『鬼滅の刃』人気をフランスで聞く パリ漫画カフェ経営者「劇場公開されれば大きな話題になるはず」

『鬼滅の刃』人気をフランスで聞く パリ漫画カフェ経営者「劇場公開されれば大きな話題になるはず」

パリの大型書店の漫画コーナーに行ったら『Demon Slayer(デーモンスレイヤー)』というタイトルの漫画が、良く見える位置に平積みされていた。『Demon Slayer』とは『鬼滅の刃』のことだ。

日本では『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の興行収入が約288億円を突破。海を越えてここフランスでも注目度が増している。『鬼滅の刃』のコミックスがフランスで紹介され始めた2016年当初は、今ほど受けておらず、タイトルのフランス語訳も異なっていた。

ところが、2019年あたりをめどに風向きが変わった。パリ市内の漫画カフェ経営者によると、フランスでは日本のアニメ版がヒットし、漫画のタイトルもフランス語の『Les Rodeurs de la nuit(日本語訳すると「夜のごろつきたち」)』(Rodeursの「o」の表記は「o」にアクサン・シルコンフレックス)から英語版と同じ『Demon Slayer』に変更。広告も多く打たれた結果、『Demon Slayer』こと『鬼滅の刃』はフランスで人気作品に成長したという。

フランス人は同作のどこに惹かれるのか? パリでファンに聞いた。

取材・文/Keiko Sumino-Leblanc 加藤亨延


少年漫画の王道的要素と少年漫画にない影を帯びた要素


『鬼滅の刃』人気をフランスで聞く パリ漫画カフェ経営者「劇場公開されれば大きな話題になるはず」
パリ郊外ヴァンセンヌ市の市営図書館にも『鬼滅の刃』の蔵書がある

「友人からアニメを教えてもらい見たところ、すぐに夢中になりました。アニメの配信を待つのももどかしくなり、一気に漫画に没頭し読み尽くしました」

パリに住む大学院生のマキシムさん(22)は、そう答える。優しい性格のヒーローが強くなっていく少年漫画の王道的要素と、ヒーローが時に残忍さを抱くような、ほかの少年漫画にはない影を帯びた要素が混ざりあっているところに、魅力を感じている。

「鬼という敵をも癒していくところがいいですね。第1話から家族全員が殺されてしまう暗いスタートでありながらも惹きつけられたのは、とても美しく幸せになれるストーリーがあるからだと思います」(マキシムさん)

実際に『鬼滅の刃』は、どれくらい受けているのか。パリで漫画カフェを経営するベンさん(35)によると、「10歳前後から40歳前後まで幅広くファンがおり、作品自体の知名度も高い」そうだ。

パリで大学院に通うオギュスタンさん(22)も周囲での実感を語る。

「知らない人はいないと言いたいくらい、私の周囲では誰もが知っています。ただし、人気はあるがポケモンやドラゴンボールと違い、漫画やアニメに全く興味のない人は知らないかもしれません」(オギュスタンさん)

鬼滅の女性たちは強さがあり、個性があり、役割がある


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パリ市内で電化製品と本を扱う大型チェーン店「FNAC」で平積みされる『鬼滅の刃』

作品の中でも、とりわけどのストーリーが好まれるのか。今回話を聞いたファンの間では意見が分かれた。その中でも共通するのは、原作の魅力はもちろんのこと、アニメの質やアートディレクションから来る映像の美しさだ。

パリで美術大学に通うヴァティムさん(19)のお気に入りは「那田蜘蛛山編」に含まれるアニメ19話。「炭治郎と鬼との戦いシーンは、アニーメーション、音楽、全てが素晴らしく完璧」と語る。一方で、オギュスタンさんはアニメ第4話を「闘いでありながら癒しであるような、とても静かな描写が美しかった。これまで見たことがない、とてもレアな戦闘の描写でした」と推薦する。
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ヴァンセンヌの図書館で『鬼滅の刃』を持つマキシムさん

登場する女性キャラクターを評価する声もある。大学生のマリオンさん(20)は、主人公が男性の師匠(鱗滝左近次)についたあとで、女性たちの下(蝶屋敷)で訓練をするエピソードを引き合いに出す。

「一般的な少年漫画は強い女性の登場人物はあまりおらず、登場する女性はただかわいいだけだったり、ヒーローの恋の対象だったりと奥行きがありません。しかし『鬼滅の刃』に登場する女性たちは個性があり、役割があり、ストーリーで重要な位置を占めています。強いけれど女性用に刀が軽くなっているなど、リアリティーもありますね」(マリオンさん)

この世界に生まれたら自分はきっと善逸


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パリ市内の漫画カフェで『鬼滅の刃』はレジ前の一番いい場所で販売されている

フランスのファンは登場人物にどのような印象を持っているのか。日本では、2020年10月26日発売の『週刊少年ジャンプ 47号』にて発表された『鬼滅の刃』の最新キャラクター人気投票(第2回)によると、我妻善逸が1位だった。フランスでも、その愛されキャラは健在だ。

マリオンさんは「普段はこういうキャラは大嫌いです。弱くて、いつも文句を言っていて」と前置きしつつも、善逸に親しみを抱く。

「この世界に生まれたら自分はきっと善逸だと思う。シリアスなストーリーにどっぷりと浸り切っている時に、弱い善逸のおかげでテンションが落ち着くようなところがあります」(マリオンさん)

もちろん他の登場人物も人気がある。美大生のヴァディムさんは富岡義勇を「常に冷静で、とてもスタイリッシュ。初めて登場した時からミステリアスな存在感に惹かれた。しかも心優しく、人間として深みがあります」と推し、オギュスタンさんは嘴平伊之助を「野生児でシンプルな性格がまず好きですが、実は深いバックストーリーを持っている。その深さになおさらに惹かれます」と魅力を語る。

最初から23巻と分かっているのは購入者に対して親切


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パリ市内漫画カフェの閲覧スペースに陳列される『鬼滅の刃』

『鬼滅の刃』はすでに全話完結している。物語全体の長さについても、肯定的な意見が多かった。パリ市内で漫画カフェを経営するベンさんは言う。

「全23巻というのは短すぎず、長すぎもしない、ちょうどいいボリューム。少年漫画は40巻以上続くものもあって、ストーリーの展開の遅さが気になることもままあります。最初から23巻と分かっているのは、購入者に対して親切とも言えるでしょう」(ベンさん)
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パリ市内で漫画カフェを経営するベン・コルドヴァさん

マキシムさんも、人気少年漫画の長期連載になりがちな傾向と比較して、23巻という長さを「歓迎する」という。

「素晴らしい作品でも、膨大すぎると途中でファンが脱力してしまうことがあります。最近の作品は同じくらいのボリュームのものは多く、ファンは減力せずに最後まで思いきり没頭できます」(マキシムさん)

フランスではまだ「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」は公開はまだされていないが、日本と同じく大きな興業成績を残す可能性はあるのか。

「日本で記録的な大ヒットをしたことが伝えられているので、(フランスでも)多くのファンが待っています。劇場公開されればそのフィーバーぶりが大きな話題になるはずです」(ベンさん)

フランスでの『鬼滅の刃』人気は、まだこれから盛り上がっていく。

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