
なぜ『MIU404』にどっぷりハマるのか
綾野剛と星野源W主演『MIU404』(TBS系 毎週金よる10時〜)が9月4日(金)に最終回を迎える。コロナ禍で回数が微減したというが、全11話は昨今の連ドラでは多いほう。それでもものすごくあっという間に駆け抜けた感があって、今日で終わりだなんて寂しすぎると思っている視聴者も少なくないだろう。
視聴率的には『半沢直樹』や『私の家政夫ナギサさん』には敵わなかったとはいえ、『MIU404』には浮動票的な視聴者がいない気がする。つまりなんとなく流行っているから観るとか、なんとなくテレビをつけているだけというようなことがなく、作品にどっぷりハマって離れない視聴者がついている。とりわけSNS人気は格段に高く、それも物語をきちっと受け止め咀嚼し、想いを紡ぐものが多いのも特徴である。
なぜ『MIU404』にどっぷりハマるのか。
1. 門戸の広い警察もの
『MIU404』はMobile Investigative Unit(機動捜査隊)のバディ・志摩(星野)と伊吹(綾野)を中心に、街で起こる事件を解決する警察ドラマで、手始めに観るには入りやすい入り口となっている。2. 従来の警察ものと少し違う
志摩と伊吹の所属する機動捜査隊の任務は「初動捜査」や逃走している容疑者の「追跡調査」で、複数の警察署や都道府県の管轄地域にまたがる広域事件や重大事件の捜査に当たることもできる。その特性から、主人公は事件の真相を追って犯人を逮捕することよりも、事件を未然に防ぐことに意義を感じている。そこが新鮮。
志摩と伊吹が乗っている覆面捜査車・まるごとメロンパン号も、従来の警察ものに出てくるシンプルな車とはまったく違って、遊園地みたいでインパクトがある。
3. 主人公のふたりが魅力的
野生の勘で動く天真爛漫に見える伊吹と、ちょっとクールで理屈っぽい志摩。最初はかみ合わないふたりだったが、徐々に信頼を深めていく。志摩も伊吹もそれなりに過去につらい体験をしていて、それによって負の行動をとりそうなときもあるが、お互いがそのストッパーになる。ふたりが何度も何度も苦しい目にあいながら、そのつど手を差し伸べ合う場面にはじんとくる。
4. 主人公を取り囲むキャラもいい
第4機捜の仲間たちが魅力的で優れた群像劇にもなっている。隊長の桔梗(麻生久美子)は働くシングルマザー。苦労を顔に出さずさばさば仕事をこなすがんばり屋。
陣馬(橋本じゅん)は昭和の男臭い刑事代表。時代遅れの密なコミュニケーションを求めたがるが、モラハラにはならない愛情のあるもので、それが若い九重の心をほぐしていく。
九重(岡田健史)は父が警察の偉い人でキャリア。最初は四角四面だったが、陣馬とバディを組んで、だんだん内面の良い部分が表出していく。
仲間みんなで「機捜うどん」を食べる場面が毎回なにかしら登場。食事シーンは問答無用に和む。
1話ごとに事件解決も楽しめるが、全編通してテーマがあって全部観ることで楽しめる部分があるから毎回観てしまう。桔梗が助けた羽野麦(黒川智花)は低賃金がもとで闇稼業に巻き込まれてしまったが、桔梗のおかげで立ち直っていく。彼女も重要な存在。
また、家出した高校生の成川(鈴鹿央士)、彼を悪の道に誘う久住(菅田将暉)、ナウチューバー・特派員RECこと児島弓快(渡邊圭祐)などが絡み合い、ドラマに厚みができている。
5. 現代の社会問題にフォーカスする
毎回、登場する罪を犯す者は、この社会の犠牲者でもある。働いても働いても暮らしが楽にならない低賃金にあえぐ労働者たちや、ことの善悪がわからない高校生や、夢を抱いて日本に働きに来た外国人労働者たち。とりわけ人気の高かった4話「ミリオンダラー・ガール」は、正規の仕事がなかなか見つからず水商売をやらざるえなくなり、やがて暴力団の息がかかった仕事に巻き込まれていく元ホステスの女性・青池透子(美村里江)が善行をしたい一心で大博打に打って出る。
一寸の虫にも五分の魂、社会の歯車である小さなネジのような者だって、幸福な世界を夢見る。

「悪い人が捕まって。頑張ったら報われて。正しいことをした人が後悔しないで済む世界」(羽野麦/9話)
こんな想いをすくいとってくれるドラマ。「あおり運転」「低賃金14万円」等、各回、実際の現実問題とリンクしているところも予言のドラマのようで話題に。
さらにいえば、女性が隊長をやっているのはジェンダー問題を考慮してのことだろうし、伊吹が女性の魅力を「キュルッとした」と独特な表現をするのも「カワイイ」とか「美人」とかいう見地を避けようとしているのではないだろうか。
だから、志摩と伊吹を決して「イケメン」刑事なんて呼んではいけないと思うし、そんなふうに書かなくていい、魅力が他にいっぱい散りばめられているのである。
6. 米津玄師の「感電」タイム
米津玄師の主題歌「感電」が毎回じつにいいタイミングで入り、最高潮に高まる。7. どこまでも清く正しく
「俺たち警察は、弱い者を守りながら、どこまでも正しく清廉潔白でいなくちゃならない」(志摩/10話)「正義ってすんげえ弱いのかもしれねえなあ」
「大切にしてみんなで応援しないと、消えてしまうのかもしれないなあ」(伊吹/10話)

一時期、フィクションの世界では、白黒つかないグレーの表現が流行していた。人間は善と悪、両方持っているものだという考え方である。良い人だと思った人が悪い人だったという意外性は表現を豊かにしたが、『MIU404』の場合は、誰もが善悪を持っているのなら、悪に転ばない方法を見出すことこそ人間の叡智である。
それを「ピタゴラスイッチ」に例えて、何かの緩衝が善の道、悪の道を分けるのであれば、善の道に進むスイッチにお互いがなっていこうと、何かあったら手を差し伸べようとする伊吹や志摩や第4機捜の面々。
「誰と出会うか出会わないか。
いろいろあっても、正義はひとつ。人を殺してはいけないし、暴力で物事を動かしてはいけないし、不正はしてはいけない。
安心の正論を、観た人たちで、うんうん、そうだよねえと分かち合えることは、なぜか正論が通らなかったり、答えが見えなかったりする今の時代には救いになる。
金曜の夜だというのにお子さまの情操教育にもぴったり。感受性豊かなお子様や中高生がお母さんと一緒に観ることをおすすめしたい(もう終わっちゃうけど)。もちろん大人がひとりで観るのもいい。
(木俣冬)
※最終回のレビューは明日掲載します。掲載したら、こちらのツイッターでお知らせします。ぜひフォローしてくださいね
番組情報
TBS 金曜ドラマ『MIU404』毎週金曜よる10:00〜10:54(最終回は15分拡大)
番組サイト:
https://www.tbs.co.jp/MIU404_TBS/