『おちょやん』第4週「どこにも行きとうない」
第17回〈12月22日 (火) 放送 作:八津弘幸、演出:盆子原誠〉

「娘の身ぃ売り飛ばさな」って……
大正14年、数えで18歳になった年季明け、迎えに来た父・テルヲ(トータス松本)を激しくどやしつけながらも、内心、嬉しさも感じていた千代(杉咲花)。継母の栗子(宮澤エマ)も出ていって、弟のヨシヲ(荒田陽向)とまた3人で暮らせるかもと思うと、やっぱり心は騒ぐのだろう。【前話レビュー】トータス松本演じる父テルヲが卑しくてしょうもない…そこに男前・成田凌
だが、テルヲは借金を抱えていて、借金取りから「娘の身ぃ売り飛ばさな」と言われていた。
一方、千代はテルヲに、ヨシヲが病気だから家に帰って看病してほしいと頼まれ、実家への思慕をますます強くする。
16回のレビューにも書いたが、何度でも書きたい。テルヲはホントたちが悪い。ヨシヲの病気は絶対うそ。楽させると栗子を騙して結婚したのと同じやり口だろう。その場その場で口当たりのいいことを言ってその気にさせる。なまじ、一見、それほど悪い顔――たとえば千之助(星田英利)のような渋い顔ではなく、愛嬌のある二枚目ふうなので、ほだされてしまうのだ。繰り返すが、テルヲ、たち悪すぎる。千代、騙されないで〜〜と思ったところ、救世主が。
一平、ひと肌脱ぐ
心配した一平が千代にやんわり本当のことを隠して助言するが、千代は反発。仕方なく、一平はテルヲを止めにいく。「あんたみたいなあほな親見てたら我慢できへん」
一平は、自身の父が、酒浸りで振り回されていたから、同じような(もっと悪い)父親を見ると許せないのだろう。実の父には言えなかった分、テルヲに当たれるという利点(?)もある。
酒場でふたりが揉めているところに、千代がやってきて、テルヲの本心を知って、ショックを受ける。怒りと哀しみのないまぜであろう。
なんとか身売りの危機から逃れたかと思ったのもつかの間、借金取り・赤松(さけもとあきら)が仲間を引き連れ、岡安に客としてやってきて、いやがらせをはじめる。おおこわ。怯える岡安の人たち。黒一点の旦那・宗助(名倉潤)はまったく頼りにならないなか、毅然と立ち向かう千代だったが……。
ろくでもない料理屋とは
テルヲは千代に「料理屋」に働きに出てほしいと言うが、一平は「どうせろくでもない料理屋やろ」と指摘。「ろくでもない料理屋」とは……、要するに、料理も出しつつ、女性が男性客に接待を求められる店であろう。
こういう職種が朝ドラで描かれることは初めてではない。むしろ、戦前戦後を描く朝ドラでは、やんわりと描かれることがよくある。
『カーネーション』では、ヒロイン(尾野真千子)の友人(栗山千明)が戦後パンパンに。『べっぴんさん』のヒロイン(芳根京子)の学友(滝裕可里)は戦後、アメリカ人相手の水商売で生活の糧を得る、などなど……貧しさゆえ女性性を売り物にして生きざるを得ない状況が折につけ描かれてきた。
『なつぞら』のヒロイン(広瀬すず)の妹(清原果耶)は戦災孤児だったが置屋に引き取られた。彼女の場合、そこで芸事は身につけながら、芸妓の仕事はしていないような曖昧な描き方になっていた。
たいてい、主人公と対比させる形で、女性の哀しい生き方のひとつとして描かれるが、『おちょやん』では主人公自身がその道に進む危機を描いているところが画期的。

「あかん!」
「千代ちゃん、そいつら中いれたらあかん」黒衣(桂吉弥)が叫ぶ。
借金取りが岡安にいやがらせして、千代をろくでもない料理屋に売って借金返済に当てようとしているに違いない。柄の悪い人たちに身震いがする。
『おちょやん』の世界、朝ドラにしては猥雑すぎるのも画期的。板尾創路と星田英利の対立なんかも、荒くれ者の香りがたちこまれている。
「千代ちゃん、そいつら中いれたらあかん」と叫んだとき、状況を見守り解説する役割を担っている黒衣が岡安の玄関の木彫りのたぬきの声のようになっていた。
ヨシヲはどうした?
『おはよう日本関東版』では高瀬耕造アナがヨシヲの消息を心配。「いい子にそのまま育ったか、はたまたその逆なのか。注目はヨシヲです」と、昭和の漫才師のように右手をアクティブにしながら語り、「出るのか?」と桑子真帆アナは半信半疑。離れ離れのきょうだいといえば、前述の『なつぞら』のなつと千遥。戦後、兄と3人(もうひとり、友人も)浮浪児として生活していたら、警察がやってきて、皆、ばらばらに。その後、なつは北海道で幸福に育ったが、千遥は苦労して……。でもグレることなくしっかりした娘さんに育っていてホッとしたものだった。さて、ヨシヲはどうなっているか。
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■杉咲花(竹井千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
■成田 凌(天海一平役)プロフィール・出演作品・ニュース
■名倉潤(岡田宗助役)プロフィール・出演作品・ニュース
■篠原涼子(岡田シズ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■宮田圭子(岡田ハナ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■西川忠志(熊田役)プロフィール・出演作品・ニュース
■トータス松本(竹井テルヲ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■星田英利(須賀廼家千之助役)プロフィール・出演作品・ニュース
■板尾創路(須賀廼家万太郎役)プロフィール・出演作品・ニュース
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■大川良太郎(漆原要二郎役)プロフィール・出演作品・ニュース
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■井上拓哉(富川福助役)プロフィール・出演作品・ニュース
■三戸なつめ(竹井サエ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■桂吉弥(黒衣役)ニュース
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番組情報
連続テレビ小説『おちょやん』【放送予定】
2020年11月30日(月)~
<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
作:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami