にじさんじ樋口楓 1stアルバム『AIM』まもなく発売「17歳の女子高生が感じることを等身大に」
人気バーチャルライバーグループ「にじさんじ」の創設メンバーで、バーチャル界を代表するシンガーでもある樋口楓。12月10日に後輩の戌亥とこのソロライブにゲスト参加。久々にリアルライブのステージに立つ

樋口楓が新曲11曲とメジャーデビュー曲を含む1stアルバムをリリース

2018年2月から活動を始め、リスナーとも友達感覚で接する飾らない性格や、パワフルな歌声などで人気を集めてきた、「にじさんじプロジェクト」所属のVTuber(バーチャルライバー)、“でろーん”こと樋口楓

【インタビュー後編】樋口楓 1stアルバム『AIM』まもなく発売「表現したいものを言葉にできるような強い人間になりたい」

2020年3月には、アニソンレーベルLantisからメジャー1stシングル『MARBLE』をリリースしてメジャーデビュー。そして、12月16日(水)には、新曲11曲と、『MARBLE』の表題曲を収録した1stアルバム『AIM』をリリースする。


エキレビ!では、VTuber界の音楽シーンのトップをひた走り、リアル世界との壁も突き破ろうとしている17歳のボーカリストにロングインタビュー。前後編の2回に分けて、収録曲の制作の経緯などを語ってもらった。

最初はカバー曲を収録したアルバムになると思っていた

──1stアルバム制作に関する話し合いなどは、いつ頃からスタートしていたのですか?

樋口 『MARBLE』のCDが出来上がった時から、「次、アルバムはどうしようか?」という話が始まりました。以前、ちらっと見せてもらった年間予定表的なものに、「カバーをするかも」みたいなことが書かれていたので、私は、1stアルバムはカバー曲を収録したものになると思い込んでいたんです。

でも、Lantisさんから「どんなクリエイターさんに頼みたい?」「どういうテーマのアルバムを作りたい?」と聞かれて、「カバーアルバムじゃなくて、イチから作ってもらえるんだ!」と驚きました(笑)。嬉しいサプライズでしたね。

──樋口さんの中には、「こんなアルバムにしたい」「こんなクリエイターさんにお願いしたい」といった希望やアイデアはすでにあったのですか?

樋口 まずは、(「MARBLE」の作曲・編曲を担当した)光増(ハジメ)さんが、またサウンドプロデューサーとして入ってくださることになって、すごく嬉しかったです。それで、Lantisさんから「光増さん以外で、曲を書いてもらいたい人がいたら教えて」と言われて。

本当にダメ元で、ナナヲアカリさんとか、YouTuberとして活躍されているみのさんとか、何度か「歌ってみた」の動画で曲を歌わせていただいたみきとPさんたちの名前を挙げていったんです。そうしたら、皆さんから良いお返事がいただけて。「え? 本当に?」みたいな驚きの連続でした(笑)。

──アルバムの全体の方向性については、どのように固まっていったのでしょうか? 

樋口 このご時世なので、Lantisのプロデューサーさんやディレクターさん、光増さんたちとはリモートで何度も会議をして。最初から「ロックってことは忘れたくないよね」といった話はしていました。


あと、「MARBLE」は、「VTuber樋口楓」の自己紹介みたいなニュアンスで、二次元と三次元の壁をなくしていこうという曲だったんですけれど。「今度はそこからどうしていこう?」「VTuberという立場で、どんなアルバムを出そう?」という話にもなっていきました。

私はVTuberなので、今後、年を取るかどうかはわからないですけれど、今の樋口楓は17歳の女子高生。だから、17歳の女子高生が感じることや、今、不安に思っていることを等身大に書いていきたいというお話をして、1曲1曲のテーマをみんなで一緒に練っていきました。

「アンサーソング」は、「22歳の樋口楓」がモチーフ

──ここからは、収録順に各曲についてのお話を聞かせてください。1曲目はアルバムのリードトラックでもある「アンサーソング」です。これは、作詞は平朋崇さん、作曲と編曲は光増さんという「MARBLE」と同じチームの楽曲ですね。

樋口 今年のゴールデンウィークに、5年後の私──「22歳の樋口楓」に手紙や動画でメッセージを送る配信をしたのですが、この曲は、その「22歳の樋口楓」をモチーフにした曲になっています。じつは曲自体は「MARBLE」のデモの時にできていたものというか、Lantisに入って一番最初にできた樋口楓の曲が、この「アンサーソング」になった曲なんですよ。

ただ、考えていたデビュー曲のテーマにあった曲調ではないなと思って、作り替えてもらってできたのが「MARBLE」の曲でした。でも、私も大好きな曲だったから、光増さんに「いつか絶対に、この曲を使わせてもらいます」と約束していたんです。それで、アルバム制作が始まった時、「前のデモ、残ってますか?」と聞いて。その曲が「アンサーソング」になりました。


にじさんじ樋口楓 1stアルバム『AIM』まもなく発売「17歳の女子高生が感じることを等身大に」
2020年4月30日の配信で、5年後の未来でも頑張っているはずの自分に向けてタイムカプセル的な手紙を書いた樋口。すると、翌日の5月1日には樋口のYouTubeチャンネルで謎の配信が始まり……

──その曲に、「22歳の樋口楓」をテーマにした歌詞を乗せたわけですね。

樋口 私の中で、ティーンズバンドの方たちって、どこか不安定な感じや、何をやってもやるせない気持ちをよく歌われている印象があって。そういうテーマと合いそうな曲調だなと感じていたので、これは、22歳の曲しかないなと思い、平さんに、そういうテーマの詞をお願いしました。

──先行して公開されたMV(『AIM』の完全生産限定盤、初回限定盤に収録)に関しても、樋口さんからイメージなどを伝えたのですか?

樋口 はい。バンドのMVで、日常的な映像の中にバンドのシーンが入っているものってありますよね。ああいうMVを作りたいなと思って。私の場合は、VTuberだから、三次元の身体のままではないので、(日常の中にいると)けっこう違和感とかもあるかなと思ったんですけれど、MVの制作チームの方が、「その違和感を前面に出したい」と仰ってくださって。すごく良い感じのMVになりました。

にじさんじ樋口楓 1stアルバム『AIM』まもなく発売「17歳の女子高生が感じることを等身大に」
バーチャルライバーとして活動しないまま22歳になった樋口の声から始まる『アンサーソング』のMV。制作を担当したのは、映画『STAND BY ME ドラえもん2』などで知られるCGアニメーション制作会社の白組

──リアルな日常の中に生きる樋口さんの姿からは、違和感以上に、強い存在感を感じました。ファンによる考察なども捗(はかど)りそうなMVになっていると思うのですが、自室のシーンで置かれている小物などにも、樋口さんのこだわりがあったりするのでしょうか?

樋口 私物が置いてあったりします。

──どれがそうなのか気になります! あと、屋外のシーンに関しては、ロケ地を探して聖地巡礼するファンもいそうです。

樋口 どこにでもある、ありふれた日常の中に樋口楓もいるんだよ、ということを伝えたかったので、なるべくどこで撮影したのかが特定されないような、よくありそうな場所を頑張って探してもらったんです。
でも、たぶん特定されるんだろうなあ(笑)。

「ステレオアイデンティティ」は両極端な葛藤を歌う曲

──次は、2曲目の「ステレオアイデンティティ」について聞かせてください。この曲も作曲は光増さんですね。

樋口 私は、トランペットを吹いているので、このアルバムの中で絶対にスカロックをやりたいと思っていたんです。それで「スカロック調の曲って、どんなのがあるだろう」という会議をしていた時、光増さんが「けっこう低音の効いた、ギターの強い曲とかどう?」という提案をしてくださって、できた曲です。

編曲に、ワイパ(DJ WILDPARTY)さんと、(彦田)元気さんが参加してくださっているのですが、二人ともにじさんじと縁のある方で。元気さんは(にじさんじ内のユニット)ド葛本社のオリジナルソング「Fam☆Fam☆Time!」の作曲をされていますし(名義はDJ Genki)。ワイパさんは、にじさんじのイベント(『にじさんじ Music Festival』)でDJをしてくださったりもしたので、今回のアルバムにも絶対に参加していただきたいという思っていました。アレンジのおかげで、ますますカッコいい曲になったと思います。

──1番のサビと2番のサビ(ラスサビ)では、同じ歌詞でもニュアンスを変えて歌っているのが印象的でした。

樋口 ラスサビは「思いっきり気持ちをぶつけよう」みたいな話を光増さんとしたので、たぶん、そういう感じで歌っていると思うんですけれど。最初の方は「L」と「R」で肯定的な自分と否定的な自分を歌っていて。VTuberをやって良かったなと思うことも、VTuberをしてなかったらどんな生活を送っていたんだろうと思うこともあるんですね。
そういうことって、人間なら誰もが抱える気持ちではあると思うんです。「この高校へ行ってなかったら」とか、「この仕事をしてなかったら」とか。

そういう両極端な思い、「L」と「R」の葛藤を歌う曲なので、最初は自分のことを認められないみたいな気持ちだったんだけど、歌っていくにつれて、どれも本当の私だから、少しでも自分のことを認めたいという思いも出てきて……。そういう気持ちが歌い方にも反映されているのかもしれません。

──この曲にも「22歳の樋口楓」的な要素が入っているのですね。

樋口 実際に、私のマインドがそうなんです。配信でも何度か話しているのですが、鏡に映っている自分自身と会話するのが好きで、たぶん自問自答をすることが人より多いから、そういった葛藤をすることも多いのかなと思います。

──樋口さん自身は、その時々によってポジティブな時もネガティブな時もあると思うのですが、鏡の中の「樋口楓」は常に一定のテンションやスタンスで話してくるのですか?

樋口 鏡の中の樋口楓は、常に全部、否定してきます(笑)。「本当にそれでいいの?」とか「冷静になってみなよ」とか、そういうことを言ってくれることが多くて。「調子乗ってたら、お前、いつか鼻を折られんで」みたいなことも言ってくるし、忠告役……ではないですけれど、「立ち止まって考えてみ?」っていう感じですね。

にじさんじ樋口楓 1stアルバム『AIM』まもなく発売「17歳の女子高生が感じることを等身大に」
『AIM』【完全生産限定版】には、CDに加えて、『アンサーソング』『FRONTIER』『MARBLE』のMVが収録されたBlu-rayDiscも同梱。さらに、『AIM』オリジナルグッズも付属している

結城アイラさんが私の心の奥底にある自分を表現してくださった

──3曲目の「Be Myself」は、Lantisの先輩アーティストでもある人気アニソンシンガーの結城アイラさんが作詞を担当しています。結城さんには、どのようなオーダーを伝えたのでしょうか?

樋口 時々、ポエムのようなものがふと降りてくることがあるんですけれど、それを文字に起こして結城さんにお渡ししました。メモ帳で10行くらいの本当に走り書きみたいなものだったんですけれど、そこから、この歌詞を書いてくださったんです。


この曲も葛藤のイメージが強くあるんですけれど、「ステレオアイデンティティ」が「認めてくれよ! 頼むよ!」みたいな気持ちなのに対して、この曲は「挑んでやる」という曲にしていただいた感じがします。

──そういう挑むような気持ちも、樋口さんの中にはあるということですよね。

樋口 自信のあることに対して、誰かからアドバイスをされた時、自分を強く否定されたと感じちゃうことがあるんですよ。負けず嫌いではないんですけれど……。そういうところも結城さんの詞の中に書かれているのかなと思います。

歌詞の中には、私がメモ帳に書いた単語も入れてくださっているんですけれど、<誰より見栄っ張りな臆病者でも進むんだ>というフレーズは、結城さんが私の心の奥底にある強がりな自分を表現してくださっていて。すごく共感したのですが、恥ずかしくもありました(笑)。

──4曲目の「FRONTIER」も、作詞が平さん、作曲・編曲が光増さんというコンビの曲ですね。アニメのオープニングのような強い曲だなと感じました。

樋口 「FRONTIER」は、今回のアルバム制作で最初にレコーディングをした曲です。樋口楓が樋口楓を応援する曲というか、自分自身を勇気づけるような詞を平さんに書いていただきました。

応援する曲って、めちゃくちゃ広い範囲に向けて、その中の誰かにその思いが伝わればいい、と考えて作る時もあると思うんですけれど。
この曲に関しては、私を中心にした半径10メートルくらいの小さな輪の中にいる人たちや、自分自身に勇気をつけてもらえたらという思いで作った曲です。

あと、ラップを歌いたかったので、入れてもらえて嬉しかったですね。女性がラップを様になるように歌うのって、すごく難しいと思うのですが、光増さんからは「叫ぶような感じでいいよ。それが今後の樋口さんのラップになっていくから」と言ってもらえて。今の私にできる強いラップというか、思いを吐き出すようなラップを入れていきました。

──5曲目の「Q」は、樋口さんもデュエットの歌ってみた動画を公開している「ロキ」(&月ノ美兎)や、「PLATONIC GIRL」(&ロボ子さん)などの曲で知られる人気ボカロPのみきとPさんの曲ですね。

樋口 可愛い曲も、おしとやかな曲も、カッコいい曲もどんな曲でも作れる方なので、今回はロックな曲でお願いできたらな……と思ったら、作っていただけるというお返事をいただけて。案の定、めちゃくちゃカッコよくて、嬉しかったです。

──作詞・作曲・編曲のすべてをみきとPさんが手掛けている曲ですが、詞などに関して、やりとりはあったのでしょうか?

樋口 最初に、みきとPさんや光増さんと通話をする機会があって、みきとPさんも、VTuberの私と同じようにネットで活動を始めた方なので、インターネットに対して思うことを書いてもらいたいとお願いしました。

今は、私と同年代の子たちでも、簡単にSNSを使用して自分の意見を発信できる世の中ですけれど。ありがたいことに私のフォロワーさんが増えて影響力が大きくなると、簡単に物事を言えなくなる。それって、ちょっと生きづらいことだよね、といった話をみきとPさんとしたんです。

みきとPさんとは、ネットで活動するという共通点があったからか、共感していただけることがすごく多くて。アイデンティティがまだあまり確立していない17歳で、そういう思いを抱くことに対しての思いなどを曲や詞にしていただきました。

──VTuberのことを歌っている歌詞という印象も強く感じました。

樋口 インターネットを通しての自分と、リアルを生きている自分の違いというか。そこのギャップで生まれる思いも書いていただいた気がします。最後に「この魂はフィクションか?」というフレーズもあったりして。

どちらも自分自身のことなんですけれど、VTuberというか配信活動している時や、音楽活動をしている時に、みんなに見せている綺麗な部分だけを取り繕いながら生きていけるわけがなくて。何かを言われてツラかったり、イラッとすることもあるし、みんなが観ている樋口楓がすべてではない。私に限らず、そう思っている人はいるんだよ、ということを伝えたかったんです。

【インタビュー後編】樋口楓 1stアルバム『AIM』まもなく発売「表現したいものを言葉にできるような強い人間になりたい」

アルバム情報

『AIM』
2020年12月16日発売

【完全生産限定盤】CD+BD+グッズ
LACA-35845 / ¥6,000(税抜)
【初回限定盤】CD+BD
LACA-35846 / ¥4,200(税抜)
【通常盤】CD
LACA-15846 / ¥3,000(税抜)

[CD]
1. アンサーソング
作詞:平朋崇(FirstCall)/作曲・編曲:光増ハジメ(FirstCall)
2. ステレオアイデンティティ
作詞:宮嶋淳子/作曲:光増ハジメ(FirstCall)/編曲:DJ WILDPARTY、彦田元気
3. Be Myself
作詞:結城アイラ/作曲・編曲:山本玲史
4. FRONTIER
作詞:平朋崇(FirstCall)/作曲・編曲:光増ハジメ(FirstCall)
5. Q
作詞・作曲・編曲:みきとP
6. アブノーマルガール
作詞・作曲:ナナヲアカリ/編曲:加藤祐介
7. TOBI-DERO!
作詞:金子麻友美/作曲:光増ハジメ(FirstCall)/編曲:EFFY(FirstCall)
8. たこ焼きロック
作詞・作曲・編曲:みの
9. mimi
作詞:ぽん(ORESAMA)/作曲・編曲:伊藤 賢
10. 現代社会、ヒロインは!
作詞:安藤紗々/作曲:光増ハジメ(FirstCall)/編曲:PandaBoY
11. Victory West!
作詞:樋口楓/作曲:ZAQ/編曲:EFFY(FirstCall)
12. MARBLE
作詞:平朋崇(FirstCall)/作曲・編曲:光増ハジメ(FirstCall)

[BD]※完全生産限定盤、初回限定盤のみ
1. アンサーソング -Music Video-
2. FRONTIER -Music Video-
3. MARBLE -Music Video-

Lantis公式サイト樋口楓特集ページ
https://www.lantis.jp/artist/kaede_higuchi/

(C)BANDAI NAMCO Arts Inc. c2017-2020 Ichikara Inc.

Writer

丸本大輔


フリーライター&編集者。瀬戸内海の因島出身、現在は東京在住。専門ジャンルは、アニメ、漫画などで、インタビューを中心に活動。「たまゆら」「終末のイゼッタ」「銀河英雄伝説DNT」ではオフィシャルライターを担当した。にじさんじ、ホロライブを中心にVTuber(バーチャルYouTuber)の取材実績も多数。

関連サイト
@maru_working
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