佐藤順一監督に聞く話題作『魔女見習いをさがして』「キャラクターが脚本に書いてないことをしゃべり出す」
映画『魔女見習いをさがして』の主人公、長瀬ソラ、川谷レイカ、吉月ミレ(左から順)。住んでいる場所も年齢も性格もバラバラな3人は、『おジャ魔女どれみ』が好きという共通点をきっかけに知り合い、親友になった

佐藤監督が『魔女見習いをさがして』 のクライマックスに込めた思い

11月13日(金)から絶賛上映中のおジャ魔女どれみ20周年記念作品『魔女見習いをさがして』佐藤順一監督鎌谷悠監督と共同)のロングインタビュー後編では、エンディングまでの物語の内容に深く触れながら、ちょっと不思議で感動的なクライマックスに込めた思いにも迫っていく。

【インタビュー前編】『魔女見習いをさがして』 佐藤順一監督「作品から大事なものを得た経験がある人には届く映画」

本編を未見で、ネタバレが苦手な人は、映画館で『おジャ魔女どれみ』が大好きな3人の主人公たちの物語を楽しんだ後、改めて、このインタビューを読んでほしい。


「タキシード仮面は、いらないんだ!?」という驚きがあった

──本読み(シナリオ会議)には、鎌谷監督も参加されていたのですか?

佐藤 他の作品もあったので、鎌谷さんがこの現場に入れるようになったのは、シナリオが一旦、決定稿になった後くらいでした。その段階までシナリオ作りに関わっていたのは、僕とか、プロデューサーの関(弘美)さんとか、脚本の山田隆司(本作での名義は「栗山緑」)さんで、もう若さから相当遠い世代の人間が記憶の彼方にある若い頃を思い出しながら作っていたんで、本当にこれでいいのかなという感覚も少しあったんです(笑)。

だから、鎌谷さんに入ってもらった時、まずはシナリオを見てもらって気になるところを挙げてもらったのですが、それが鎌谷さんに入ってもらえてよかったと思った最初のポイントでした。例えば、ミレの後輩の矢部隼人(CV:石田 彰)という男性キャラがいるんですけれど。鎌谷さんに見てもらう前と後では、けっこうキャラクターが変わっているんですよ。

──どのような理由で、どのようなところが変わったのですか?

佐藤 男社会のオフィスの中で辛く悔しい思いをしている女の子がいる時、その隣に王子様のように救ってくれる男性がいたら、見ている女の子たちは嬉しいに違いない、というのが僕や山田さんの感覚なんです。でも、鎌谷さんは「そんな状況の時、露払いしてくれるカッコいい男性がそばにいる女の子のことを観客は好きになれない」って真逆の指摘をしてくれたんですよ。


──現実は、そんなに甘くないんだよ、と(笑)。

佐藤 そうそう。「そんな上手い具合に、近くにヒーローがいるような女の子には共感できません」みたいなことを教えてくれて。「なるほど、その視点はなかった!」という感じだったんです(笑)。それで「ミレのような状況であれば、弟分みたいな子がいるのはいいかもしれない」と言われて、また「なるほど!」と(笑)。そういったアスペクト(角度)の全然違う意見をもらって、考え方が変わるっていうことはけっこうあるんですよね。


──まさに、目から鱗が落ちたという感じですね。

佐藤 ええ。「(『美少女戦士セーラームーン』の)タキシード仮面は、いらないんだ!?」という驚きがありました(笑)。

ある程度シビアな問題だったとしても逃げないで描いていく

──本作に関して、制作の初期から最後まで「これだけはぶれないように」などと考えていたテーマなどはあったのでしょうか?

佐藤 テーマ自体は作りながら見えてくることも多いので、あまり最初にガツンと決めたりはしないんです。ただ、一つあったのは、『どれみ』は昔からそうなんですけれど、現実に小学生が直面する問題があるのだとしたら、それがある程度シビアな問題だったとしても逃げないで描いていこうと。これは山田さんの意志でもあるので、僕だけの考えではないんですけれど、そういうことをちゃんと描いていきたいよね、ということは常にあったんです。

それに加えて関プロデューサーからは、そういった問題を描く時、都合よく解決しないでほしいということも言われていました。
そのお話と同じ状況に置かれている子が観ているかもしれないのだから、そういう子が観た時に「そんな馬鹿な。しょせんはアニメだね」と思われるようなことはしたくない。ちゃんと「あ、自分たちと同じ子がいるんだな」と思えるくらいにはリアリティを踏まえてほしいと。

そういったところは今回も変わりません。現実の社会の中、いろいろな形で揉まれている3人の女の子を描いているんですけれど、「アニメの都合もあるので、ここは上手いこといきました!」みたいなお話にしない。たとえ、辛い決着になったとしても、辛いものは辛いまま描く。
ただ、それは乗り越えていけるんだよ、みたいな描き方にしようということはずっと思っていました。

佐藤順一監督に聞く話題作『魔女見習いをさがして』「キャラクターが脚本に書いてないことをしゃべり出す」
海外暮らしが長く、思ったことをストレートに口にしてしまいがちなミレは、会社の上司や同僚とも折り合いが悪い。また、その性格も一因となり、レイカと初めての喧嘩をしてしまうことに……

──3人のヒロインに関しては、抱えている悩みがリアルな分、より繊細な描き方が必要だったのではないかと思うのですが。こういう風に見えないようにしたいなどと意識していたことはありますか?

佐藤 やっぱり、観てくれる人たちに嫌われないようにしたいとは思っていて。例えば、基本的にデキる女の人って嫌われやすいんですよ。でも、デキる女でも、ダメなところもあればちょっとかわいく思えてくる。だから、ミレに関しては、デキる女だけれど、ちゃんとダメなところをダメなように描くということは大事だったと思います。


そういうところは、鎌谷さんも非常にこだわって、いい感じのリアリティを与えてくれていました。辞表を出した後、部屋でぐてっとしてる感じとか、部屋が散らかっている感じとかは、いい感じのダメさが描かれていると思います(笑)。

あとは、シビアな問題を扱うからこそ、観終わった後、辛い気持ちになるような描き方はしない。『どれみ』もそうだったんですけれど、そういうネタを扱いながらも、観終わってから鬱々としないのは、きちんと笑いの成分もあったり、どれみのダメなところとかをコミカルに描いたりしていたからなんですよね。それがあるから、重めな物語を描いたとしても、ちゃんと『どれみ』の世界観の中で消化できるものになっていたんです。そういうところは、今回も変わりません。


ソラが最終回のどれみのことを勝手に喋りはじめた

──最初に本作のあらすじを読んで、『どれみ』を大好きだった女の子3人が主人公の物語であるということを知った時から、「この作品の世界観の中では、どれみたち魔女見習いは本当にいないのか? 魔法は存在しないのか?」ということが気になっていました。物語の方向性が決まった時から、現実に即したリアルな世界観の作品ということも固まっていたのでしょうか?

佐藤 そうですね。例えば、どれみたちが成長して大人になり、みんなと同じ世界を生きているよというプロットにした場合には、テレビシリーズの最終回で「もう魔法はなくてもやっていけるよね」と決めたはずのどれみたちが魔法を使わざるを得ない展開になっていくと思うんです。

『どれみ』を好きだった子たちがそういう話を観た時、どれくらい受け入れてもらえるのかなということも、最初に迷っていた大きな理由でした。だから、今のプロットになった時点から、ソラたち3人がどれみたちと同じように「魔法はないけれど、私たちこれからも笑顔でやっていけるよね」と思えるようになっていく映画になるのかな、と考えながら作っていきました。

佐藤順一監督に聞く話題作『魔女見習いをさがして』「キャラクターが脚本に書いてないことをしゃべり出す」
自分たちを知り合わせてくれた「どれみちゃん」にお礼を言いたいと、芝生の上に仰向けになり、魔法玉を掲げながら魔法の呪文を唱える3人。すると、空が輝き、小さな子供の声が。3人は願いが届いたのかと驚くが……

──本作のクライマックスでソラたち3人は、どれみたちが使っていたような魔法は存在しないけれど、自分たちも一人一人が長所や特技といった魔法を持っているのだと気づきます。この新しい魔法の解釈も、脚本の初期稿から固まっていたものだったのでしょうか?

佐藤 ソラたちの魔法については脚本には書かれていなくて。脚本の段階では、「魔法がなくても今日までやってこられた。でも、私たちには未来にやりたいことがあるから、3人で力を合わせてやっていけるよね」という着地だったんです。

ところが、コンテを描いていたら、ソラが最終回のどれみのことを勝手に喋りはじめて。「あれって、どれみちゃんがもともと持っていた魔法だったんじゃないですかね」と言ったことが、最後、ミレが子供の頃の自分たちに向かって言う「魔法はあなたたちの中にちゃんとある」というセリフに繋がっていきました。

アニメを作っていると、戦略的に「ここをこうしてこう作りました」ということではなく、自然と「この作品のテーマって、ここだったのか!」と見えてきたりすることがよくあるんです。今回もまさにそれでした。

──コンテを描く時には、脚本には書かれていない何かが出てくるはずと思いながら作業を進めているのですか?

佐藤 いえ、当然、脚本に書かれている内容を演出しているつもりなので、もともと脚本にある着地点に向かってやっているのですが、急にキャラクターたちが書かれてないことをしゃべり出しちゃうんです(笑)。そういうことは、テレビの『どれみ』の時にもありました。それって、脚本に文章としては書かれてないだけで、きっと山田さんが仕込んでいるからだと思うんですよね。なので今回も、ソラが喋りだした時には、一人で「山田さん、そういうことだったんですね!」と思っていました(笑)。

実在の友達が思いがけない行動をすることがあるように、山田さんが描き出すキャラクターは生きているんですよね。そういう時は演出としては、さからわずにキャラクターのすることに着いていくようにしているんです。

どれみたちが20年経ってもファンのみなさんの心の中に生きているように、ソラたちも観てくれた人の心で生き続けてくれたら嬉しいですね。

【インタビュー前編】『魔女見習いをさがして』 佐藤順一監督「作品から大事なものを得た経験がある人には届く映画」

作品概要

『魔女見習いをさがして』
11月13日(金)全国ロードショー

【STAFF】
原作:東堂いづみ 監督:佐藤順一 鎌谷 悠
脚本:栗山緑 音楽:奥 慶一
キャラクターデザイン・総作画監督:馬越嘉彦
作画監督:中村章子 佐藤雅将 馬場充子 石野 聡 西位輝実 浦上貴之
絵コンテ:佐藤順一 鎌谷 悠 五十嵐卓哉 谷東
製作担当:村上昌裕 編集:西山 茂
録音:川崎公敬 音響効果:石野貴久
音楽構成:水野さやか 美術監督:田尻健一
MAHO堂デザイン:行信三 ゆきゆきえ
色彩設計:辻田邦夫 撮影監督:白鳥友和
プロデューサー:関 弘美
アニメーション制作:東映アニメーション

【CAST】
森川葵 松井玲奈 百田夏菜子(ももいろクローバーZ)
千葉千恵巳 秋谷智子 松岡由貴 宍戸留美 宮原永海
石田 彰 浜野謙太 三浦翔平

公式サイト:https://www.lookingfor-magical-doremi.com/
(C)東映・東映アニメーション


Writer

丸本大輔


フリーライター&編集者。瀬戸内海の因島出身、現在は東京在住。専門ジャンルは、アニメ、漫画などで、インタビューを中心に活動。「たまゆら」「終末のイゼッタ」「銀河英雄伝説DNT」ではオフィシャルライターを担当した。にじさんじ、ホロライブを中心にVTuber(バーチャルYouTuber)の取材実績も多数。

関連サイト
@maru_working