなるなんて。まだコロナ禍も収束してないし、ナギサさ〜〜ん。とうもろこしご飯、食べたーい。
(木俣冬)

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番組情報

TBS 火曜ドラマ『私の家政夫ナギサさん』
毎週火曜よる10:00〜10:54

公式サイト:https://www.tbs.co.jp/WATANAGI_tbs/
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