『エール』第23週「恋のメロディ」 113回〈11月18日(水) 放送 作:吉田照幸、演出:吉田照幸、安食大輔、谷口尊洋〉

華、軽い女になる 『エール』が急に喜劇調になってきた理由<ネタバレ>
イラスト/おうか

急に喜劇調になってきた背景を考える

112回はコント仕立て、113回も「華、軽い女になる」ところを重い音楽を流し、音(二階堂ふみ)にツッコミを入れさせるなど、コント仕立て。どうした『エール』? 『あさイチ』でも、主題が変わってきたと近江アナ、大吉は「普通がいちばん」とつぶやいていた。

【前話レビュー】コント仕立てに津田健次郎の吹き替え祭り 朝ドラあるある“違うドラマがはじまったかと思った”

こうなったことを解釈すると、ドラマで描かれる戦後の新しい時代が変わったせいもあるし、裕一(窪田正孝)が、池田(北村有起哉)のエンターテイメント制作会社・東都入社をきっかけに、念願の、西洋音楽の知識をふんだんに使ったミュージカルを作ることができるようになったからでもあると考えられる。


裕一が手掛ける帝都劇場で上演されるミュージカルは、マゲモノスペクタクル『恋すれど恋すれど物語』。実際、昭和31年、帝国劇場で『恋すれど恋すれど物語』が上演されている。

筆者が、当時を知る東宝のプロデューサーに話を聞いたところ、最初、この作品を、池田のモデル菊田一夫は「ミュージカル」ではなく「喜劇」という扱いにしていたが、東宝の創業者・小林一三が「ミュージカル」に変更したそうだ。

――東宝では、昭和26年 “帝劇コミックオペラ”『モルガンお雪』を公演し、3作目から“帝劇ミュージカルス”になりましたが、昭和29年から帝劇は老朽化の為映画上映の劇場となりました。

昭和30年、小林一三大先生が菊田先生を東宝に迎えていきなり取締役に抜擢しました。東宝の演劇を全部任された菊田先生は、昭和31年から、第1回東宝ミュージカル『恋すれど恋すれど物語』(菊田一夫 脚本・演出、古関裕而 音楽)をはじめました。『泣きべそ天女』という飯沢匡さんの作品との2本立てでした。

このとき、最初の台本では“東宝喜劇『恋すれど恋すれど物語』”だったのですが、小林一三大先生によって「東宝喜劇」の「喜劇」を赤鉛筆で消されて「ミュージカル」と修正が入りました。

――菊田先生は、ゆくゆく本格ミュージカルをおやりになるつもりだったので、“ミュージカル”と名がつくことに思うところもあり「これはアチャラカです」と返したものの、小林さん大先生が「面白ければいいじゃないか」と言って「東宝ミュージカル」でいくことになったんです。

以後「東宝ミュージカル」として公演が十何回まで続きました。笑いあり、歌あり、踊りあり、それで最後にちょっと泣かせて、最後に必ず豪華なショー場面が付くもので、豪華な顔触れのスターたちばかりで観客は常にたくさん入っていました。

(ヤフーニュース個人より
https://news.yahoo.co.jp/byline/kimatafuyu/20201118-00208194/

ミュージカルと喜劇じゃ全然違うもののように思うが、広い意味で娯楽という点では同じ。
実際、初期の東宝ミュージカルは歌あり笑いありのお芝居と豪華なショーで行われていたわけで、音楽家の話『エール』がコント仕立てである理由は、ここから来ていると考えても間違いとは言えないだろう。

華、軽い女になる 『エール』が急に喜劇調になってきた理由<ネタバレ>
写真提供/NHK

ルパンレッドとの哀しい別れ

急に出てこなくなったなと思った野球少年・渉くん(ルパンレッドこと伊藤あさひ)。華と別れていた。

夢のプロ野球選手になれなかった彼に、社会人野球でもいいじゃないか、私が支える、と言う華に「重すぎる」と別れを告げて去っていく渉くん(それをそっと見守る、保と恵。まるで劇団吉田照幸の一員のような麗しい献身)。

夢やぶれて落ち込んでいる彼に、もっと頑張れみたいなことを言うのは、当人にはつらいもの。気を紛らわしてほしいのに、華にはそれがわからない。それだけ本人はつらいことに華は気づけていなかった。……恋愛あるある、ですね。

華は真面目で優しいから、と同僚の看護婦・榎木美代子(佐藤玲)は言う。慰めてもらったと思ったら、その看護婦は、結婚すると報告。

「この瞬間、華は看護婦のなかで独身最年長になりました」

というナレーション(津田健次郎)に大げさな劇伴がかかるコント仕立て。この表現は昨今のジェンダー問題に引っかかるんじゃないかという心配になるが、昔はこういうことを喜劇としていたという批評的表現であろう。
今、これを本気で面白いと思っていたら、時代の空気を無視し過ぎている。

「君たちまで重い気持ちになっちゃったらつらいよ」

入院患者・霧島アキラ(宮沢氷魚)はそんな華に、患者さんはつらい思いを抱えているのだから、「君たちまで重い気持ちになっちゃったらつらいよ」と助言する。

そんな彼は、松宮チエ(山口果林)の誕生日に「ハッピーバースデー」の歌を演奏。アキラの歌で、患者たちは楽しそう。笑いとか歌とか、そういうものが大切であることを裕一や音は知っているが、華はまだ気づいていない。これから気づいていくんだなあ。

音、株に興味を持つ

「これからは経済の時代」「母さんも株はじめようかしら」と言う音に、モデルの金子が、戦後、株取引をはじめたことが重なった。二階堂ふみの演技だったら、音がガンガン株取引する姿も面白く見せてくれそうだから、そのエピソードも描いてほしかった。残り7回で、そんなスケッチも出てくるだろうか。

さりげにテレビドラマのはじまり

池田が東都にヘッドハンティング(重役扱いで呼ばれた)されて、さっさとNHKから去ってしまい、重森正(板垣瑞生)はひとり残される。ラジオドラマの時代は終わり。でもテレビドラマの時代がはじまることが語られる。こうして、朝ドラがはじまっていくのだなあ。

ちなみに、チエさん役の山口果林は、朝ドラ『繭子ひとり』(1971年)のヒロインであり、このドラマには、『恋すれど恋すれど物語』に出演している宮城まり子も出演していた。

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Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

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@kamitonami


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華、軽い女になる 『エール』が急に喜劇調になってきた理由<ネタバレ>
写真提供/NHK

番組情報

連続テレビ小説「エール」 

【放送予定】
2020年3月30日(月)~11月28日(土)

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

原作・原案:林宏司
脚本・作:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
主演: 窪田正孝 二階堂ふみ
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」

制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和
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