『おちょやん』第3週「うちのやりたいことて、なんやろ」

第15回〈12月18日 (金) 放送 作:八津弘幸、演出:梛川善郎〉

朝ドラ『おちょやん』けろっと現れたテルヲに大映ドラマの石立鉄男を思い出す15回 オクレさんはチラッと
イラスト/おうか
※本文にネタバレを含みます

いや「なんで、なんでいてるんや」て!

「なんで、なんでいてるんや」

【前話レビュー】千代(杉咲花)は恩返しがしたかった――『半沢直樹』かよ!

待ち合わせの場所にいるシズ(篠原涼子)に驚く早川延四郎(片岡松十郎)。視聴者的には、延四郎こそ「なんでいてるんや」だ。14回でどうっと倒れた彼はかなり深刻そうな雰囲気だったから。


その気配を微塵も感じさせず、さわやかな二枚目な雰囲気を振りまく延四郎。朝ドラ名物幽霊? かと半信半疑でドラマを凝視する。

シズと延四郎は、穏やかに楽しく、20年間の空白を埋めていく。20年前、駆け落ちまで考えたものの、シズは岡安を選び、待ち合わせの場所に行かなかった。それでよかったのだと、お互い言い合うふたり。

その頃、岡安は、てんやわんや。

チエちゃん

団体客相手に大わらわ。本来ならご寮人さんが中心になるところを、みんなでがんばって、シズに悔いなく延四郎と会ってもらっているのだ。千代のことを「チエちゃん」と間違って呼ぶ酔った客にいらっとしながらも「へえ」とにっこりあしらう千代。

と、そこに訪ねてきたのは――

女優・高城百合子、別れのつらさ

高城百合子(井川遥)は舞台から活動写真に転身する決心をして、千代に会いに来たが、忙しそうなのでそのまま帰る。ハナ(宮田圭子)にだけ見送られて。

身ひとつさえあれば芝居はできると、小ぶりなバッグひとつ提げて、ふらりと道頓堀の喧騒から離れていくとき、ふと口ずさむ「カチューシャの唄」。これは、史実では「人形の家」の翻訳と演出をした島村抱月が作詞し、松井須磨子が歌った当時のヒット曲(大正3年)。

高城百合子はこの松井須磨子がモデルかと思って見ていたが、そうではなさそう。
『おちょやん』では島村と松井の不倫話は、軽めにシズと延四郎のほうで描いたようだ。妻子ある島村と松井は恋に落ち、周囲のそしりを受けながらも、ふたりで劇団を結成、演劇活動に邁進していく。こういう後悔しない生き方もあれば、『おちょやん』の百合子やシズのような後悔しない生き方もある。

ちんどん屋が、百合子を見送るように演奏をはじめる。「今日は別れの日やな」と熊田(西川忠志)が言うように、15回はたくさんの別れが描かれた。

「カチューシャかわいや」をBGMにして去りゆく百合子、シズと延四郎、そして、千代は、お客さんが「ヨシヲ」と呼んだ声に、別れた弟・ヨシヲ(荒田陽向)を思い出す。

1カ月後、驚きの報告がもたらされた。

朝ドラ『おちょやん』けろっと現れたテルヲに大映ドラマの石立鉄男を思い出す15回 オクレさんはチラッと
写真提供/NHK

最後の大芝居

延四郎が死んだ。12月28日、鶴亀興行の大山社長から報告を受けるシズ。延四郎は病を抱えながら引退公演を済ませ、シズと会って、それから息を引き取った。

会っているときは、「あいかわらず板の上以外では芝居がへたくそやな」 と笑っていたシズだったが、延四郎は最後に鮮やかに芝居をして去っていったのだ。千代がシズに延四郎に会ったほうがいいと渾身で説得したことは功を奏した。あれがなかったら、本当に大後悔するところだった。


みつえ(東野絢香)、宗助(名倉潤)、ハナ、みんな、複雑な顔で聞いている。とくに、ハナがキセルを吸いながらふーっとした顔をしているのが印象的。女性がカッコよくたばこを吸うのは『おしん』の渡辺美佐子を思い出す。

「最後の最後にすっかり騙されてしもうたがな」とひとり涙するシズ。しっとりしたいいエピソードであった。

そして、再会

年明け、年季明け。大正14年、数えで18歳になった千代は改めて岡安で働く気になったところ、どんどんどんと耳障りな戸を叩く音。うるさい戸を叩く音は不吉な知らせであることは、物語あるある(例:『マクベス』など)。

千代が戸を開けると、父・テルヲ(トータス松本)が立っていた。

酔った客が千代の名を「チエ」と間違う不快感から、なつかしい名前「ヨシヲ」に反応して、そこからの父テルヲ(飲んだくれ)の登場、という見事な構成だった。1週間を1本と捉えて、途中、いろいろあっても、クライマックスできれいに纏めるように書いている印象。

テルヲの役割って

余談も余談だが、けろっとしているテルヲを見て、古いドラマで恐縮だが大映ドラマ『少女になにが起こったか』(85)の石立鉄男を思い出した。彼は0時になると現れて、ヒロイン(小泉今日子)を「薄汚いシンデレラ」と呼ぶ、最悪なキャラクターを演じていた。いやなやつなんだが、クセになる、ある種の人気キャラだった。
テルヲもこんな感じで、しょっちゅう出てきて千代の邪魔をするんじゃないかと思って、いやな気もしつつ、ちょっとわくわく。


朝ドラ『おちょやん』けろっと現れたテルヲに大映ドラマの石立鉄男を思い出す15回 オクレさんはチラッと
写真提供/NHK

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■杉咲花(竹井千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
■名倉潤(岡田宗助役)プロフィール・出演作品・ニュース
■篠原涼子(岡田シズ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■宮田圭子(岡田ハナ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■西川忠志(熊田役)プロフィール・出演作品・ニュース
■トータス松本(竹井テルヲ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■楠見薫(かめ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■土居志央梨(富士子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■仁村紗和(節子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■中村鴈治郎(大山鶴蔵役)プロフィール・出演作品・ニュース
■井上拓哉(富川福助役)プロフィール・出演作品・ニュース
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番組情報

連続テレビ小説『おちょやん

【放送予定】
2020年11月30日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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