いよいよ次回最終回『半沢直樹』9話
「銀行の正義を信じる全ての銀行員のために そしてこの国の正義を信じる全ての国民のために あなたの悪事はきっちりと暴かせていだたきます」最終回目前の日曜劇場『半沢直樹』(毎週日曜 よる9時〜 TBS系)第9話(9月20日放送)は15分拡大。これまで行っていなかった過去回の配信もParaviで有料配信、TVer、TBS FREEでは1週間限定で無料配信を開始。さらなる盛り上がりを作ろうと鼻息が荒い。
帝国航空の債権放棄を拒否した半沢(堺雅人)はやり過ぎがたたって自宅謹慎中ながら、黒崎(片岡愛之助)の愛ある情報を聞いて、伊勢志摩ステートを探る。森山(賀来賢人)も一緒。
森山「こんなときくらい恩返しさせてください」
半沢「だめだ」
という会話のあと、ふたりは伊勢志摩にいるという流れ。
半沢は人脈豊富。東京中央銀行伊勢志摩支店の副店長・深尾(小松和重)は同期で情報がすぐわかる。伊勢志摩ステートの社長は蓑部幹事長(柄本明)の妻の甥だったり、タスクフォースの乃原(筒井道隆)もこの地域に関わっていたり。伊勢志摩ステートの決算報告書も見ることにも成功した。
こうして15年前、蓑部が旧Tから借りた20億円の用途がわかりそうになったところに、白井(江口のりこ)の秘書から蓑部の秘書になった笠松(児嶋一哉)がやってくる。部屋で何かやっていると敵がやってきて、危うく邪魔されそうになるところをギリギリ逃げおおせるという“いつもの”パターン(もう何度目)を経て、半沢は、どうやら20億円は伊勢志摩空港建設に使用されたことを突き止めた。
『半沢直樹』は“いつもの”が多い。名セリフ「倍返しだ」をはじめとして、いくつかのパターンの繰り返しが視聴者に安心を与えているとも言えるだろう。
いつものといえば、渡真利(及川光博)もそう。
渡真利は半沢こそリーダーになるべきと信頼している。なにしろ、銀行も企業も政治のトップもみんな不正をしている。蓑部も伊勢志摩ステートも「腐った錬金術」によって不正に儲けたことが明るみになれば、ある程度知っていてお金を貸した銀行の世間の批判を免れない。半沢は自分が勤務する銀行を窮地に追い込んでも、不正を暴こうと闘い続ける。
だが敵もさるもの、何者かが事前に資料を持ち出すなど、追いかけっこが止まらない。半沢、渡真利、富岡(浅野和之)、タブレット福山(山田純大)、田島(入江甚儀)が集まって発掘した資料の検討。書かれた文字の筆跡者を探る作戦を実行し、国税に異動した黒崎まで協力して、法人部の「とっつぁん坊や」こと灰谷(みのすけ)を追い詰め、紀本(段田安則)の悪事を暴く。
不正を隠すために、牧野(山本亨)を自殺に追い込んだ紀本たちを半沢は許さない。「もはや人として失格だ!」と激しくなじる。
黒崎も“いつもの”化し、「助太刀するわよ黒崎が♪」と桃太郎の節で決め顔する。
この一連の大作戦によって、智美(井川遥)と富岡の秘密も判明。敵と味方が入り混じり、入れ替わっていく。その複雑な人間関係の渦のなかを、半沢だけがまっすぐ真実を求めて突き進んでいく。
地下4階、地下5階とどこまでも深く作られる隠し部屋に降りていく半沢はまるで、巨大な建物を上へ下へと主人公(ヒーロー)が秘密を暴きながら敵を倒しながら駆け上がったり駆け下りたりしていく映画の主人公のようである。
最後まで真意がわからないのが、大和田(香川照之)と中野渡頭取(北大路欣也)である。大和田はほぼほぼ半沢が好きだとわかっているが、保身で変わり身が早いので、好きながらも裏切ることもある。中野渡はすべてを俯瞰したできた人に見えるのだが……。
絶対正義を貫く半沢に、物語としての現代への最期の抵抗をみる
ついに半沢は城のてっぺんにいるラスボスのところまで来たような雰囲気で、大和田と中野渡と蓑部の密会場所に駆けつける。「政治家と銀行が手を組んだ犯罪です」とすべてを明るみにすべきと訴えるが、中野渡は半沢に「帝国航空の担当を外れてもらう。従わなければ“出向”」と言い渡す。蓑部は「この日本には相手に思いを伝えるために古来から引き継がれたすばらしい礼法がある」と「土下座」を半沢に強要。あくまでおだやかで丁寧な言い方で正当性を語りながら、結局、土下座。そして最後は、蓑部も「こわっぱ」と凄い形相で怒鳴りつける。
ここからが9話のハイライト。大和田は涙目になりながら、半沢に土下座させようと、「土下座」「土下座」と言いながら、最後は馬乗りになって全体重をかける。それを半沢は猛然と跳ね除ける。ものすごい距離に吹き飛ばされる大和田。
大和田に強要されて「お願いします」と言ったときも半沢は頭を下げずに逆に上げた。絶対、権威や暴力に屈しない。信念に胸を張る。
「己に厳しく謙虚に、自分達でなく世間の利益となることを最優先にと心がけ真摯に励んできたんです」
「あなたのしたことは懸命に働く全銀行員への裏切りに他ならない。到底許すことなどできません!」
「あなたはもはや政治家ですらない。欲にまみれたただの醜い老いぼれだ!」
「政治家とは国民それぞれが自分の信じる理念のもとにこの国をよりよくするように選んだ存在です。あなた(蓑部)の本当の役割は国民の奉仕のはずだ(後略)」
等々、それでも表情を変えない中野渡や、濁った目をした蓑部に、半沢は弾丸のように言葉を撃ち続ける。あくまでフィクションながら、実際にもありそうな不正に、実在の人物のイメージを重ねて見るのも一興である。
半沢のこの声は、酷い目に遭ってあえいでいる者たちの叫びである。傷つけられて、存在を消されて、それでも声を出せない人たちの代弁である。現代社会に広がる「パワハラ」の取り締まりは、本来出すべき大きな声までなくしかねない。回を増すごとに激しくなる半沢の怒声は、そんな現代に対する、物語としての、最期の抵抗のようにも感じる。
それを聞いて泣いている大和田は、世の中の正義と悪の間で揺れている者たちの代表のようでもある。半沢みたいに絶対正義を貫ける人間は多くはいない。
とはいえ大和田は蓑部と中野渡に与(くみ)している。だから半沢は言い放つ。
「3人まとめて1000倍返しだ!」
次回、最終回。
(木俣冬)
※次回最終回のレビューを更新しましたら、ツイッターでお知らせします。
お見逃しのないよう、ぜひフォローしてくださいね。
【エキレビ!】https://twitter.com/Excite_Review
【エキサイトニュース】https://twitter.com/ExciteJapan
番組情報
日曜劇場『半沢直樹』毎週日曜よる9:00〜9:54
番組サイト:https://www.tbs.co.jp/hanzawa_naoki/