『半沢直樹』「あなたのことなんて大嫌い!」分かれ行く黒崎と半沢の間に爽やかな正義の風が吹いた8話
イラスト/ゆいざえもん

本当は9月6日に放送されるはずだった理由がわかった 『半沢直樹』8話

コロナ禍の影響で、1週休んで再開した日曜劇場『半沢直樹』(毎週日曜 よる9時〜 TBS系)第8話(9月13日放送)は、バスルームの死体からはじまった。視聴率は25.6%(ビデオリサーチ調べ 関東地区)とまた上昇。

いきなりミステリー調でチャンネル間違えたかと思ったが、場面はすぐに、おなじみの北大路欣也の鋭い眼光のアップに切り替わる。


中野渡頭取(北大路欣也)蓑部幹事長(柄本明)が密談している。頭取、いつも口数少なく、部下たちの勝手な言動を見守っているが、現在、かなり崖っぷちに追い詰められているはず。どうなる頭取。

7話は様々な「縁(えにし)」が絡み合うストーリー。中野渡と蓑部、紀本(段田安則)が関わる15年前の旧知の絆の秘密を、半沢(堺雅人)大和田(香川照之)と、旧知の仲間が協力して暴いていく。これこそが現在の帝国航空再建問題の根源であった。

「銀行には時効はない」

半沢は15年前に隠蔽された不正を掘り返し、ただそうとするが――。
前回、半沢の奮闘努力の甲斐があって、帝国航空の債権は守られたものの、まだ予断は許さない。

紀本 VS 大和田

「常務の進退はいかがされるおつもりか?」と大和田が詰め寄ると、紀本は「私の役職を最後までまっとうする覚悟です」と「頭取のため」を盾にしてぬけぬけと返す。このままでは頭取は国会に参考人招致を受けるかもしれない。

半沢と大和田が手を結ぶしびれる展開

東京中央銀行を脅して蓑部が何を守ろうとしているかというと、「蓑部空港」と呼ばれる伊勢志摩路線。かなりの大赤字なのに、これから収益が伸びると言う蓑部に、白井(江口のりこ)は不信感を募らせる。

半沢は黒崎(片岡愛之助)の助言を得て、蓑部と東京中央銀行の秘密を知ることになるのだが、ここでひと笑いある。
黒崎がおなじみの股間つかみを、部下(宮野真守)にする手付きを半沢がまねながら「何かをつかみました」と言うところ。

つかんだヒントから半沢は「派閥の絆」に行き当たる。半沢と大和田がいた産業中央銀行(旧S)と中野渡と紀本のいた東京第一銀行(旧T)が合併する前の旧Tと付き合いがあったのだ。

30年前の旧Tと蓑部に関する資料のデータを見るには大和田の承認が必要。閲覧を求められた大和田は、手を組まないか半沢と持ちかける。

ここでもひと笑い。「(大和田のことを)1ミリたりとも信じない」という半沢に、「この世でいちばんお前が嫌い」と返す大和田。例の「大事な七文字」を持ち出す半沢。わかっていてごまかす大和田に、「あなたは小学生以下ですか」と嘲る。

結果、「おねしゃす」としぶりながら、ついに「お願いします」と頼む大和田。7話のお返しをされた形。「小学生」と言うけれど、半沢だって小学生みたい。
もっとも『半沢直樹』自体がつねに子供の喧嘩みたいなのである。

なんて思っていると、カッコいい場面もある。東京中央銀行の未来のために、二人は共闘の握手をする。握手といっても軽く触れる程度のソーシャルディスタンス。このちょっとだけ触れてすぐに離れるタイミングがカッコいい。逆光のシルエットの二人も。堺雅人も香川照之も顔芸だけじゃないのである。頭の先から爪先までカラダ全体、空間全体を感じながら表現しているのである。

ふだん敵対している犬猿の仲であっても、目的が同じであれば手を結ぶ。それはお互いの実力は認めているから。こういうのは問答無用にしびれる展開。そして半沢と大和田もある意味、旧Sの“派閥の絆”である。


ネチネチとした紀本と大和田のバトル

旧Tが5年間も無担保で蓑部に大金を貸し付けていた謎を暴こうとする半沢に、法人部の灰谷(みのすけ)は知らん顔。仕方なく、検査部という島流し待機所といわれる出向待ちのポストに10年もいる生き字引であり、かつて半沢の上司でもあった富岡(浅野和之)に頼んで資料を見ていると、紀本がやってくる。資料を慌てて隠すというはらはら展開は、ロスジェネ編にもあった。

今回、次々と半沢の旧知の仲間が助けてくれる構成で、次に現れたのはタブレットこと福山(山田純大)。小憎らしい口調で、でも情報をじゃんじゃん教えてくれる。

そこでわかった旧Tの派閥の絆――棺の会

旧Tの不正融資の責任をかぶって自殺した牧野副頭取(山本亨)の部下たちの集まりで、命日にはいまも必ず集まっている。中野渡も小料理屋の女将・智美(井川遥)もその部下だったという芋づる式。

この命日が9月6日で、本来の放送日と同じ日に当たるはずだった。放送日が1週ずれてしまい惜しかった。

半沢たちの動きを察知した紀本が大和田に、蓑部を紹介する代わりに情報を話せと詰め寄ると、役員の立場がなくなると脅すより役員の立場を与えると「施してくれたら」と好条件をねだる大和田。「恩返し」を欲望まみれのやな感じに使う天才である。ただ、このときの紀本と大和田のバトルは半沢、大和田の子供の喧嘩とは違う。なにかもっとネチネチとしている。


半沢に頭を下げさせる蓑部の力と深い闇

半沢たちの動きを紀本に察知させたのは半沢の作戦で、そうやって紀本を動かして、一気に秘密に切り込んでいく。

「隠蔽は隠蔽を生む」
「過去をただしてこそ未来は開かれます」

このへんのセリフは現実の誰かに聞かせてあげたいもの。言動はなにかと暴力的ではあるものの、『半沢直樹』が不正を全身全霊でただそうとする精神性は悪くない。半沢は弱い者には怒鳴らず、強さをふりかざしている者にだけ激しく当たっていく。これくらいの勢いで社会の隠蔽を暴いて不正をただしてほしいという庶民の怒りと哀しみを半沢直樹は全身に受け止め、代わりに吐き出しているのである。

だがしかし、蓑部の闇は深く、力は絶大で、半沢も歯が立たない。秘密を暴くことで東京中央銀行と頭取の立場が悪くなる。「棺を開けたのは君だ」と責められ、半沢も頭を下げざるを得なくなる。

「棺の会」という名は、亡くなった者を悼むと見せかけて、じつは、重大な不正の事実の隠蔽を「棺」に例えているところにインパクトがある。

政府と銀行の関わりを独自で調べていた黒崎が政府に睨まれ異動になると知った半沢が駆けつけると、「政府にさからうなんてホントにばかなことしたわ。誰かさんに影響されたせいかしら」と言いながら、「伊勢志摩ステートを調べなさい」と黒崎はまたヒントを囁き、「あなたのことなんて大嫌い」とうそぶきながら去っていく。

黒崎がネチネチと銀行の不正に厳しいのは、お金を正しく扱いたいだけであり、ずるして私腹を肥やす者が見逃せない気持ちは半沢と同じなのである(むしろ半沢側のほうがずるしているときもある)。分かれて行く黒崎と半沢の間に爽やかな正義の風が吹いた気がした。


『半沢直樹』「あなたのことなんて大嫌い!」分かれ行く黒崎と半沢の間に爽やかな正義の風が吹いた8話
第9話は9月20日放送。画像は番組サイトより

嫌い嫌いも好きのうちの、半沢、大和田、黒崎。彼らの喧嘩は乱暴なとこがあってもどこか純真さゆえのものを感じるが、紀本や蓑部にはそれがない。静かな分だけ逆に悪意を感じる。悪にまみれた大人の芝居も登場したところで、ドラマはクライマックスへ――。

ナイロン100℃のみのすけ、段田と同じ元・劇団夢の遊民社の浅野和之がゲストで登場し、巧いけれどもパターン化しかけたレギュラー陣のベタな空気に軽みあるアクセントを加えていた。芝居の多様性的には「ロスジェネ編」よりも豊かになっている。
(木俣冬)

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番組情報

日曜劇場『半沢直樹』
毎週日曜よる9:00〜9:54

番組サイト:https://www.tbs.co.jp/hanzawa_naoki/
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