『半沢直樹』堺雅人(半沢)と対立する筒井道隆(乃原) 似ているようでまるで違う俳優としての道のり
イラスト/ゆいざえもん

悪役で『半沢直樹』出演に驚きの声があがった筒井道隆

日曜劇場『半沢直樹』(毎週日曜 よる9時〜 TBS系)の後半戦は、帝国航空再建編。業績が悪化した国内最大手の航空会社を立て直すため、国土交通大臣・白井(江口のりこ)が銀行に7割の債権放棄を提案。それを受け入れたら、東京中央銀行は500億円もの債権を手放すことになる。
700億円の債権を回収するために帝国航空を立て直そうとする半沢直樹(堺雅人)。そこに立ちふさがるのは、タスクフォースチームのリーダー、弁護士・乃原正太(筒井道隆)である。

筒井道隆に悪役のイメージを持つ者は多くないであろう。爽やかで感じのいい人という印象が強い彼に、乃原役は意外だった。池井戸潤の原作『銀翼のイカロス』を読むと、「肥満体で黒縁眼鏡」「小さな目」「鋭い視線」「大阪出身」「幼い頃に父親が事業に失敗」「苦労人」とある。原作とかけ離れている乃原をどう演じるかと注視すると、筒井の悪人演技はなかなか印象的だった。


これまで『半沢直樹』では、香川照之市川猿之助などのように、いかにも悪役然とした演技で強力に押してくる者か、あるいは、池田成志山崎銀之丞などのようにコミカルな小悪党の演技をする者が大集合していた。それが、今回、一見穏やかそうに見え、言葉を発しても大声を出さず、静かにアプローチしてくる筒井が新鮮に映った。

乃原は冷たい目で半沢を見ながら、彼のことを一切否定し、テーブルを蹴って脅す。そこにゾクリとくるし、堺雅人の芝居も、香川や猿之助と対峙しているときとは少しばかり演技が違って見える。俳優は相手の芝居に反応し、お互いが影響し合って、豊かなものになっていくものである。だからこそ、筒井道隆 対 堺雅人 なかなかおもしろいのである。


お世話要らずの堺、お世話したくなる筒井

筒井道隆は1971年生まれで、堺雅人は73年生まれ。2歳違いのふたりのこれまでの俳優としての道のりは、似ているようでまるで違う。

ふたりが俳優活動をはじめたのは90年代。堺は92年、早稲田大学の演劇研究会から派生した劇団・東京オレンジを仲間と旗揚げし、看板俳優として活躍、小劇場界のプリンスキャラで注目されていた。当時、「タイガーショットです!」と言ってものすごい勢いで、しかも明晰に台詞を語るのは半沢直樹や『リーガルハイ』の古美門研介の前身であろうと勝手に思っている。

筒井道隆は90年にデビュー後、93年、青春恋愛ドラマ『あすなろ白書』で大ブレイクしていた。どちらも二十歳前後、ジャンルは違えど、キラキラ男子として注目を浴びていたのである(たぶん、どちらもそういう売りを自ら心がけていたわけではないと思うが)。
堺は演劇を中心に映画などに出て、知る人ぞ知る魅力的な俳優として活動し、メジャーな映像作品で注目されるのはもっと後。

筒井道隆は『あすなろ』以降、テレビドラマに引っ張りだこ。三谷幸喜のドラマの常連として『王様のレストラン』(95年)や『総理と呼ばないで』(97年)、堺も出ていた大河ドラマ『新選組!』(2004年)などにも出演。三谷作品だと、実直な青年の役が多く、観る者にいつも安心感を与えてくれていた。

日曜劇場にも93年に出演。そのことについてこんなことを語っている。


「僕の人生で自慢の一つでもあるのですが、TBSの日曜劇場枠(※当時は東芝日曜劇場)の単発ドラマとしての最後の年の作品「除雪車より愛をこめて」(1993年放送)と、同じ年に連続ドラマ枠になった第1作目の作品「丘の上の向日葵」(山田太一原作・脚本)に出演させていただいいています」
――2019年5月27日掲載 MANTAN WEB


どちらかといえば、堺には、ニコニコした笑顔の裏に善悪併せ持った鋭さを隠している役が多いとすると、筒井は見た目も中身も穏やかで純朴そうな役が多かった。ただし『あすなろ白書』は優柔不断ゆえ、ヒロイン(石田ひかり)を振り回すことになる役。どこか構いたくなる甘さが女性をひきつけてやまない、そんな感じ。

朝ドラ『私の青空』(00年)では、ヒロイン(田畑智子)と結婚目前にして彼女よりもボクシングの道を選んでしまうという役柄。三谷作品では真面目キャラだが、恋愛ものだと常にヒロインをやきもきさせる役割を果たしてきた。

堺はお世話要らず、筒井はお世話したくなる役柄が似合う。
それが今回は、堺はお世話要らずのままだが、筒井は、苦労しながら自立し、腹に一物ある人物に見えることが興味深い(今後どうなるかはわからないが)。

マイペースに飄々と存在し続ける筒井道隆

もうひとつ興味深い点は、この20年、筒井道隆はじつにマイペースに活動しているように見えること。無理してイメージと違う役に挑むというアピールをすることもなく、プライムタイムのドラマの主役からは距離ができてもとくにマイナスなイメージにもならず、筒井道隆として飄々と存在しているように感じられる。ガツガツして見えないことがそれこそ“筒井道隆”という気がしてしまう(あくまで勝手なイメージです)。

だからこそ、ファンの入れ替えが激しくなく、ファン離れが少ない。昨年の『集団左遷』で16年ぶりに日曜劇場に出演し、今回、『半沢直樹』で悪役として出演と発表されると、たちまち注目される。稀有な俳優だと思う。


極論を言うと、二十代からずっとメジャー作品の中心に立っていた筒井と、一部で注目されながら、メジャシーンにたどり突くまでにはあちこち旅をしていたような堺。この差が、叩き上げとはいえ現時点で弁護士としてかなりの地位にある乃原と、出向させられながらも東京中央銀行に返り咲き、帝国航空という重責案件を引き受けた半沢との差かと思って見るとまたおもしろいような気がする。

だからこそ乃原は大和田や伊佐山のように噛みつかない。気張らず、自然に半沢直樹に冷たく当たる。余裕があって、手のうちが見えないところが怖い。

彼がどんなふうに半沢とやり合うのか。半沢が勝つに決まっているのだろうけれど、そのとき乃原がどんな顔をするのか、いまから待ち遠しい。
(木俣冬)

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※『半沢直樹』本日放送第7話のレビューは明日掲載します。掲載しましたら、ツイッターでお知らせします

番組情報

日曜劇場『半沢直樹』
毎週日曜よる9:00〜9:54

番組サイト:https://www.tbs.co.jp/hanzawa_naoki/