『半沢直樹』恩返しだ!「黒崎に股間をつかまれる役者はカップを仕込んでいる」など裏話満載だった生放送
イラスト/ゆいざえもん

わざわざ撮り下ろしのミニドラマふうで始まった『半沢直樹』生放送

ドラマじゃないのに、視聴率は22.2%。生放送特番『半沢直樹の恩返し』は凄かった。

9月6日(日)よる9時。

黒い画面に9月6日の日付が浮かび――
半沢直樹(堺雅人)の睨み顔が現れる。

場所はたぶん、東京中央銀行・頭取の部屋。そこになぜか黒崎(片岡愛之助)がいて、「どうしてこういうことになったの?」とネチッと問いただすと、「金融庁検査でもないのに」と半沢は不服そう。

だが「顧客第一」と言われると仕方ない。
「今日の放送を見送らざるをえませんでした」と苦渋の報告。

その埋め合わせをどうするか。
黒崎「生放送」
半沢「そうか、その手があったか!」
「え?」とあわてる渡真利(及川光博)の股間に手をのばす黒崎を、半沢が止める!

「これは恩返しなんだ」

「いよぉ〜〜」ポン!
黒崎による歌舞伎の掛け声と見得と鼓の音が小気味よく決まる。

……いったい何がはじまったのか。

日曜劇場『半沢直樹』(毎週日曜 よる9時〜 TBS系)第8話が、コロナ禍によって制作が間に合わなかったための生放送特番『半沢直樹の恩返し』。
冒頭はわざわざ撮り下ろしのミニドラマふう。

俳優のテンションとか照明の当て方とかカメラワークとかがドラマまんまで、本編にセリフだけアテレコしているの? と一瞬思ってしまうほどの出来だった。

「あれを撮ってる時間があるんだったら本編撮ったほうがいいんじゃないか」とアンジャッシュの児嶋一哉(国土交通大臣・白井の議員秘書・笠松役)のツッコミは正論過ぎる。


そして改めて、消毒・除菌を行いながら、ソーシャルディスタンスを守りながら、このクオリティーで撮影を続けていたら、遅れがちになるのも無理ないなあと思った。

なぜなら、そのあとの緑山スタジオの東京中央銀行のセットにトークショーふうに並んだ、前列:堺雅人、及川光博、香川照之(大和田役)、後列:片岡愛之助、児嶋一哉の、照明にまったく凝っていない顔と、いつものドラマの影がついた顔じゃあ全然違っていたから。

香川がどんなに今日は「僕は大和田暁だ!」ときりっとした顔をつくっても違うのである。堺雅人は半沢で行こうとはまったく思ってなさそうで、もっちりした肌で翁面みたいなニコニコ顔。

普段はこれだけふわっとした顔なのに、よくぞ、芝居ではあんな鬼面みたいな形相になるなあとそのギャップに感心するばかりであった。演技の力ももちろんだが、照明の力も大きい。メイクもか?

スタジオには豪華出演者、撮影裏話で大盛り上がり

ここからは、TBS安住紳一郎アナを司会に、ヒロミと久本雅美を交えたトークショー。ドラマの裏話を披露してくれた。これはこれで当事者たちのビビッドな話で、聞き応え満点。

2020年版になっておもしろ度がアップしているのは、チーフディレクターの福澤克雄監督の指示らしいという話に、安住アナがわざわざ「TBS 役員待遇」とまで紹介する。

テストをしない。というか、テストから本番のように撮影していく。その中で、俳優がその場で沸いてきた感情を膨らませたことで、動きやセリフが生まれていく。
そこでできたのが、七文字の「お〜ね〜が〜い〜し〜ま〜す」(7話)

香川が台本以上にもっと何か皮肉を言いたいと監督に相談したことが発端。「人にものを頼むための大事な七文字」と大和田が言うと、半沢は指を3本折って何か考えると、「小学生か」と大和田。このすぐに七文字にいかない間がいい。このとき堺は「たのむ」と思っていて(「とまり」案も)、監督は「どげざ」と思っていたとか。

香川はいつももっと何かしたいと思うようで、それが2話の「おしまいDeath!」を生んだ。

ここは、2013年版のラスト、大和田が半沢に屈辱の土下座をさせられて以来、初めて対面する場面。あのとき大和田のなかで「何かの細胞が壊れているんです」と考えた香川。壊れた人間を表現するには、あそこまで行くしかなかったらしい。

その結果、堺が「カット」がかかるまで必死に顔を作って耐えて、しかしなかなかカットがかからず、ようやくかかった途端に笑ってしまい、Deathの動きのマネもしてみる、本編にはない部分が公開された。必死にこらえる堺の表情がドラマ以上にドラマ。

いろいろ提案する香川だが、提案する「頃合いを考えている」と言う。
「おしまいDeath」も1回目からいくのはちょっと……と思って、3回目の「寄り合戦になってから」「浴びせたい」と思ったと香川。「浴びました」と堺。

香川は自分だけが目立とうとしているわけでは決してなく、台本に書かれたことを丁寧に分析すると、そこまでやらないと表現しきれないだけなんだと思う。こうして堺にアタックをかけることで堺もそれに応えて何か出してくるし、いい表情が出てくる。

香川も堺も演劇の稽古場でアイデアを出し合って作り上げていく時間を知っている俳優だから、そういうことが当たり前にやれるのだ。『半沢直樹』の良さは、そういう俳優がたくさん出ていることだ。「うまい人がたくさん」と堺も嬉しそうであった。

7話の歌舞伎の繰り上げ「さあささあさあ」で「一千万です」とけろっという曾根崎役の佃典彦も知るヒトぞ知るうまい俳優(にして劇作家)のひとりだ。

「さあさあ」場面の裏話では、香川は「繰り上げ」とは何かという解説を愛之助にふったり、堺が歌舞伎をよくわかっていて、堺がいたから生まれたものだと主役に花を持たせたり。

「口数を少なくしている」と最初に言っていたわりには結果的に香川がいっぱいしゃべっていて目立っているのだが、さりげに気遣うので香川ばっかり前に出て……という感じに絶対ならない。香川が銀行員だったら絶対出世していると思う。

『半沢直樹』恩返しだ!「黒崎に股間をつかまれる役者はカップを仕込んでいる」など裏話満載だった生放送
第8話は9月13日放送。画像は番組サイトより

4話では、香川の従兄弟・市川猿之助(伊佐山役)と個室で酒を酌み交わしながら、歌舞伎調に、ふふ、ふふ、ふふふ……悪巧みして笑うという(時代劇の「お主もワルよのう」的なもの)、長過ぎてカットされた場面も公開された。
DVDには入れると恐縮する福澤監督。

これだけ歌舞伎ネタを語るのなら、冒頭の愛之助の「いよ〜ポン!」も解説してほしかったが、渡真利のスパイシーン特集、黒崎と半沢の接近シーン特集、黒崎の股間つかみにはカップが仕込まれている話、児嶋の芝居が巧いという話など、盛りだくさんで、本当は視聴者の質問コーナーも用意されていたらしいのだが、かろうじて「自分の役以外にやりたい役柄は?」という質問だけで終了してしまった。

ドラマじゃないのに、視聴率は、22.2%。TBSは昔むかし、伊東四朗、郷ひろみ、樹木希林などが出演した『ムー一族』(78〜79年)という番組で、ドラマと歌とトークを混ぜ混ぜにして、たまに生放送ドラマまで盛り込んでいた、凄まじい作品を作っていた(この間までBS12で再放送していた)。スタッフもキャストも強靭な『半沢直樹』で、それをやるのもいいのではないか。

ちなみに、9月4日の『ぴったんこカン・カン』でやった『半沢直樹』の出演者によるロケ地紹介も面白かったデス。
(木俣冬)

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番組情報

日曜劇場『半沢直樹』
毎週日曜よる9:00〜9:54

番組サイト:https://www.tbs.co.jp/hanzawa_naoki/ 
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