
日曜ドラマ「半沢直樹」が昨日最終回を迎えた。番組視聴率は30%越え、有終の美を飾った。
ドラマ「半沢直樹」には、金融用語が多く出てくる。以下のインタビューでは、そんな金融用語を現役の銀行員の方に解説してもらう。
前編(※関連記事参照)では、某メガバンクに勤務する現役の銀行員・Aさん(仮名)にドラマの5話までの内容を解説してもらったが、後編ではドラマの後半部分ともなる帝国航空編(原作は池井戸潤『銀翼のイカロス』)を解説してもらう。
帝国航空編での半沢はかなり優秀
――ドラマ後編の「帝国航空」編は、半沢が出向先の証券会社から銀行に戻ってくるところからスタートしますが、その前に「そもそも銀行とは何なのか」をお聞きしたいです。
銀行って、3大業務といわれているものがあるんです。『預金・貸出・為替』という業務ですね。
「預金」はご存知の通り、お金をお預かりする仕事です。「貸出」は預金をもとにして貸出をする仕事です。「為替」は振込とか送金のように、お金を移動させる仕事ですね。

この3つがおおまかな銀行の業務になります。簡単にいうと、資金を世の中に回すのが銀行の仕事です。
――わかりやすいです! 半沢が今やっている「営業」という仕事はどういうものなのでしょうか?
営業は、最前線でお客さん(貸出先)に「何にお困りでしょうか?」とか「これからどうしたいですか?」というニーズを聞いて、銀行の機能を使ってそれを解決するのが仕事ですね。
営業は実はあまり仕事に制限がなくて「これはやったらダメですよ」とか「これしかできませんよ」ということはないんです。
「お客さんのためになるならなんでもやっていい」というのが銀行の営業の仕事ですね。
――半沢も、経営が傾いている帝国航空にかなり踏み込んで提案やアドバイスを行っていますよね。
そうですね。聞き入れるかはお客さん次第ですが、提案はどんどんやっていいですよ。
――「リストラをしてください、その代わり彼らの転職先も見つけましょう」みたいな提案もしているんですが、これも営業の仕事でしょうか?
あれは「そこまでする営業がいたらめちゃくちゃ優秀だな」という感じですね。
リストラをして経営を立て直す、というのは比較的やりやすい方法なんです。もちろん簡単にできるわけじゃないですけど(他の方法に比べると)簡単なんです。
でも、ドラマでは帝国航空がリストラをしたくなくてなかなか経営を立て直せない。それに対して「リストラする人の転職先を探しましょう」というのは建設的だし、すごくいい提案だと思います。
――ドラマ前半で「半沢の倍返しはだいたい犯罪」という話があったので(※前編参照)半沢へのポジティブな評価が聞けて嬉しいです。
現実の「帝国航空」はドラマよりも厳しかった?
――もともとは、帝国航空の経営が難しくなり、政府から「銀行から帝国航空に貸した500億円をなかったことにしろ」と言われるところから話が始まります。
これはけっこう社内でも話題になったんですけど……(笑)。
この「帝国航空」編にはモデルになっている実際の事件があるんですけど、モデルに比べるとめちゃくちゃスケールが小さい話になっているんですよね。

――現実の方が大変なことになっていたんですね。
500億円が小さいとは思わないですけど、現実よりいい状況ですよね(笑)。
――こういう債権放棄(貸したお金を取り返さない)ってかなり珍しいことなんでしょうか?
かなり特殊な例ですね。ただ、貸したお金を(お金ではなく何か価値のある)資本に変えてもらって、取り返さずに終わるということはあります。
「事業はちゃんとしているのに、昔銀行から借りたお金のせいで会社が存続できない」というときにやる方法ですね。
債権放棄って、基本的に銀行はめちゃくちゃイヤなんですね。だから、債権放棄までして残さなきゃいけない会社なのかをすごく考えます。
帝国航空も「空輸は必要で、潰すわけにはいかない」と考えたから選択肢に出てきたんでしょうね。
――債権放棄を迫られた他の銀行が、「主力銀行、准主力銀行(半沢たち)に準ずるのが金融の不文律だ」と答えて政府に反発するシーンがあるんですが、あれはどういうことなんでしょうか?
まず、「主力銀行、准主力銀行に準ずるのが金融の不文律か?」と言われると必ずしもそうではないですね……(笑)。
あれがどういうことかいうと、基本的に主力銀行とそうでない銀行って、情報の格差があるんです。たとえば半沢だって帝国航空に何度も通っていろんな情報を持っているので「彼らは自力で再建できる!」と考えているわけじゃないですか。
生々しいのが、半沢は「帝国航空の社員は仕事に誇りを持っている」と考えているんですけど、あれは社員の雰囲気をふまえてそう考えていると思うんです。それってやっぱりその会社に実際行ってないとわからないことですし、彼らにがっつり踏み込んでいるから得られた情報だと思うんですよね。
だから、半沢ほどしっかり踏み込んでいない銀行が、半沢たち准主力銀行の考えを聞いて自分たちがどうするか判断する、というのは全然ありえることだと思います。
金融庁監査や業務改善命令はどれくらい大変なことなのか
――ドラマの後編では片岡愛之助演じる、黒崎駿一による金融庁監査が再び入りますが、金融庁監査とは実際どういうものなんでしょうか?
どういうときに検査されるかというと、経営が傾いているA社に1000億円貸していて、A社が明らかにそれを返せなさそうな場合、「1000億円を損した」と処理してくださいということですね。

でも、ここで「いやA社は返せます」ということをきちんと説明できれば、銀行は損したことにならずにすみます。逆に「確かにA社は返せません」となると、1000億円を損したことになって、一気に銀行の経営が悪くなったりするんです。
だから、金融庁は「どうしてA社に貸し出したのか?」「どうしてA社からお金を返してもらえると思うのか?」といったことを聞いてきて、それに対して「A社は今は赤字ですが、このプランでは何年か後に必ず黒字になるんですよ」と答えたりします。で、そのプランが実現できなさそうだと思われると「損した」と決算処理をする必要があります。
――では実際に黒崎のような役割の人が銀行に来て、検査をしたりするんですか?
昔は実際そうでした。銀行に金融庁の人がずっといて、リストで貸出先を調べたり、銀行員がそこに行って説明したりしていましたね。
――黒崎検査官は今はもういないんですね。それから、金融庁監査で不正が発覚して「業務改善命令」を受けるんですけど、あれは一大事なんでしょうか?
これはもうめちゃくちゃ大変ですね。
――やっぱりそうなんですね!
何が起きたかというと、金融庁の検査って銀行に健全な経営をさせるためにチェックをする、というものなんです。
半沢たちの銀行は、それを邪魔するようなウソの報告をしていたので「検査忌避」と呼ばれるものにひっかかってきたんですね。酷いときは実際に営業停止などの処分も食らってしまうので、銀行にとっては一大事です。
――それから、省庁に情報を漏らして検査をさせたり、政府とつるんで銀行を追い込んだり、半沢の世界ってとにかく銀行を裏切る人間が多いんですけど、これは現役の銀行員としてはどう思ってらっしゃいますか?
昔ほどではないですが、銀行の中でも、政府と接点のある業務はあるんですね。
だから、そういう業務に携わった人は、政府関係の人とコミュニケーションが取れてもおかしくないと思います。ただ、そこに働きかけて銀行に不利なことをする人がいるとは思わないです。(笑)
――それが聞けて安心しました(笑)。
ははは(笑)。実際、ドラマの1期が放送されていた頃は、銀行に入ろうとすると「あんなところで働くのはやめろ!」と親御さんに止められたという話があったんです。でも、あんなに社内で揉めたりすることはないと思ってほしいですね(笑)。

――よかったです! 最後に、銀行員として、実際こういうところが面白いとか、やりがいを感じる部分を聞きたいです。
やっぱり、いろんな業種の人と接点を持てるのは、僕はすごく面白いところだと思います。
ビジネスの話をできるのは本当に銀行員としてやりがいのある部分だと思いますよ。
――普段あまり知らない銀行のお仕事の話が聞けてよかったです。本日はありがとうございました!
■まいしろ
社会の荒波から逃げ回ってる意識低めのエンタメ系マーケターです。音楽の分析記事・エンタメ業界のことをよく書きます。
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