『エール』最終週「エール」 116回〈11月23日(月) 放送 作・演出:吉田照幸〉

※本文にネタバレを含みます
最終週だがコント仕立て
いよいよ最終週に突入。【前話レビュー】経年と病気になった裕一を演じる窪田正孝のリアリティー
長かった。途中、コロナ禍で撮影を中断せざるを得なくなったため、放送が休止になり、本来9月で終わるものが2カ月ずれた。
そんな混乱のなか、たどりついた最終週。ところが、とくに気負いを感じさせない週はじまりだった。
華(古川琴音)をお嫁にほしいと、ロカビリー歌手の霧島アキラ(宮沢氷魚)が古山家に挨拶にやって来て、裕一(窪田正孝)、音(二階堂ふみ)、華、アキラの4人が卓をはさんで語り合う。
ここがコント仕立てで、相手の男性を否定してかかる、典型的な娘を持つ父の姿になる裕一に対して、アキラは天然キャラを全開。玄関で転ぶ、出された福島名物の玉羊羹を転がす、過去に交際した人の人数(16人)をさらけ出す、裕一を褒めたつもりが馬鹿にして聞こえるようなことを言う……等々、病院でチャラっとしていたのとは違って素朴な人柄を見せ、音や華がわたわたと反応するという展開。最初はわりあい好意的だった音も、女性関係を聞いた途端、不信感をあらわにする。
「モテることを楽しみ、遊ぶことに喜びを感じていた時期もあります」と言うアキラだったが、華を思って作った「ムーンライトセレナーデ」という自作の歌をギターで弾き語りし、裕一と音の心も解けていく。音楽が人の心を動かすところは『エール』では終始一貫している。
華はぽーっとした顔でアキラを見上げて……。せっかくのいい雰囲気ではあったが、そこにオチが――
回想をはさむ妙
鼻血を出したアキラの手当をするため、華が席を外し、二人きりになった裕一と音は、昔の自分たちをしんみり思い出す。ここから最終週にふさわしい空気になる。若くまっすぐだった裕一と華。突然、豊橋に乗り込んで、交際を申し込んだ裕一。福島から三郎(唐沢寿明)までやって来て……という、そのときもコント仕立てだった。
三郎も光子(薬師丸ひろ子)も最初は猛反対したけれど、けっきょく、光子が二人を応援しはじめる流れに。
「走り出した汽車は止まらない」「頭はだめって言っているけど、心は行けって叫ぶんです」という名言を音はずっと忘れずにいた。あの回の薬師丸ひろ子、無双であった。

アキラの収入の少ない話から、裕一も昔は音楽で食べられなかった、それを音が助けた、というような回想も早口で盛り込まれる。当時は深刻だったが、時が経てば笑って話せるもの。いや、『エール』の場合は当時から笑い話形式で進んでいたけれど。
音が『椿姫』を演じる勉強のために水商売をやっていたことも語られた。初めて聞いたと驚く華。音の話しっぷりだと、水商売をもっとすごいものと勘違いしかねないが、大丈夫なのかと心配する必要もないだろう。
やたら堅苦しい言葉が出てくる
たわいないドタバタ喜劇の体(てい)ながら、裕一の話しっぷりは真面目。むしろ別人になったかのようなボキャブラリー。「人気商売の人と結婚するということは、不安定な収入と乱れた愛憎劇に巻き込まれる可能性が高いんだよ」
「いつの間にか親になって、いつの間にか昔の自分棚に上げて。安心とか幸せって言葉を隠れ蓑に、大切な何かを見落としていたのかもしれない」
わりとのほほんとしている裕一が「不安定な収入と乱れた愛憎劇」「安心とか幸せって言葉を隠れ蓑に」などと突然、漢字がいっぱいなセリフを言うところもきっと笑いどころなのだと思う。それを真面目に語っている横顔は、上品な芸術家肌のおじさんという雰囲気。
俳優の気持ちの入れ方ももちろんのこと、茶色いニットのカーディガンがいかにも感で、セレクトのうまい衣裳スタッフさん、髪の生え際をつくるヘアメイクのスタッフさんもいい仕事をしている。
「あのときボクは賞をもらっていた」とか「環さんはきれいな人だったんだよ」とかへんな自信ややっぱりきれいな女性が好きであることが三つ子の魂百まで的であり、人間はどんなに立派な仕事をしていてもこういう浅はかなところがあるという、これぞ喜劇。吉田照幸脚本にはこういう、ニヤリと人を見ている視線に味わいがある。オリンピックをじらし続けるところにも。
【114話レビュー】リハビリという困難を共に乗り越えて近づいていく霧島と華の心
【113話レビュー】華、軽い女になる 『エール』が急に喜劇調になってきた理由
【112話レビュー】コント仕立てに津田健次郎の吹き替え祭り 朝ドラあるある“違うドラマがはじまったかと思った”
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami
■窪田正孝(古山裕一役)プロフィール・出演作品・ニュース
■二階堂ふみ(古山音役)プロフィール・出演作品・ニュース
■古川琴音(古山華役)プロフィール・出演作品・ニュース
■唐沢寿明(古山三郎役)プロフィール・出演作品・ニュース
■薬師丸ひろ子(関内光子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■宮沢氷魚(霧島アキラ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■津田健次郎(語り)プロフィール・出演作品・ニュース
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番組情報
連続テレビ小説「エール」【放送予定】
2020年3月30日(月)~11月28日(土)
<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
原作・原案:林宏司
脚本・作:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
主演: 窪田正孝 二階堂ふみ
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」
制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和