2021年1月に公開され、話題となっている映画「銀魂 THE FINAL」。
大人気シリーズのこの作品を「法律家の目線」で見るとどうなるのか。
桂小太郎は「危険人物」!?
――前編(※関連記事参照)では銀さん・新八・神楽の3人についてお伺いしましたが、後編ではそれ以外の登場人物の法的解釈についてお聞きできればと思っています。
まずは今回の映画のキーパーソンの一人・桂小太郎について。ペットのエリザベスといつも一緒にいたり、愛称が「ヅラ」だったりして忘れがちですが、実は指名手配された「危険人物」とされていますよね。
いまの日本の法律でいうと「国の統治機構を破壊する」などの目的を持って暴動を起こすというのは刑法に定める内乱罪に当たり罰則がありますし、実際にやらなくても準備をしていれば罰則があります。
桂さんの場合、やろうとしていることはこの内乱罪だと思いますね。
――作中では桂はボケ担当なので考えてみたこともなかったですね……。
内乱罪の首謀者は「死刑」か「無期禁錮」になるので、かなりの重罪ですね。ただその分定義はかなり厳しくて先ほど説明した目的が必要です。
歴史の教科書に載っている五・一五事件のような事件でも内乱罪にはなっていないので、本当に、「幕末」のような切羽詰まった状況でないと出てこないような違反ですね。
――銀魂の話とは思えないぐらい真剣な話になって驚いています。ちなみに、桂とよく行動をともにしている銀さんも罪に問われたりするのでしょうか?
銀さんはあまりやる気がないので大丈夫だと思います。
内乱罪は、共犯者についてもかなり厳しく判断します。
銀さんには桂さんのような国に関わる大きな目的はないですし、一緒にいたからといって銀さんも内乱罪で捕まるわけではないです。
――もう1人、映画でも重要な役どころとして出てくる高杉晋助という過激派の人物がいるのですが、彼の場合はどうでしょうか?
高杉さんは桂さんと目的を共有し鬼兵隊なども作っているので内乱罪かその予備だと思いますよ。
――なるほど、最初から銀魂らしくない重い話をありがとうございます! あとは、彼らの師匠で今回の映画のカギとなる吉田松陽という人物がいます。彼の中にいる別人格の「虚(うつろ)」が今回の事件を起こすのですが、こういった「自分とは別の人格が違法行為をした」というときはどうなるのでしょうか?
難しいですが、刑事責任を負うためには責任能力が必要です。自分自身の行動を善悪に従って制御する能力ですね。
実際は医師の意見によると思いますが、松陽さんは虚さんの行動を簡単には止められなかったはずなので、責任はないんじゃないかなと思います。
――なるほど、そう聞くとかなり安心して映画を観られそうでよかったです!
真選組のメンバーは問題だらけ!?
――次に真選組メンバーについてお聞きしたいんですが、まずは局長の近藤勲さんがお妙さんという女性をずっと追いかけ回している件について聞きたいです。
あれはつきまとい行為ですね。「ストーカー行為等の規制等に関する法律」(ストーカー規制法)に関わります。
――そんな気がしてました……。
嫌がっているのにつきまとったり、交際の申込みをすると違反になって、刑罰になることもあります。
――なるほど、お妙さんにいますぐ伝えたい事実です。
マヨネーズにこだわることに関する法はないですけど、いやがる相手にマヨネーズを強要すると損害賠償請求を受けることはありえるだろうと思います。マヨネーズで大きな問題を起こすのは避ける必要があるでしょう。
――わかりました! ほかに真選組といえば沖田総悟さんという人物がいるんですが、彼は副長になるために土方さんに嫌がらせをしている描写が(かなり)あります。
沖田さんは確か土方さんに呪いをかけようとしていたと思いますが、呪いだけなら法律的には問題ないです。
ただ実害のある「嫌がらせ」だと問題が2つあって、ひとつは組織の秩序を乱していることですね。組織によっては「規律違反」になる可能性があります。
もうひとつは、組織に関係なく「人格権」の侵害です。悪口をいって名誉を傷つけるとか、プライバシーを侵害するといったことがあるのなら、人格権の侵害として損害賠償義務を負うことになるかもしれません。
――真選組の抱える、バラエティ豊かな法的問題が知れてよかったです。
話題になった“終わる終わる詐欺”、問題ないのか?
――では最後に、作者の空知英秋先生についてもお聞きしたいです。これまで何度も〆切を破ってきたようですが、〆切って踏み倒しても法的に問題ないんでしょうか?
契約の問題なので許してもらえるなら大丈夫だと思います。あまりにもひどかったら怒られるとは思うんですけど。
――なるほど。
いいんじゃないですかね。金銭的な損害が生じたわけでもないですよね?
――あ、『さよなら、銀魂。最終回の向こう側へ。』公式サイトにて「集英社は経費をこんなに使いました!」というネタバレ漫画は出ています……。
そうなんだ……。
ケースでいうとずっと「閉店セール」をやっているお店に近いと思います。
閉店セールの場合、「著しく有利であると一般消費者に誤認される表示」によって買う側の「自主的かつ合理的な選択を阻害する」ようであれば「不当景品類及び不当表示防止法」(景品表示法)違反になるんですが、銀魂はこれに当てはまらないんじゃないかと思います。
――ファンのみんなはずっと銀魂のこと好きで漫画を読んで、みんな観たくて映画を観ていたから、ということですね。
そうですね。映画もおもしろかったです。
――いろいろありましたが最後は安心できる結論でよかったです(笑)。今日はありがとうございました!
作品情報
映画『銀魂 THE FINAL』大ヒット上映中!
原作:空知英秋(集英社ジャンプコミックス刊)
監督/脚本:宮脇千鶴
監修:藤田陽一
声の出演:杉田智和、阪口大助、釘宮理恵 ほか
アニメーション制作:BN Pictures
配給:ワーナー・ブラザース映画
コピーライト:(c)空知英秋/劇場版銀魂製作委員会
■まいしろ
社会の荒波から逃げ回ってる意識低めのエンタメ系マーケターです。
Twitter:https://twitter.com/_maishilo_
note:https://note.mu/maishilo